瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
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葦を詠める歌8
15-3625:夕されば葦辺に騒き明け来れば沖になづさふ.......(長歌)
標題:古挽歌一首[并短歌]
標訓:古き挽歌一首并せて短歌
原文:由布左礼婆 安之敝尓佐和伎 安氣久礼婆 於伎尓奈都佐布 可母須良母 都麻等多具比弖 和我尾尓波 之毛奈布里曽等 之路多倍乃 波祢左之可倍弖 宇知波良比 左宿等布毛能乎 由久美都能 可敝良奴其等久 布久可是能 美延奴我其登久 安刀毛奈吉 与能比登尓之弖 和可礼尓之 伊毛我伎世弖思 奈礼其呂母 蘇弖加多思吉弖 比登里可母祢牟
       万葉集 巻15-3625
     作者:遣新羅使の丹比大夫(たじひのまえつきみ)
よみ:夕されば、葦辺(あしへ)に騒き、明け来れば、沖になづさふ、鴨(かも)すらも、妻とたぐひて、我が尾には、霜(しも)な降りそと、白栲(しろたへ)の 羽さし交()へて、うち掃(はら)ひ、さ寝とふものを、行く水の 帰らぬごとく、吹く風の、見えぬがごとく、跡(あと)もなき 世の人にして、別れにし、妹(いも)が着せてし、なれ衣 袖片(そでかた)敷きて、ひとりかも寝む

意訳:夕暮れになると葦辺で騒ぎ、明け方になると沖に漂う鴨(かも)でさえも妻といっしょにそろって、尾には霜(しも)が降らないようにと、白い羽を交わして払って寝るというのに、流れ行く水が帰ってこないように、吹く風が見えないように、はかないこの世の人として別れてしまった妻が着せてくれた、着慣れた衣をひとつだけ敷いてひとりぼっちで寝るのです。
左注:右丹比大夫悽愴亡妻歌
注訓:右は、丹比大夫の亡(みまか)りし妻を悽愴(いた)むる歌
遣新羅使の丹比大夫(たじひのまえつきみ)について、色々と調べてみましたが、よくわかりません。
15-3626:鶴が鳴き葦辺をさして飛び渡るあなたづたづしひとりさ寝れば

16-3627:朝されば妹が手にまく鏡なす御津の浜びに.......(長歌)
標題:属物發思歌一首并短歌
標訓:物に属()きて思(おもひ)を發(おこ)せる歌一首并せて短歌
原文:安佐散礼婆 伊毛我手尓麻久 可我美奈須 美津能波麻備尓 於保夫祢尓 真可治之自奴伎 可良久尓々 和多理由加武等 多太牟可布 美奴面乎左指天 之保麻知弖 美乎妣伎由氣婆 於伎敝尓波 之良奈美多可美 宇良末欲理 許藝弖和多礼婆 和伎毛故尓 安波治乃之麻波 由布左礼婆 久毛為可久里奴 左欲布氣弖 由久敝乎之良尓 安我己許呂 安可志能宇良尓 布祢等米弖 宇伎祢乎詞都追 和多都美能 於枳乎見礼婆 伊射理須流 安麻能乎等女波 小船乗 都良々尓宇家里 安香等吉能 之保美知久礼婆 安之辨尓波 多豆奈伎和多流 安左奈藝尓 布奈弖乎世牟等 船人毛 鹿子毛許恵欲妣 柔保等里能 奈豆左比由氣婆 伊敝之麻婆 久毛為尓美延奴 安我毛敝流 許己呂奈具也等 波夜久伎弖 美牟等於毛比弖 於保夫祢乎 許藝和我由氣婆 於伎都奈美 多可久多知伎奴 与曽能末尓 見都追須疑由伎 多麻能宇良尓 布祢乎等杼米弖 波麻備欲里 宇良伊蘇乎見都追 奈久古奈須 祢能未之奈可由 和多都美能 多麻伎能多麻乎 伊敝都刀尓 伊毛尓也良牟等 比里比登里 素弖尓波伊礼弖 可敝之也流 都可比奈家礼婆 毛弖礼杼毛 之留思乎奈美等 麻多於伎都流可毛
            万葉集 巻15-3627
          作者:不明
よみ:朝されば 妹が手にまく 鏡なす 御津¹の浜びに 大船に 真楫(まかぢ)しじ貫き 韓国(からくに)に 渡り行かむと 直(ただ)(むか)敏馬(みぬめ)
²をさして 潮待ちて 水脈(みを)引き行けば 沖辺(おきへ)には 白波高み 浦みより 漕ぎて渡れば 我妹子に 淡路の島³は 夕されば 雲居隠りぬ さ夜更けて ゆくへを知らに 我が心 明石の浦⁴に 舶(ふね)()めて 浮寝をしつつ わたつみの 沖辺(おきへ)を見れば 漁(いさ)りする 海人(あま)の娘子(をとめ)は 小舟乗り つららに浮けり 暁の 潮満ち来れば 葦辺には 鶴(たづ)鳴き渡る 朝なぎに 船出をせむと 船人も 水手(かこ)も声呼び にほ鳥の なづさひ行けば 家島⁵は 雲居に見えぬ 我が思へる 心なぐやと 早く来て 見むと思ひて 大船を 漕ぎ我が行けば 沖つ波 高く立ち来ぬ 外(よそ)のみに 見つつ過ぎ行き 玉の浦⁶に 船を留めて 浜びより 浦(うら)(いそ)を見つつ 泣く子なす 音のみし泣かゆ わたつみの 手巻の玉を 家づとに 妹に遣らむと 拾(ひり)ひ取り 袖には入れて 返し遣る 使(つかひ)なければ 持てれども 験(しるし)をなみと また置きつるかも


意訳:朝ともなると、あの子がいつも手に取る鏡、その鏡を見るという御津の浜辺で、大船の舷に櫂をいっぱい取り付け、遠い韓国に渡って行こうと、真向かいの敏馬を目指して、潮時を見計らい水路を乗って漕いで行くが、沖の方には白波が高く立っているので、浦伝いに漕ぎ進んで行くと、いとしい子に逢うという淡路の島は、夕方になって雲の彼方に隠れてしまった。やがて夜も深くなって行く先の目当てもつかないままに、我が心は明るいという名の明石の浦に船を停めて波の上に浮寝をしんがら、海の神の統べ給う沖の方を見やると、こんな夜更けに漁をするのか、海人娘子たちは、小舟に乗って点々と浮かんでいる。そのうちに明け方の潮が満ちてくると、葦の生えているあたりには鶴が鳴き渡って行く。この朝凪のうちに船出をしようと、船長も水手たちも掛け声を合わせて、かいつぶりのように波にもまれて行くと、心待ちにしていた家にちなみの家島は雲の彼方に見えて来た。この家恋しい心もなごみもしようかと、早く辿り着いて家島を見たいと思いながら大船をわれらが漕いで行くと、あいにく沖の波が高く立ってきて遮る。やむなく遠くから見るばかりで通り過ぎ、玉の浦に船を停めて、その浜辺から家島の浦や磯の方を見はるかしていると、家恋しさにまるで泣く子のようにおいおいと泣けてくる。せめて海の神様が腕飾りにするという玉、この浦にちなみのその得がたい玉を家づとにしてあの子に送ってやろうと、拾い取ってまずは袖に入れてはみたものの、都に帰してやる使いの者もないので、持っていても役には立たないと、また元どおりに放ったらかしてしまった。


 

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目高 拙痴无
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1932/02/04
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くたばりかけの糞爺々です。よろしく。メールも頼むね。
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