梓(あずさ)を詠んだ歌13
巻18-4094: 葦原の瑞穂の国を天下り知らしめしける.......(長歌)
標題:賀陸奥國出金詔書謌一首并短謌
標訓:陸奥國より金の出せる詔書を賀ける謌一首并せて短謌
原文:葦原能 美豆保國乎 安麻久太利 之良志賣之家流 須賣呂伎能 神乃美許等能 御代可佐祢 天乃日飼等 之良志久流 伎美能御代々々 之伎麻世流 四方國尓波 山河乎 比呂美安都美等 多弖麻都流 御調寶波 可蘇倍衣受 都久之毛可祢都 之加礼騰母 吾大王能 毛呂比登乎 伊射奈比多麻比 善事乎 波自米多麻比弖 久我祢可毛 多能之氣久安良牟登 於母保之弖 之多奈夜麻須尓 鶏鳴 東國能 美知能久乃 小田在山尓 金有等 麻宇之多麻敝礼 御心乎 安吉良米多麻比 天地乃 神安比宇豆奈比 皇御祖乃 御霊多須氣弖 遠代尓 可々里之許登乎 朕御世尓 安良波之弖安礼婆 御食國波 左可延牟物能等 可牟奈我良 於毛保之賣之弖 毛能乃布能 八十伴雄乎 麻都呂倍乃 牟氣乃麻尓々々 老人毛 女童兒毛 之我願 心太良比尓 撫賜 治賜婆 許己乎之母 安夜尓多敷刀美 宇礼之家久 伊余与於母比弖 大伴能 遠都神祖乃 其名乎婆 大来目主登 於比母知弖 都加倍之官 海行者 美都久屍 山行者 草牟須屍 大皇乃 敝尓許曽死米 可敝里見波 勢自等許等太弖 大夫乃 伎欲吉彼名乎 伊尓之敝欲 伊麻乃乎追通尓 奈我佐敝流 於夜能子等毛曽 大伴等 佐伯乃氏者 人祖乃 立流辞立 人子者 祖名不絶 大君尓 麻都呂布物能等 伊比都雅流 許等能都可左曽 梓弓 手尓等里母知弖 劔大刀 許之尓等里波伎 安佐麻毛利 由布能麻毛利尒 大王能 三門乃麻毛利 和礼乎於吉弖且 比等波安良自等 伊夜多氏 於毛比之麻左流 大皇乃 御言能左吉乃 (一云 乎) 聞者貴美 (一云 貴久之安礼婆)
万葉集 巻18-4094
作者:大伴家持
よみ:葦原の 瑞穂の国を 天(あま)下(くだ)り 知(し)らしめしける すめろぎの 神の命の 御代(みよ)重(かさ)ね 天の日継と 知(し)らし来る 君の御代(みよ)御代 敷きませる 四方(よも)の国には 山川を 広み厚みと 奉(たてまつ)る 御調(みつき)宝(たから)は 数へえず 尽くしもかねつ しかれども 我が大君(おほきみ)の 諸人(もろひと)を 誘(いざない)ひたまひ よきことを 始めたまひて 金(くがね)かも 確(たし)けくあらむと 思ほして 下(した)悩ますに 鶏が鳴く 東の国の 陸奥(みちのく)の 小田なる山に 金ありと 申したまへれ 御心を 明(あき)らめたまひ 天地の 神(かみ)相(あひ)うづなひ すめろきの 御霊(みたま)助けて 遠き代に かかりしことを 我が御代に 顕(あら)はしてあれば 食(を)す国は 栄えむものと 神ながら 思ほしめして もののふの 八十(やそ)伴(とも)の男(を)を 奉(まつ)ろへの 向けのまにまに 老人(おいひと)も 女(をみな)童(わらは)も しが願ふ 心(こころ)足(だら)ひに 撫でたまひ 治めたまへば ここをしも あやに貴(とうと)み 嬉しけく いよよ思ひて 大伴の 遠つ神(かむ)祖(おや)の その名をば 大久米(おほくめ)主(ぬし)と 負(を)ひ持ちて 仕へし官(つかさ) 海行かば 水(みな)浸(つ)く屍(かばね) 山行かば 草(くさ)生(む)す屍(かばね) 大君(おほきみ)の 辺(へ)にこそ死なめ かへり見は せじと言立て ますらをの 清きその名を いにしへよ 今のをつづに 流さへる 祖(おや)の子どもぞ 大伴と 佐伯の氏(うぢ)は 人の祖(おや)の 立つる言(こと)立て 人の子は 祖(おや)の名絶たず 大君に 奉仕(まつろ)ふものと 言ひ継げる 言の官(つかさ)ぞ 梓弓 手に取り持ちて 剣太刀 腰に取り佩(は)き 朝(あさ)守(まも)り 夕の守りに 大君(おほきみ)の 御門の守り 我れをおきて また人はあらじ といや立て 思ひしまさる 大君(おほきみ)の 御言(みこと)の幸(さき)の (一(ある)は云はく、を) 聞けば貴(たふと)み (一は云はく、貴(たふと)くしあれば)
意訳:葦原の瑞穂の国、この国を、高天原から降ってお治めになった天皇の神の命、その神の命の御末が御代を重ねて、日の神の後継ぎとして治めて来られた貴い御代御代を通じて、ずっと支配しておられる四方の国々では、山も川も広々と豊かであるとて、奉る貢の宝は数えきれず、挙げ尽くしようもない。しかしながら、われらの大君が人びとを仏の道にお導きになり、善き業をお始めになって、何とか黄金が充分にあればとひそかに御心を砕いておられた折も折、鶏が鳴く東の国の陸奥の小田という所の山に黄金があると奏上してきたものだから、御心も晴れ晴れとなさり、「我が業を天地の神々も挙って嘉したまい、代々の天皇の御霊もお助け下さって、遠い昔の代にあったと同じことを我が御代にも顕わしてくださったので、我が治める国は栄えるであろう」と、神の御子でましますままにおぼし召されて、もともろの臣下たちを心から仕えさせられるとともに、老人も女子どもも、その願いが満ち足りるように、いとしみたまい治めたもうので、われらはそこのところが何とも貴くてならず、嬉しさもいよいよつのって、大伴の遠い祖先の神、その名は大久米部の主という誉れを背にお仕えしてきた役目柄、「海を行くなら水漬く屍、山を行くなら草生す屍となり、大君の辺に死のうと本望、我が身を顧みるようなことはすまい」と言葉に唱えて誓ってきた大夫のいさぎよい名、その名を遠く遥かなる時代から今の今まで絶えることなく伝えてきた、先祖の末裔なのだ。大伴と佐伯の氏は、先祖の立てた誓いのままに、「子孫は先祖の名を絶やさず、大君にお仕えするものだ」と言い継いできた誓いを守り続ける靫負の家柄であるぞ。梓の弓を手に掲げ持って、剣の太刀を腰にしっかと帯び、朝にみ夕にも大君の御門を守る守り手は、われらをおいてほかに人はあるはずがないと、いよいよますます言立てしその思いはつのるばかり。大君のみ言葉のありがたさが<よ>、承るとただ貴くて<そのお言葉が貴くてならないので>。
左注:天平感寶元年五月十二日於越中國守舘大伴宿祢家持作之
注訓:天平感寶(かんぽう)元年(西暦年)五月十二日、越中國守(えっちゅうのくにのかみ)の舘で大伴宿祢家持(おおとものすくねやかもち)が之を作る。
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