漢字は機械的に教えられるものではありません。覚えるものであり、悟るものです。言葉は文章の中に作品の中にあるものです。その息吹のままその語を捉えることです。文字だけを切り離して教えようとするのは、暗号を覚えさせるのと同じで、初めから無理な話なのです。
漢字記憶法とか漢字教育法などというもので問題を解決しうると考えるのは基本的には誤りなのであります。記憶法とか教育法とかいうものには便宜的なものが多いのです。
親=立木のそばで見まもる親 放=木の枝で向こう方へ追っ払う 原=がけ下の泉が原っぱに流れる 配=酒つぼが割れないか心配 字=家で子どもが字を書く 安=家の中の女は安全 切=刀で七つに切る 和=禾(米)を食べられる平和な時代 知=知ったことを矢つぎばやにいう
これらは学業不振児のために作られたものといいますが、どれも便宜的な説法にすぎません。便宜的な説法ならばなるべくなるべく字形解釈に触れない形式のほうがまだしもと思われます。
業=タテタテチョンチョン、ヨコチョンチョン、ヨコヨコヨコのタテチョンチョン 寒=ウサンタテタテハッチョンチョン
また、分解的方法では 朝=十月十日 壽=士のフエは一吋(インチ) のように覚えます。いわゆる離合です。
江戸期には先日のブログで述べたように「歌字尽(うたじづくし)」のようなものが行われましたが、この方法は新しく試みられることもあります。
尸部の 尾、尻、尿、屍、屁 「毛は尾にて 九は尻(しり)なれば 水尿(いばり) 死ねば屍(かばね)ぞ 比ぶるは屁ぞ」
攵部の 政、故、救、改 「正しきは 政(まつりごと)なり 古き故 救(すくひ)求めて 己(おのれ)改たむる」
正しい字説を児童に理解させるのは困難なことです。しかし字を覚えさせるために、誤りを教えてもよいという道理はありません。
白川静先生は「正しい字形教育を阻害しているのは、ほかならぬあの新字表である」と仰っています。
たとえば、「器」「臭」「戻」「突」「類」の「大」の部分は元「犬」でした。「大」よりも「犬」の方が、成り立ちがよく分かります。
器:口が4つ + 犬
口はさまざまな容器を表す。犬は種類の多いものの代表として加えた。
儀式に使ういろいろな器を並べたさま。犬は器を清めるための犠牲の犬。 (白川説)
臭:自 + 犬
自は鼻の形。犬の鼻は臭いをよく嗅ぎ分ける。
戻:戸 + 犬
暴犬が戸内に閉じ込められ暴れるさま→逆らう、もどる。
玄関の下に悪霊よけのために埋められた犬。悪霊を追い返す→もどす。 (白川説)
突:穴 + 犬
穴の中から急に犬がとび出すさま→つく。
かまどの穴に犠牲の犬を供えるさま。かまどから煙を出すための煙突→つきでる、つく。 (白川説)
類:米 + 犬 + 頁
米は、たくさんの植物の代表。犬は、種類の多い動物の代表。頁は、あたま。多くのものの頭かずをそろえて、区わけすることをあらわす。
頁は、儀礼のときの衣冠を整えた姿。米と犬の犠牲を供え、礼装して拝む形。常例の祭りににせた臨時の祭礼→にせる、るいする。 (白川説)
白川説の大きな特徴は、犬を儀式の犠牲としている所であります。事実、古代中国の遺跡からは、犠牲に捧げられた犬の骨が多く見つかっています。
白川氏は著書「常用字解」の中で、「犬」が「大」になったことについて、次のように仰っています。
「今の常用漢字の字形は、犬を大に変えて臭としているが、臭は大きな鼻の意味となり、においという意味にはならない。ほかにも、常用漢字では器、突、類、戻としているが、伏、就は大に変えていない。常用漢字の字形には、このように字の構造や意味を理解できないように変えてしまっている場合がある。」
sechin@nethome.ne.jp です。
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |