檜扇を詠める歌21
巻16-3805:ぬばたまの黒髪濡れて沫雪の降るにや来ますここだ恋ふれば
巻16-3844:ぬばたまの斐太の大黒見るごとに巨勢の小黒し思ほゆるかも
◎この歌には「左注」がついています。
左注:右謌者、傳云有大舎人土師宿祢水通、字曰志婢麿也。於時大舎人巨勢朝臣豊人、字曰正月麿、与巨勢斐太朝臣(名字忘之也 嶋村大夫之男也)兩人、並此彼皃黒色焉。於是、土師宿祢水通作斯謌咲者。巨勢朝臣豊人、聞之、即作和謌酬咲也
注訓:右の謌は、傳へて云はく「大舎人土師宿祢水通(みみち)といへるあり、字(あざな)を志婢麿(しびまろ)と曰ふ。時に、大舎人巨勢朝臣豊人(とよひと)、字を正月麿(むつきまろ)と曰へると巨勢斐太朝臣(名(な)字(あざな)は忘る。 嶋村大夫の男(をこと)なり)との兩人(ふたり)、並(とも)に此(これ)彼(それ)の皃(かほ)黒色なり。ここに、土師宿祢水通この謌を作りて咲ふ。巨勢朝臣豊人、これを聞きて、即ち和(こた)ふる謌を作りて酬(こた)へ咲(わら)ふ」といへり。
注訳:右の歌は伝えて云うには「大舎人の土師宿祢水通と云う者がいた。字を志婢麿と云った。ある時、大舎人の巨勢朝臣豊人、字を正月麿と云う、と巨勢朝臣斐太(名と字は忘れた、嶋村大夫の息子である)との二人、共にどちらともに顔の色が黒かった。そこで、土師宿祢水通がこの歌を作って笑った。巨勢朝臣豊人がそれを聞いて、そこでその歌に応える歌を作って応酬して笑った」という。
◎飛騨地方の万葉歌です。元々はこの地方を表すのに「斐太」あるいは「斐陀」の字が当てられていました。「ぬばたま」は黒にかかる枕詞。『続日本記』の記録には702(大宝2)年に斐太国が神馬を献じたとあります。この歌にある大黒というのがその馬のこと。文武天皇がこれを瑞祥として天下に大赦を行ったのを機に「飛騨」の文字になったといいます。ただ、この歌は巨勢豊人(こせのとよひと)という二人の友人を「小黒」と呼んで揶揄した戯笑歌です。二人とも相当色が黒かったようです。ただし、豊人さんはやられたらしっかりやり返しています。
原文:造駒 土師乃志婢麿 白尓有者 諾欲将有 其黒色乎
よみ:訓読 駒造る土師(はじ)の志婢麿(しびまろ)白にあば諾(うべ)欲(ほ)しからむその黒色(くろいろ)を
訳:埴輪の駒を造る土師の志婢麿よ。埴輪の駒が白いので、なるほど欲しいだろう。埴輪の駒を塗る、その黒色を。
※土師水通(はじの みみち、生没年不明)
奈良時代の官吏。大舎人。天平2年(730)大宰帥(だざいのそち)大伴旅人がもよおした梅花の宴でよんだ歌や、同僚の巨勢豊人(こせの-とよひと)らの色がくろいことをからかった歌などが、「万葉集」巻4,5、16にあわせて4首おさめられています。字(あざな)は志婢麻呂(しびまろ)。名は御道とも書きます。
※巨勢豊人(こせのとよひと、生没年不明)
奈良時代の官吏です。大舎人(おおとねり)をつとめました。同僚の土師水通(はじの-みみち)に顔がくろいことを歌でからかわれ、ただちにきりかえした歌が「万葉集」におさめられています。字(あざな)は正月麻呂(むつきまろ)。
巻17-3938:かくのみや我が恋ひ居らむぬばたまの夜の紐だに解き放けずして
※平群女郎(へぐりのいらつめ、生没年未詳)
系譜等未詳。平群氏は大和国平群郡平群郷(奈良県生駒郡平群町)付近を本拠地とした豪族で、武内宿禰の後裔氏族と伝わります。姓は初め臣、天武十三年(684)以後朝臣。大伴家持の傍妻あるいは恋人でした。
巻17-3955:ぬばたまの夜は更けぬらし玉櫛笥二上山に月かたぶきぬ
※土師道良(はじの-みちよし、生没年不明)
奈良時代の官吏。天平18年(746)越中守大伴家持の館でひらかれた宴席でよんだ歌1首が「万葉集」巻17におさめられています。このとき越中(富山県)の史生(ししょう)であったといいます。
ウェブニュースより
ペースXの宇宙船打ち上げ成功、星出さん搭乗 ―― 日本人宇宙飛行士の星出彰彦さんが搭乗する米スペースXの新型有人宇宙船「クルードラゴン」が23日、打ち上げられた。民間の宇宙船として機体を初めて再利用した。低コストで人が宇宙を往復できるようになり、宇宙の産業利用が加速する。
米東部時間23日午前5時49分(日本時間同日午後6時49分)、米南部フロリダ州のケネディ宇宙センターから星出さんら4人が乗った新型船が飛び立った。所定の軌道に機体を投入し、打ち上げは成功した。24日朝(日本時間同日夜)に国際宇宙ステーション(ISS)に到着し、半年間滞在する。
クルードラゴンの有人飛行は2020年5月、同11月に続いて3回目。今回の「運用2号機」は最初の試験飛行で使った機体だ。起業家のイーロン・マスク氏が設立したスペースXはロケットの一部も再利用する。民間主導で低コストの輸送技術を確立した。
星出さんの宇宙飛行は3回目。ISSでは長期滞在中の野口聡一さんと対面する。日本人飛行士2人が同時に宇宙に滞在するのは11年ぶりとなる。
スペースXは21年中にもクルードラゴンを使って民間人のみの宇宙飛行を計画する。企業が運用する宇宙船を再利用しつつ、安全性も確保できれば、有人宇宙飛行の新たな市場が広がる。
米国は11年のスペースシャトル退役以来、宇宙飛行士の輸送をロシアに頼った。自前の輸送手段を再び確保し、さらに月面の有人探査も狙う。バイデン政権は企業の技術力やノウハウを活用し、有人宇宙開発を巡る中国との競争を優位に進めたい考えだ。
【日本經濟新聞 2021年4月23日 19:07 (2021年4月24日 5:12更新)】
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