⑨天狗の火(御前崎市)
昔、文吉という若者が漁師をしている千吉の家に遊びに行きました。時間はすぐに過ぎ、帰りは真っ暗になりました。文吉が帰り支度と整えていると、千吉は今朝取れたばかりの魚をお土産に渡しました。文吉が魚をこしらえ海岸沿いを歩いていると、はるか向こうの山から青い光が飛んできました。それを天狗だと思った文吉は急いで小舟に身を潜め、千吉からもらった魚を放り投げました。しばらくすると両目をえぐり取られた魚が砂の上にありました。
…といった物語です。御前崎のみならず、静岡県各所に天狗の火の伝説はあるそうです。
⑩能満寺のソテツ(吉田町片岡、能満寺)
大阪の妙国寺のソテツ、静岡市清水区の龍華寺のソテツとともに、日本のソテツの三名木と呼ばれており、1924年(大正13年)、国の天然記念物に指定されました。1000年頃、陰陽師として有名な安倍晴明が、能満寺に植えたと伝えられています。
能満寺のソテツには次のような2つの言い伝えがあります。
大蛇とソテツ:安倍晴明が大井川を流れて来た大蛇を見つけ、これを葬り、その上にソテツを植えました。すると、ソテツは、大蛇の精をうけて大きく大蛇のような姿になりました。そこで、晴明は、人々に害を与えないように、大蛇の精を封じたと言われています。
泣いたソテツ:駿府城にいた徳川家康が、ある時、能満寺を訪れ、ソテツのみごとさに驚いて、どうしてもソテツをほしくなりました。家康の頼みに、住職も仕方なくソテツを掘り起こし、船に乗せて駿府城へと運びこみました。すると数日後の夜から、毎夜、城の庭で人の泣く声がするようになりました。調べてみると、「能満寺へ帰りたい。能満寺へ帰りたい。」とソテツが泣いていることがわかりました。家康は、かわいそうなことをしてしまったと思い、仕方なく、またソテツを能満寺へ送り返したといいます。
⑪無間の鐘(掛川市東山、粟ヶ岳)
粟ヶ岳のふもとに弘道仙人という山伏が住んでいました。山伏は不動明王に鐘をつくって供えることにしました。できあがった小さな釣鐘を粟ヶ岳の頂上付近にある観音寺の松の木に吊るし、願ったそうです。
「この鐘の音で、人々が平和に暮らせますように」
鐘の音は山頂から広く広く響き渡り人々の心を癒しました。
粟ヶ岳は別名、無間山とも呼ばれていたので、その鐘は無間の鐘と呼ばれるようになったそうです。いつしかこんな噂が立ち始めました。
鐘を1度つけば災難をまぬがれる。 鐘を2度つけば病気が治る。
鐘を3度つけば家が栄える。 鐘を4度つけば出世する。
鐘を5度つけば子孫まで栄える。 鐘を6度つけば武運長久となる。
鐘を7度つけば末永く長者になれる。
この噂はあっという間にひろがり、各地から鐘をつくために多くの人が押し寄せたそうです。
しかしそこは細く険しい山道です。足を滑らせ谷底に落ちる人。虫や山蛭、蛇に遭い怪我を負う人。中には、富や名声を願うあまり勢いよく鐘をついたせいで、岩場から足を滑らし死んでしまった人もいました。
観音寺の和尚様は悲しみました。せっかく人々の幸せを願って作られた鐘が、人々を惑わしてしまっている。罪深い人間が不幸を招いていることはわかっているが、これは弘道仙人の意に反している・・・。もうこの鐘は無くしてしまった方がいい。
そうして釣鐘を取り外し、深い井戸の底に埋めてしまいました。その井戸は鐘を埋めてからというものの、水が全く出なくなり、無間の井戸とよばれるようになりました。
⑫柳井戸(浜松市北区引佐町)
むかし、井伊谷(現北区引佐町井伊谷)に兵藤宗十所有の井戸がありました。
直径3尺(約90cm)の円形で、地下6尺(約1.8m)ばかりのところに水がありました。この付近には柳の木などありませんでしたが、この井戸をのぞくと水底に柳の影が映っていると言われ、遠州七不思議の一つに数えられています。
現在、柳井戸があった場所は区画整理され、井戸はなくなっており、標識など場所を確認できる表示も無いそうです。場所は県道303号線神宮寺交差点の近隣とのことです。
⑬晴明塚(掛川市大渕)
静岡県掛川市大渕にある塚です。平安時代の陰陽師安倍晴明にまつわるもので遠州七不思議のひとつに数えられます。
横須賀町(現:掛川市)は市の沿岸部に存在し、しばしば津波の害に襲われました。ある時京で名高い陰陽師安倍晴明がこの地を訪れ、村人に請われて祈祷をしました。その際、あずき色の石を積み重ねたといいます。その祈祷の甲斐あってかこの地では以後津波の害がなくなったと言われます。現在では津波の他に疫病も防いでくれると伝わります。疫病除けの願をかけて赤または小豆色の石を塚からひとつもらってきてお守りとし、もしも願がかなったなら、二つの赤い石を塚に戻すとよいといいます。どんな色の石を持ってきてもあずき色に変わるとの伝承があります。
sechin@nethome.ne.jp です。
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