瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
[2001] [2000] [1999] [1998] [1997] [1996] [1995] [1994] [1993] [1992] [1991]

 荘子の天下篇に、次のような一文があります。

 堯觀乎華。華封人曰、嘻、聖人。請祝聖人、使聖人壽。堯曰、辭。使聖人富。堯曰、辭。使聖人多男子。堯曰、辭。封人曰、壽富多男子、人之所欲也。女獨不欲何邪。堯曰、多男子則多懼、富則多事、壽則多辱。是三者非所以養德也。故辭。
 封人曰、壽富多男子、人之所欲也。女獨不欲何邪。
 堯曰、多男子則多懼、富則多事、壽則多辱。是三者非所以養德也。故辭。
(読み下し文)
 堯(ぎょう)、華(か)に観(あそ)ぶ。華の封人曰く、嘻(ああ)、聖人なり。請(こ)う、聖人を祝し、聖人をして寿(いのちなが)からしめん、と。尭曰く、辞す、と。聖人をして富しめん、と。尭曰く、辞す、と。聖人して男子多からしめん、と。尭曰く、辞す、と。
 封人曰いわく、寿と富と男子多きとは、人の欲する所なり。女(なんじ)独り欲せざるとは何ぞや、と。
 堯曰く、男子多ければ則(すなわ)ち懼(おそ)れ多く、富めば則ち事多く、寿(いのちなが)ければ則ち辱(はじ)多し。是の三者は徳を養やしなう所以に非ざるなり。故に辞す、と。
(訳)
 堯があるとき華という地方へ出かけた。その華の関守の役人が堯に言った。「おお、聖人よ、どうか私に聖人であるあなたを祝福させてください。聖人の長寿を祈りましょう」 すると堯は言った。「おことわりします」
「それでは聖人の富が増えるように祈りましょう」「いいえけっこうです」
「それでは聖人に男の子が多く恵まれるように祈りましょう」「それもおことわりします」
 関守の役人は言った。「長寿を保つことと、富が増えることと、男の子が多く授かることは、人がみな望むことなのに、あなただけが望まれないのはいったいどういうわけなのですか?」
 堯は言った。「男の子が多ければそれだけ心配の種も増え、富が増えればそれだけ面倒なことも多くなり、長寿を保てばそれだけ恥を残すことも多くなります。この3つのものは徳を養うにはなんの役にも立たないものです。だからお断りしたのですよ」

 長生きをすれば、「恥」が多くなるのは止むを得ないことです。だからといって、自分の命は自分ではどうすることも出来ません。開き直って、長生きをすれば「恥」が多くなるのは当然のことだととらえて、一層前向きに生きていくことよりほかにしようがないのです。まっこと、恥さらしもいいところですね。
 兼好法師も徒然草7段で次のように言っています。

 あだし野の露きゆる時なく、鳥辺山の烟立ちさらでのみ住みはつるならひならば、いかにもののあはれもなからん。世はさだめなきこそいみじけれ。
 命あるものを見るに、人ばかり久しきものはなし。かげろふの夕を待ち、夏の蝉の春秋を知らぬもあるぞかし。つくづくと一年を暮らすほどだにも、こよなうのどけしや。あかず惜しと思はば、千年(ちとせ)を過(すぐ)すとも一夜(ひとよ)の夢の心地こそせめ。
 住み果てぬ世に、みにくき姿を待ちえて何かはせん。命長ければ辱(はじ)多し。長くとも四十(よそじ)に足らぬほどにて死なんこそ、めやすかるべけれ。
 そのほど過ぎぬれば、かたちを恥づる心もなく、人に出でまじらはん事を思ひ、夕の陽(ひ)に子孫を愛して、栄(さか)ゆく末を見んまでの命をあらまし、ひたすら世をむさぼる心のみ深く、もののあはれも知らずなりゆくなん、あさましき。
 訳)
 あだし野の露が消える時なく、鳥辺山の煙がいつまでも上がり続けるように、人生が永遠に続くものならば、どうしてもののあはれなど、あるだろう。人生は限りがあるからこそ、よいのだ。
 命あるものを見れば、人間ほど長生きするものは無い。かげろうが朝生まれて夕方には死に、夏の蝉が春や秋を知らない例もあるのだ。しみじみ一年を暮らす程度でも、たいそうのんびりした時を過ごせるものであることよ。
 満足できない。もっともっとと思ったら、千年を過ぎても一夜の夢の心地がするだろう。どうせ永遠には生きられない世の中に、長生きした末に醜い姿を得て、それが何になるだろう。
 長生きすると恥も多くなる。長くても四十未満で死ぬのが見苦しくないところだ。
 そのあたりの年を過ぎると、醜い容貌を恥じる気持ちも無くなり、人に交わることを欲して、老いさらばえて子孫を愛して、子孫が立身出世する末を見届けるまでは生きよう、などと期待し、ひたすら世をむさぼる心ばかり深く、もののあはれもわからなくなっていく。あさましいことだ。


 


この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
URL
コメント
パスワード Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
プロフィール
ハンドルネーム:
目高 拙痴无
年齢:
92
誕生日:
1932/02/04
自己紹介:
くたばりかけの糞爺々です。よろしく。メールも頼むね。
 sechin@nethome.ne.jp です。


小冊子の紹介
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新コメント
[m.m 10/12]
[爺の姪 10/01]
[あは♡ 09/20]
[Mr.サタン 09/20]
[Mr.サタン 09/20]
[ままだいちゅき 09/20]
[ままだいちゅき 09/20]
[ままだいちゅき 09/20]
[爺 09/20]
[ままだいちゅき 09/20]
最新トラックバック
ブログ内検索
カウンター
Powered by ニンジャブログ  Designed by ゆきぱんだ
Copyright © 瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り All Rights Reserved
/