瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
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相模集から
仲春
  なにか思ふなにをか嘆く春の野に君よりほかに菫つませじ(相模集)
【通釈】何を思い煩うのです。何を歎くのです。春の野で、あなた以外の人に菫を摘ませたりしません。
【補記】自分自身を菫に譬え、男に対する一途な思いを強い調子で歌っている。治安三年(1023)、「はじめの春」から始めて四季歌と雑歌からなる百首歌。
子をねがふ
  光あらむ玉の男子をのこご見てしがな掻き撫でつつも生おほしたつべき(相模集)
【通釈】光かがやく玉のような男の子をお授けくださいな。心から愛しみながら育てられるような男の子を。
【補記】夫の公資と共に任国の相模国に住んでいた作者は、治安三年(1023)正月、箱根権現に参詣し、百首歌を奉納した。夫との仲は思わしくなく、さまざまな悩みを抱えていた時期であった。その時の一首。
うれへをのぶ
  いづれをかまづ憂へまし心にはあたはぬことの多くもあるかな(相模集)
【通釈】どれから最初に悩めばよいのか。心には、思い通りにゆかないことが、なんて沢山あるのだろうか。
【語釈】◇憂(うれ)へまし 心配しようか。「まし」は反実仮想の助動詞と呼ばれるが、このように疑問の助詞「か」と共に用いられた時は、迷いの気持を表わす。◇あたはぬこと 能わぬこと。なし得ぬこと。思うようにゆかぬこと。
【補記】これも上の歌と同じく箱根権現に奉納した百首歌。以下の三首も同様。
心のうちをあらはす(二首)
  しのぶれど心のうちにうごかれてなほ言の葉にあらはれぬべし(相模集)
【通釈】いくら堪え忍んでも、思いというものは、心の中で動くのはとめられなくて、やっぱり言葉にあらわれてしまうものなのだろう。
【補記】単に内心を詠んだ、というのではなく、心と言葉の関係をめぐる省察そのものを歌にしている。以前の和歌になかった姿勢と言える。
  手にとらむと思ふ心はなけれどもほの見し月の影ぞこほしき(相模集)
【通釈】手に取ろうと思う気持はないけれども、かすかに見た月の光が恋しくてならないのだ。
【補記】初句「てにとらむ」、第二句「と思(も)ふこころは」であって、初句が字余りなのではない。
ゆめ
  いつくしき君が面影あらはれてさだかにつぐる夢をみせなむ(相模集)
【通釈】凜として美しいあなたの御姿が現れて、はっきりと良きことを告げる夢を見せてほしい。
【補記】同題の一つ前の歌「寝(ぬ)る魂(たま)のうちにあはせしよきことをゆめゆめ神よちがへざらなむ」からすると、「君」は神を指すか。前の歌と切り離して「君」を恋人と解すれば、恋人と逢う予知夢を願った歌とも取れる。この場合、「つぐる夢」とは「逢えることを予告する夢」の意であろう。

※平安中期を代表する女性歌人相模(さがみ)、その女房名は夫の大江公資(おおえのきんすけ きんより)が相模守(さがみのかみ)だったことに由来します。赴任する夫とともに相模に下って数年を過ごしていますが、その間に箱根権現(=箱根神社)に百首歌を奉納したことが家集『相模集』に記されています。
 心ならずも東路(あずまじ)に下って三年も経ったので由緒あるところを見ておこうと箱根に詣でたとあり、信心ではなく観光気分で参詣したことがわかります。
 時は治安(じあん)三年(1023年)正月。相模は旅宿でのつれづれに思いつくまま百首をしたため、「社のしたにうづませ」ました。寺社へ和歌を奉納するのはめずらしくありません。しかし相模の場合は、驚くべき展開が待っていました。その年の四月十五日、権現からの返事だといって百首の和歌が届けられたというのです。


 


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目高 拙痴无
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1932/02/04
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くたばりかけの糞爺々です。よろしく。メールも頼むね。
 sechin@nethome.ne.jp です。


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