福沢諭吉によれば、孔子は12君に仕えたといいます。春秋戦国時代においては諸侯やその家臣が争っていくなかで、富国強兵をはかるためのさまざまな政策が必要とされました。それに答えるべく下克上の風潮の中で、下級の士や庶民の中にも知識を身につけて諸侯に政策を提案するような遊説家が登場しました。これを諸子百家といいますが、 諸侯はこれらを食客としてもてなし、その意見を取り入れました。だからこれらの諸士もある程度自由に自分の仕える主君を選ぶことができたのでしょう。孟子〔もうじ、書物を指す〕の萬章章句下は、弟子の萬章と孟子〔もうし、人物を指す〕との問答を通じて、孟子が歴史上の聖人賢人の行跡について述べたものです。
孔子之仕於魯也、魯人獵較孔子亦獵較、獵較猶可、而況受其賜乎、
曰、然則孔子之仕也非事道與、
曰、事道也、
曰、事道奚獵較也、
曰、孔子先簿正祭器、不以四方之食供簿正、
曰、奚不去也、
曰、爲之兆也、兆足以行矣而不行、而後去、是以未嘗有所終三年淹也、孔子有見行可之仕、有際可之仕、有公養之仕、於季桓子、見行可之仕也、於衛靈公、際可之仕也、於衛孝公、公養之仕也。 孟子 萬章章句下より
孔子の魯に仕えしときに、魯人獵較(りょうかく)したれば、孔子も亦獵較す。獵較だに猶可なり。而るを況や其の賜を受くるをや、と。
曰く、然るときは則ち孔子の仕うること、道を事とするに非ざるか、と。
曰く、道を事とす。道を事とせば奚(な)んぞ獵較する。
曰く、孔子先ず祭器を簿正して、四方の食を以て簿正に供えず、と。
曰く、奚んぞ去らざる、と。
曰く、之が兆を爲せり。兆以て行うに足れり。而れども行われず。而して後の去る。是を以て未だ嘗て三年を終うるまで淹(とど)まる所有らず。孔子見行可の仕え有り、際可の仕え有り、公養の仕え有り。季桓子に於ては、見行可の仕えなり。衛の靈公に於ては、際可の仕えなり。衛の孝公に於ては、公養の仕えなり、と。
孟子「…孔子が魯に仕えた時は、猟較(かりくらべ)といって狩をして獲物の多少を争い、その獲物を祭りに供するということが行なわれていたが、孔子は妙な風習だとは思いながらも俗に従ってやったのだ。猟較ですら許されるなら、贈り物を受けるぐらいは勿論許されるはずではないか」
萬章「それでは孔子が魯に仕えたのは道を行なうためではなかったのですか。」
孟子「道を行なうためだ」
萬章「道を行なおうとする者がどうして猟較などするのです」
孟子「孔子は是認したのではない。一挙に廃止するのは無理だと見て、先ず乱れていた祭祀の道具の数や供え物の種類を帳簿に照らして正した。しかし無理をして得難い四方の物を供えることはせず、猟較の風習に従って無理なく手に入る物を備えたのである。そうして、そのうちにおのずと猟較の風習が無くなることを期待したのである」
萬章「道が行なわれぬなら、孔子はなぜ魯を去らなかったのですか」
孟子「孔子は先ず道が行なえるかどうか試してみる。最初のうちは行なわれそうに見えても、結局行なわれないとなって、はじめて去るのであった。だから孔子は一国に三年と滞在したことはなかったのである。孔子には三種の仕え方があった。道の行なわれる可能性を見て仕える場合、礼儀を尽くして接待されたので仕える場合、国君の『賢者の貧窮』を救うという主旨から出た養い扶持を受けて仕える場合である。孔子が季桓子(きかんし)に仕えたのは第一の場合であり、衛の霊公に仕えたのは第二の場合であり、衛の孝公に仕えたのは第三の場合である。
※ 萬章が孔子の真意について疑問を発したところに対する孟子の回答で、本章はまとめられています。そこで孟子は孔子が取ったし仕え方を三種類に分類しているのです。魯の季桓子と衛の霊公は孔子の伝記にも出てくるのですが、衛の孝公という君主は記録に存在していません。孔子は衛に足掛け十年以上出たり入ったりし続けたが、その時期の君主は霊公とその孫の輒(ちょう)、すなわち出公(しゅっこう)の二名であります。だから、本章でいう孝公とは出公のことであるというのが定説のようです。
※ 猟較 狩猟をして獲物の獲り比べをする儀式のことです。本来は諸侯がやる行事であって、家臣がやることは越権行為であったといいます。萬章は家臣である孔子が越権行為である猟較に参加したのは道に外れることではないか尋ねたのです。sechin@nethome.ne.jp です。
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