詩経の記載予定を変更して、今朝の朝日新聞の「科学欄」から転写する。
右利き・左利きの謎 生物の進化・生存競争にも影響 ―― 圧倒的に多数の人が右利きだけれど、左利きの人もいる。なぜなのかは、実はあまり分かっていない。人間だけではない。右利きと左利きの謎はいろんな生物でみられる。研究者は、生態学や進化学、分子生物学など様々な角度から、このナゾを解こうとしている。/富山大の水生動物室には、シクリッド科の熱帯魚約80匹が小分けされた水槽で泳いでいる。竹内勇一助教(神経行動学)が水槽の一つに1匹の金魚を入れると、金魚の後ろから何度も襲撃し、鱗(うろこ)を食べ始めた。/よく見ると、この魚が襲うのは金魚の左側面ばかりだ。「このシクリッドは左利きです」と竹内さんは説明する。/アフリカ中部タンガニーカ湖に生息するシクリッドには、別の魚の鱗を食べる種類がいる。竹内さんを指導した堀道雄・京都大名誉教授は1993年、この湖の鱗を食べる全ての魚には右利き、左利きがあり、うち1種類は、右利きの個体が多い時期と、左利きが多い時期を繰り返していることを米科学誌に発表した。/鱗を食べるシクリッドは左右のあごの形が違い、片方側に開きやすい構造をしていて、遺伝もする。右利きが多いと、餌となる魚は右後ろを警戒するようになる。すると、左利きのシクリッドがたくさん餌を捕れて栄養状態が良くなり、多くの子孫を残せる。その結果、左利きが増えるというわけだ。/竹内さんはこの魚を輸入し、捕食行動を詳しく調べた。利きと違う側からの襲撃では失敗が増えることや、利き側から襲う体勢をとりやすい側によく体が曲がることを突き止めた。/どんなしくみでこの利きがコントロールされているのか。竹内さんは脳の神経細胞「マウスナー細胞」に注目し、神経レベルでの反応を調べている。「僕らが持っている左右の利きを考えるとき、神経が制御するという面からのヒントがこの魚から出てくるはず」
■右利きヘビ仮説を証明: 右と左の不思議な関係はヘビとカタツムリの間にもある。カタツムリの殻の巻き方は種によって右か左かが決まっている。実際には圧倒的に右巻きが多いので、カタツムリを餌とするヘビは右巻きが食べやすいように適応して「右利き」になる――。そんな仮説に10年間取り組んできたのが京都大白眉(はくび)センターの細将貴特定助教(進化生物学)だ。/細さんは、日本では石垣島と西表島にしか生息せず、カタツムリを主食としているイワサキセダカヘビに着目。標本を丹念に調べると、右の歯が左より数が多かった。米国の博物館から同じ科に属するヘビの骨格標本を取り寄せて調べても、やはり右の歯が多かった。/右巻きのカタツムリを食べるとき、ヘビは左右のあごを別々に動かし、殻の奥に逃げ込んだカタツムリを引きずり出す。右巻きなら、ぎっしり並んだ右の歯でしっかり食いしばり、左の歯を奥に差し込んで引きずり出す。その際、ヘビは顔の右側を必ず上にしてかみつく。/この「右利き」ヘビがいる地域では、左巻きの種が属するカタツムリのタイプが多い傾向にあった。ヘビの捕食から逃れやすかったために、右巻きから左巻きへと進化してきたと説明できる。細さんはこうして「右利きのヘビ仮説」を証明した。「ヘビとカタツムリにはすばらしい進化のストーリーがあった」と話す。
■養殖カレイ、目が両側に: では、生物の体の中では何が右と左を決めているのだろうか。左ヒラメに右カレイ。食卓の常識は、養殖してみると思わぬ結果を生む。高級魚「ホシガレイ」は天然には身の右側面に二つの目があるが、養殖すると3~4割ほどが左側面に二つの目があったり、両側面にそれぞれ目があったりする。/東北大の鈴木徹教授(魚類発生学)はヒラメとカレイの左右の謎に取り組んできた。ヒラメやカレイは稚魚のころは左右両側に目があるが、成長するにつれて、目が片方の側に移動していく。/鈴木さんは、内臓の位置を決めるのに関係する「ノダル経路」と呼ばれる複数の遺伝子の相互作用に注目。人工的に育てると、成長とともにノダル経路が働かなくなるホシガレイがいた。/人工的に飼育するとホルモンバランスが崩れ、ノダル経路の働きが阻害されるとみて、養殖で正常なホシガレイになるように実験を重ねている。/人間は約9割が右利きだ。その理由は分かっていないが、ノダル経路が効いている可能性を示唆する論文が今年9月、米科学誌プロスジェネティクスに掲載された。鈴木さんは「人間の脳にもノダル経路がある可能性は十分ある。実際には機能していると考えれば、うまく説明できるかもしれない」と話す。 〔朝日新聞DIGITAL 2013年10月28日05時00分〕
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