瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
[1999] [1998] [1997] [1996] [1995] [1994] [1993] [1992] [1991] [1990] [1989]

 9日10日の連休を利用して、福岡の甥Haruki君が長女のEriちゃんを連れて婆様の見舞いに来てくれました。


 
 福岡からわざわざ上京、浅草の今半の「すき焼き弁当」を土産の来訪でした。お持たせの「すき焼き弁当」で昼食にしながら話が弾みました。

 今日は九十九髪の歌が出ている伊勢物語六十三をみてみましょう。

 むかし、世心つける女、いかで心なさけあらむ男にあひ得てしがなと思へど、いひいでむもたよりなさに、まことならぬ夢がたりをす。子三人を呼びて語りけり。ふたりの子は、なさけなくいらへてやみぬ。三郎なりける子なむ、「よき御男ぞいで来む」とあはするに、この女、けしきいとよし。

 こと人はいとなさけなし。いかでこの在五中将にあはせてしがなと思ふ心あり。狩し歩(あり)きけるにいきあひて、道にて馬の口をとりて、「かうかうなむ思ふ」といひければ、あはれがりて、来て寝にけり。

 さてのち、男見えざりければ、女、男の家にいきてかいまみけるを、男ほのかに見て、
 百年(ももとせ)に一年(ひととせ)たらぬつくも髪われを恋ふらしおもかげに見ゆ
とて、いで立つけしきを見て、うばら、からたちにかかりて、家にきてうちふせり。男、かの女のせしやうに、忍びて立てりて見れば、女嘆きて寝とて、
 さむしろに衣かたしき今宵もや恋しき人にあはでのみ寝む
とよみけるを、男、あはれと思ひて、その夜は寝にけり、世の中の例として、思ふをば思ひ、思はぬをば思はぬものを、この人は思ふをも、思はぬをも、けぢめ見せぬ心なむありける。

訳)昔、いい男と男女の関係になりたいと思っていた女が、どうにかして情の深い男と一緒になりたいものだと思っていたが、言い出すついでも無かったので、嘘の夢語りをする。子供三人を呼んで語った。二人の子はそっけなく答えて終わった。三男であった子が、「よい殿方があらわれるでしょう」と話をあわせたので、この女はたいそう機嫌がよくなった。
 三男は思った。他の人はとても情が深いなどと言えない。どうにかして、例の在五中将と母を逢せてやりたいと心に思っていた。在五中将が狩をしてまわっている所に三男は行き合って、道で馬の口をひきとどめて「こういうふうに、貴方をお慕いしています」と言ったところ、在五中将は深い情を感じて、女の家に来て寝たのだった。
 さてその後、男の訪れも絶えてしまったので、女は男の家に行って物の隙間から覗いてみると、男はちらっと女の姿を見て、
 あと一歳で百歳という九十九歳のおばあさんが、私を恋い慕っているらしい。その姿が幻に見える。
と言って、女の家に出発する様子を見て、女は茨、からたちが引っ掛かるのも構わず、自分に家に帰ってうち伏せていた。男は女がしたように、こっそりと訪ねて行って物の隙間から覗いて見れば、女は嘆いて寝ようとして、
 筵(むしろ)に衣の片方の袖だけをして、私は恋しい人に逢うこともなく、今夜も一人さびしく寝るのでしょうか。
と詠んだのを、男は哀れに思って、その夜は一緒に寝たのだった。男女の間の常として、自分を思う相手を思い、思わない相手を思わないものだが、この人は自分を思う相手も、思わない相手も、わけへだてなく扱う心を持っていたのだった。


 


 


この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
URL
コメント
パスワード Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
プロフィール
ハンドルネーム:
目高 拙痴无
年齢:
92
誕生日:
1932/02/04
自己紹介:
くたばりかけの糞爺々です。よろしく。メールも頼むね。
 sechin@nethome.ne.jp です。


小冊子の紹介
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新コメント
[m.m 10/12]
[爺の姪 10/01]
[あは♡ 09/20]
[Mr.サタン 09/20]
[Mr.サタン 09/20]
[ままだいちゅき 09/20]
[ままだいちゅき 09/20]
[ままだいちゅき 09/20]
[爺 09/20]
[ままだいちゅき 09/20]
最新トラックバック
ブログ内検索
カウンター
Powered by ニンジャブログ  Designed by ゆきぱんだ
Copyright © 瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り All Rights Reserved
/