瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
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大和物語 132段
 同じ帝の御時、躬恒(みつね)をめして、月のいとおもしろき夜、御あそびなどありて、「月を弓張といふは何の心ぞ。其のよしつかうまつれ」とおほせたまうければ、御階(みはし)のもとにさぶらひて、つかうまつりける、
  てる月を 弓張としも いふことは 山べをさして いればなりけり
禄に大袿かづきて、又、
  しらくもの このかたにしも おりゐるは 天つ風こそ 吹きて来つらし
※弓張=弓形をしている月。特に、陰暦七・八日ごろの月を「かみの弓張り」、二十三、四日ごろの月を「しもの弓張り」という。
※大袿=平安時代に禄・かづけものとして賜った袿(うちき、平安時代以来、貴族の男性が狩衣〈かりぎぬ〉 や直衣 〈のうし〉 の下に着た衣服。女性の場合は唐衣 〈からぎぬ〉 の下に着た。単に衣 〈きぬ〉 ともいわれる)で、裄(ゆき)丈(たけ)を大きめに仕立てたもの。着るときは普通の大きさに仕立て直す。

現代語訳
 同じ醍醐天皇の御代に、躬恒(みつね)をお呼び寄せになって、月が非常に美しい夜に、管弦の宴などを催されて、「月を弓張というのはどういう意味だ。その理由を述べてみよ」とご命令なさったところ、御殿の階段のところに控えて、お作り申し上げた歌、
  夜空に照る月を、弓張とも言うことは、山辺を目指して入る(山のあたりをめがけて射る)からなのだなあ。
 天皇に頂いた褒美の大袿を肩に掛けて、又、次のような歌を作った、
  白雲がちょうどこちらの方におりてきてとどまっているのは(白雲のように白くてふわりとした大袿が、私の肩に高い御殿からくだってきてのっかっているのは)、空の風がまさに吹いて来たらしい。

無名抄27段 貫之・躬恒の優劣

  俊恵法師語りていはく、
「三条の大相国、非違(ひゐ)の別当と聞こえける時、二条の帥(そち)と二人の人、躬恒・貫之が劣り勝りを論ぜられけり。かたみにさまざま言葉を尽くして争はれけれど、さらにこときるべもあらざりければ、帥いぶかしく思ひて、『御気色(けしき)を取りて勝劣きらむ』とて、白河院に御気色給はる。仰せにいはく、『われはいかでか定めむ。俊頼などに問へかし』と仰せごとありければ、ともにその便(びん)を待たれけるほどに、二、三日ありて、俊頼まゐりたりけり。帥このことを語り出でて、初め争ひそめしより、院の仰せのおもむきまで語られければ、俊頼聞きて、たびたびうちなづきて、『躬恒をば、なあなづらせ給ひそ』といふ。帥思ひのほかに覚えて、『されば貫之が劣り侍るか。ことをきり給ふべきなり』と責めけれど、なほただ同じやうに、『躬恒をばあなづらせ給ふまじきぞ』といひければ、『おほしおほしことがら聞こえ侍りにたり。おのれが負けになりぬるにこそ』とて、からきことにせられけり。躬恒が詠みくち、深く思ひ入れたる方は、またたぐひなき者なり」とぞ。
現代語訳
  俊恵法師が語って言うことには、
「三条の太政大臣(藤原実行)が検非違使の長官と申し上げていた時、二条の帥(藤原俊忠)とふたりで、躬恒と貫之の優劣を論じ合われた。お互いにさまざまに言葉を尽くして論争をなさったが、いっこうに決着する様子がないので、帥がはっきりさせたいと考えて、『白河院の御意向をお伺いして優劣を決めよう』ということで、白河院に御意向を仰ぐ。白河院の仰せによるところでは、『予がどうして決められようか。俊頼などに問うがいい』とのことだった。そのような仰せがあったので、ふたりとも機会を待っていると、二、三日して俊頼(源俊頼)が参上した。帥はこの件について語り出し、最初に優劣を論じ始めてから、院の仰せの趣旨までお話しになったので、俊頼は話を聞いて、幾度も頷いて、『躬恒のことを、侮りなさいますな』と言う。帥は意外にお感じになって、『それならば貫之が劣っているのですな。躬恒のほうが優れているとお定めになるべきでしょう』と促したが、俊頼が依然としてただ同じように『躬恒のことを侮りなさるべきではありませぬぞ』と言ったので、『大体おっしゃっていることは理解できました。貫之が優れていると考えていた私の負け、ということですな』と、負けたことを辛くお思いになった。躬恒の詠みぶりの、深く思いを歌にこめてある趣は、他に並ぶものがないものだ」


 


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