Hēraklēs(ヘーラクレース)の第4の難行はArcadia(アルカディア)地方Erymanthos(エリュマントス)に棲む猪を生け捕りにすることでした。この猪は山から下りてきてはPsophis(プソピス)町に害を与えていたのです。 ヘーラクレースは途中でアルカディア西部にあるPholoe(ポロエ)山を通ったとき、Pholos(ポロス)と知り合い世話になります。 彼はSeilēnos(セイレノス)とトリネコの木のNymphē(ニュンペー)Melias(メリアス)との子といわれ、Kentauros(ケンタウロス)族でした。
※ Kylix(キュリックス):二つの大きな取っ手のついた平らな皿の下に脚台をつけた杯
ケンタウロス族は生肉を食べる習慣だったのですが、わざわざヘーラクレースのために肉を焼いて接待してくれました。酒癖のよくないヘラクレスは、気分が良くなってくると、わがまま放題に酒が呑みたいと騒ぎ出すのでした。
「酒のフタをあけると他のケンタウロスたちがやってくるから、止めたほうがいいですよ。」
「ケンタウロスがなんでぇ~い。」
「ケンタウロスを甘く見ないほうがいいですよ。ホントに彼らは酒を飲むとタチ悪くなりますから。」
「大丈夫だって、ちょっとだけちょっとだけ。」
そういって勝手にふたを開けて酒を飲み始めたヘーラクレースでしたが、案の定、酒の匂いにつられて他のケンタウロスたちが集まってきました。
「なんだ、お前は。なに勝手にここで酒を飲んでいるんだ。」
「まあそういきり立つなよ。俺はヘーラクレースだ。お前は?」
「Anchios(アンキオス)だ。」
「Agrios(アグリオス)という。それは俺達の酒だぞ。ポロスも勝手にこんな人間に俺達の酒を出すなよ!」
「ケチくせーやつらだな。うるせぇからあっちに行けよ。」
ヘーラクレースは燃え木を彼らに投げつけたのです。そして大喧嘩が始まってしまいました。 しかしどれだけの人数をしてもヘーラクレースにはかないません。ケンタウロスたちはMalea(マレア、Pelopónnisos〈ペロポネーソス〉半島南部)方面に逃げ出します。
※ Odilon Redon(オディロン・ルドン):19世紀~20世紀のフランスの画家。印象派の画家たちと同世代てすが、その作風やテーマは大いに異なっています。光の効果を追求し、都会生活のひとこまやフランスのありふれた風景を主な画題とした印象派の画家たちに対し、ルドンはもっぱら幻想の世界を描き続けたといいます。
マレアには、Pelion(ペリオン)山を出てそこに居を構えていた賢人Cheirōn(ケイローン)がいるのです。 ヘーラクレースが追いながら射た矢がElatos(エラトス)の腕を射抜き、 そのままCheirōn(ケイローン)の膝に刺さってしまいました。
「先生、大丈夫ですか!?」
当惑しながらヘーラクレースはケイローンの元へ走りより、急いで矢を抜きます。そしてケイロンの持っていた傷薬を塗ったのですが、全く効き目はありません。 ヘーラクレースが以前倒したHydrā(ヒュドラー)の血は強力で、 医術に長けているケイローンでさえ治すのは不可能だったのです。
ケイローンはあまりの激痛に死を望みますが、彼自身が不死身の体でしたので死ぬことすらできません。 そのため、この能力をPromētheus(プロメーテウス)に与えてこの世から去り、苦痛から逃れることができたのでした。この時にケイローンの不死の力を受け入れてもらうために、ヘーラクレースがカウカーソス山に縛り付けられていたプロメーテウスを解放したとされています。この後、ケイローンの死を惜しんだゼウスは、彼を射手座にしたということです。
結局ケンタウロスたちはこのマレア山に居座ることになり、Poseidōn(ポセイド-ン)の庇護を受けてEleusis(エレウシス)山中に住まうものもいました。 他のNessos(ネッソス)はヘラクレスを怨みつつEuēnos(エウエノス)河で川渡しをして生計を立てることにし、Eurytion(エウリュティオン)はポロエ山に戻りました。 あとを追ってきたポロスは毒矢を取り上げてしげしげとながめていたのですが、つい手が滑って自分の足に刺して命を落としてしまいます。 ヘーラクレースは彼をポロエに葬り、エリュマントスへ向かいます。
エリュマントスに到着したヘーラクレースはさっそく猪を発見。まず大声を出して茂みからおびき寄せて追いかけました。 深い雪の中で足を取られた人食いの怪物大猪は、瞬く間にヘーラクレースに捕らえられてMykēnai(ミュケナイ)に連れて行かれたのでした。
ヘーラクレースのattribute(アトリビュート)
添付の甕の絵はギリシャ神話においてヘーラクレースが猪を生け捕りにして、Eurystheus(エウリュステウス)へ献上したというエピソードに由来します。ヘーラクレースが猪を担いでいるモチーフです。同じようにライオンや牡牛もヘーラクレースのアトリビュートとされることがあります。本作品では、右の男性が甕の中に入っていますが、これはヘーラクレースが猪をエウリュステウスに献上した際に、王がおびえて青銅の甕の中に逃げ込んだということが由来となっているのです。
※ attribute(アトリビュート):西洋美術において伝説上・歴史上の人物または神話上の神と関連付けられた持ち物。その物の持ち主を特定する役割を果たします。持物(じぶつ)ともいいます。
sechin@nethome.ne.jp です。
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