瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
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源氏物語 12 須磨より
 月いと明うさし入りて、はかなき旅の御座所、奥まで隈なし。床の上に夜深き空も見ゆ。入り方の月影、すごく見ゆるに、
 「ただ是れ西に行くなり」
と、ひとりごちまいて、
 「いづ方の雲路に我も迷ひなむ月の見るらむことも恥づかし」
とひとりごちたまひて、例のまどろまれぬ暁の空に、千鳥いとあはれに鳴く。
 「友千鳥諸声に鳴く暁はひとり寝覚の床も頼もし」
 また起きたる人もなければ、返す返すひとりごちて臥したまへり。

現代語訳
 月がたいそう明るく差し込んで、仮そめの旅のお住まいでは、奥の方まで素通しである。床の上から夜の深い空も見える。入り方の月の光が、寒々と見えるので、
「ただ月は西へ行くのである」
と独り口ずさみなさって、
 「どの方角の雲路にわたしも迷って行くことであろう月が見ているだろうことも恥ずかしい」

と独詠なさると、いつものようにうとうととなされぬ明け方の空に、千鳥がとても悲しい声で鳴いている。
 「友千鳥が声を合わせて鳴いている明け方は  独り寝覚めて泣くわたしも心強い気がする」
 他に起きている人もいないので、繰り返し独り言をいって臥せっていらっしゃった。


 

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1932/02/04
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 sechin@nethome.ne.jp です。


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