橘(たちばな)を詠める歌3
巻6-1009:橘は実さへ花さへその葉さへ枝に霜降れどいや常葉の木
◎葛城王は敏達天皇の子孫で本来は皇族でしたが、母親の姓である「橘」を受け継ぐことを願い出て許され、以後は臣下に下って橘諸兄(たちばなのもろえ)と称しました。この時、佐為王(さゐのおほきみ)や、葛城王の子である奈良麿たちもみな橘姓になったようです。この歌はそんな橘諸兄たちに天皇が贈った祝いの御製歌です。
「橘は実までも花までもその葉までも、枝に霜が降りてもますます常緑の樹だ」とは、まさに「橘」という新しい姓を賜った者たちを祝う目出度い一首です。「橘(たちばな)」は現在でいう蜜柑類の総称のことで、この時代には常世の樹として珍重されていたようです。
この後、橘諸兄は左大臣に累進し、藤原四兄弟が天然痘で相次いで亡くなった後の朝廷の政治を主導していくことになります。そんな一族の繁栄を予見するような力強さを感じさせてくれる歌のようにも感じます。
巻6-1027:橘の本に道踏む八衢に物をぞ思ふ人に知らえず
◎八衢(やちまた)
道が八つに分岐している所。また、道がいくつにも分かれている辻を言います。分かれ道が多くて迷いやすいことや、あれこれと考えて心が乱れることなどのたとえにもいいます。
※豊島采女(としまのうねめ、生没年不詳)
奈良時代の女官です。豊島郡出身の采女。天平(てんぴょう)10年(738)橘諸兄(たちばなの-もろえ)が自宅の宴席で故人豊島采女作として披露した歌1首、ほかに高橋安麻呂がつたえた1首が「万葉集」にあります。豊島郡は摂津豊島(てしま)郡(大阪府)、武蔵(むさし)豊島(としま)郡(東京都)のふたつがありますが、武蔵の出身でしょうか。
巻7-1315:橘の島にし居れば川遠みさらさず縫ひし我が下衣
◎神代人達は、その昇って来る美味しそうな朝日(蜜柑)を食べたいと思った、でも、やがてそれは叶わない事だと知る、それでも食べたいと思った。蜜柑の昇って来る島ゆえ、「蜜柑郷」と呼んだのでしょう。
そうすると、蜜柑と橘は同種ですから、万葉歌の「橘の嶋」を周防大島として考える事が可能になります。
巻7-1404:鏡なす我が見し君を阿婆の野の花橘の玉に拾ひつ
◎「阿婆(あば)の野」は奈良県奈良市春日野付近、奈良県高市郡明日香村付近、奈良県桜井市初瀬付近等諸説があります。
巻8-1473:橘の花散る里の霍公鳥片恋しつつ鳴く日しぞ多き
◎旅人の妻の大伴郎女(おほとものいらつめ)が病に伏して亡くなったのを弔うために大宰府に派遣された石上堅魚が「霍公鳥来(ほととぎすき)鳴き響(とよ)もす卯(う)の花の共にや来(こ)しと問はましものを」(霍公鳥がやって来ては鳴き声を響かせているよ。卯の花の咲くのとともにやって来たのかと問いたいものだなあ。)と詠ったのに対して、こちらでは「橘の花の散る里で霍公鳥は花に片思いをして鳴く日が多いことだ。」と答えています。
石上堅魚の歌では暗に、亡くなった大伴郎女のことを霍公鳥に譬えて詠っているようにも読めましたが、こちらの旅人の歌もまた散ってゆく橘の花を大伴郎女に、霍公鳥を旅人自身に譬えて亡くなった大伴郎女を思って旅人が片思いに泣く日が多いのだとも読めます。
旅人は霍公鳥の鳴き声に自身の泣く姿を重ねて見たのではないでしょうか。
石上堅魚の歌とは花と霍公鳥の関係が逆になっていますが、どちらの歌も表向きはあくまで花と霍公鳥を詠んだ歌なので、花と霍公鳥のどちらに大伴郎女を譬えるかは大した問題ではないのでしょう。
おそらくは日々の実景であっただろう散って行く橘の花と霍公鳥の鳴き声が織りなす景色の中で、妻を失った旅人の悲しみの心を感じ取ることが出来ればこの歌に込められた旅人の思いに近づけたと言えるのではないでしょうか。
ウェブニュースより
米の竜巻被害、死者100人超のおそれ 物流混乱に拍車 ―― 米国で10日夜から11日にかけて発生した竜巻の被害で、南部ケンタッキー州や中西部イリノイ州など複数の州で犠牲者が出た。ケンタッキー州の死者数は70人を超える可能性があるほか、アマゾン・ドット・コムの倉庫でも少なくとも6人が死亡しており、米メディアは全体の死者数が100人を超える恐れがあると報じている。フェデックスの物流拠点も被害を受けるなど、年末の物流の混乱に拍車がかかる懸念がある。
ケンタッキー州では州西部メイフィールドのろうそく工場を竜巻が直撃し、少なくとも18人の死亡が確認された。工場では約110人が働いていたといい、ビシア知事によると、死者数は70人から100人にのぼる可能性があるという。
ビシア氏は11日の記者会見で「州の歴史上、最も深刻な竜巻被害だ」と語り、緊急事態を宣言するとともに連邦政府に支援を要請した。バイデン大統領も11日、記者会見を開き「史上最大級の竜巻(被害)となりそうだ」との認識を示した。
バイデン氏は米連邦緊急事態管理局(FEMA)が被災地に緊急要員や救助隊、物資を供給していると説明し「各州と協力して被害状況を把握し、必要なところに集中して最も迅速に支援する」と強調。「必要なものは何でも提供するつもりだ」と述べた。
米メディアによると、10日夜から11日朝にかけてケンタッキーやイリノイ、テネシー、アーカンソー、ミズーリなど6つの州で30以上の竜巻が発生した。アーカンソーの高齢者施設の入居者1人が死亡し、複数のけが人が出たほか、テネシー、ミズーリ、イリノイの各州でも死者が確認された。
中西部イリノイ州ではアマゾンの物流倉庫が竜巻の直撃を受けて建屋の3分の1程度が崩壊。従業員少なくとも6人が死亡し、一時100人ほどが閉じ込められた。同倉庫ではクリスマス商品の配送対応などで多くの従業員が夜勤で働いていた。
アマゾンは11日夜、「竜巻の犠牲になった従業員に心から哀悼の意を表し、被災者への支援を続けていく」と声明を出した。イリノイ州の財団に100万㌦(約1億1300万円)を提供し、復興を後押しする。
物流大手のフェデックスは南部テネシー州の物流センターが被害に遭った。同センターは米中西部と南部を結ぶ同社の主要拠点で、国内と国際の双方の貨物輸送に遅れが出るという。被害状況の詳細は不明だが、遅延の日数や対象となる荷物の規模が明らかになり次第報告するとしている。
米国では新型コロナウイルス危機後の物流の混雑が深刻化しており、各社は従業員の採用拡大や配送施設の増設などでモノの動きが増える年末の混乱解消に取り組んでいた。米国のほぼ中央部で発生した広範な竜巻被害により、サプライチェーン(供給網)の正常化が遅れるおそれがある。
一方、自動車メーカーなど製造業への影響は現時点で限定的とみられる。ケンタッキー州にはトヨタ自動車の北米最大の完成車工場があるが、竜巻被害が大きかった地域から離れている。トヨタは11日夜、「現時点で部品メーカーを含めてサプライチェーンへの竜巻の被害は出ていない」とコメントを発表した。ケンタッキー州の販売店1店舗で建物の一部が損傷したが、従業員に被害はなかったという。ケンタッキー州やテネシー州にある米ゼネラル・モーターズ(GM)や日産自動車の工場でも目立った被害は確認されていない。 【日本經濟新聞 2021年12月12日 5:20 (2021年12月13日 6:54更新)】
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