瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
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 今朝のウェブニュースから、
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a7f7ff5d.JPG 特捜部「任意では解明できない」 小沢氏の関与、随所に ―― 多忙を理由に事情聴取に応じない小沢一郎氏、虚偽の供述をしている疑いがある石川知裕衆院議員、再聴取に応じない小沢氏の元私設秘書…。小沢氏側は東京地検特捜部による疑惑捜査に協力的とはいえない対応を取っているとされる。/昨年3月の西松建設をめぐる違法献金事件では、特捜部が陸山会などへの捜索に着手した前後、石川氏らが、陸山会などにあったゼネコンからの陳情など事件関係書類を小沢氏側の関係先に運び出しており、小沢氏側が証拠隠滅を図った疑いも表面化している。/このため、特捜部は任意捜査では全容解明できないと判断し、強制捜査に踏み切った。一連の資金移動の中で小沢氏の関与は随所に見られ、今後は小沢氏が政治資金収支報告書への不記載など不正な経理処理にどの程度関与したかの解明が焦点となる。/特に今回、特捜部が小沢氏の個人事務所や陸山会に加え、鹿島も捜索対象としたのは、収支報告書に記載されていない土地代金4億円の原資に、水谷建設などゼネコンの裏献金が含まれている疑いが強く、裏献金の提供に鹿島東北支店が関与している疑いがあるとみているためだ。/ 捜査関係者によると、東北の公共工事では長年にわたり、ゼネコン間の談合が行われていたとされる。仕切り役とされるのが同支店元幹部で、受注業者にお墨付きを与える「天の声」を出していたとされるのが小沢事務所だ。/小沢氏の地元、胆沢ダム工事での小沢事務所の影響力は絶大だったという。昨年12月の大久保隆規被告の初公判で検察側は、西松建設側が大久保被告に「おたくらが取った胆沢ダムは小沢ダムだ」と言われたとする供述調書を読み上げた。/鹿島は平成16年10月、胆沢ダム工事を受注。下請け工事を請け負った水谷建設側は同時期、成功報酬として石川知裕氏に5000万円を渡したと供述。直後に陸山会には5000万円の入金があり、その数日後に土地代金が支払われていた。/今回、小沢氏の個人事務所や鹿島への捜索に踏み切ったことは、特捜部の裏献金解明への強い姿勢を感じさせる。  (産経ニュース、2010.1.14 01:27)

 ギリシア神話:王様の耳は驢馬の耳
 Midas(ミダース)はトモーロ山神の判定に抗議したばっかりにアポローンによって驢馬の耳と変わってしまった。そこでこの醜い形の耳を取り付けられた王は、それを人に見られるのを嫌がって、いつも紫染めの布で頭を巻き、それを顳顬(こめかみ)まで深々と引き下ろしていた。そして来客があっても湯に入るときも何のかのと辞を設けてこの頭巾を脱ごうとしなかった。ただ一人宮廷専属の理髪師だけはこの頭巾を取って見せなければならない。王様は因より厳命を下し、密室に彼を呼び寄せて理髪をさせるのであった。彼は王室の奴隷であるから逃げ出すことも出来ない。さりとて喋ることなど、なおさら思いもよらない話だ。ところが話してはならぬと言われると一層話したくなるのが、人間の通性なのである。それに理髪師という商売はギリシアの時代からもうお喋りの他人の噂ばかりするものと決まっていた。しかし、うっかり喋ろうものなら勿論噂は1日中で都じゅうに広がってしまうだろう。そしてその発頭人はすぐに見つかってしまうに相違ない。そしたら、言うまでもなく命はない。お約束の縛り頸が待ち構えているのである。とうとう黙っている苦しさに耐えかねた理髪人は程隔たった淋しい川の河原に行って地面に大きな穴ぼこを掘り開き、人が近くに居ないのを充分に見済ましてから、その中へこっそりとそれも恐々、低いささやき声でそれでも思い切り力を篭めて、「王様の耳は驢馬のお耳だ。王様の耳は毛もくじゃらで動く耳だ」と吹き込んでから、土をまた元通りに穴の中に抛り込んで、上をならし砂をかけて見分けの付かないようにして帰った。
140c80db.JPG しかし、何事にも手落ちというものは、兎角ありがちなものである。この河原にも丁度春先のこととて、去年枯れた葦の根が混じっていて、礼の理髪師が掘り空けた穴の口にも少なからず入っていた。掘り返されて軟らかくなった土は、葦の根の成長に正に打って付けであった。西の微風がしきりに河面を渡る頃には、葦はその辺にぞっくりと生え揃い、やがて春が過ぎ夏が経ち秋になって、かさ付いた葉末を冷たい風が流れる季節になった。しなやかだった葦もいつか枯れかけてきた。一方その根はどんどん伸びて正にかの理髪師が声を吹き込んでいた場所に届いた。その声は葦の根と共に育っていった。とうとう冬の風が河面を強く吹きまくって野を越え都まで砂塵を吹き寄せるようになると、いつか都の空に、異様な響きが目に見えない影の様に、谺(こだま)して亙っていった。「王様の耳は驢馬のお耳だ。王様の耳は毛もくじゃらで動く耳だ」
 それは勿論王宮にも響いて聞こえた。静かな、囁くような音だが、しかも変に根強い意地悪い響きをさえ持った調子であった。Midas王は勿論大慌てに慌てた。誰が喋ったのか、誰が一体喋っているのか、彼は紫色の頭巾を抑えながら家来に厳しく命じて探させたが、ついに付き止めることは出来なかったと言う。
 このお伽噺的説話は民間伝承の形を変えた伝説であるが、昔から名高く西洋の子供たちの間に広く愛誦されてきた物語のひとつである。
 今朝のウェプニュース、ロイター通信より2つ。
fd2df138.JPG 日米外相会談は普天間問題で平行線、同盟深化の方針確認 ――  [ホノルル 12日 ロイター] 岡田克也外相は12日、クリントン米国務長官と80分にわたって会談した。懸案となっている沖縄の米軍普天間基地の移設問題では協議が平行線に終わったが、日米同盟については深化の方針を確認した。/クリントン国務長官は会談後、普天間基地移設問題の解決を日本側にあらためて促したとした一方、完全な解決には時間がかかることにも理解を示した。長官は記者会見で「(普天間移設は)われわれが非常に重視している問題だ」とした上で、「世界中の数多くの課題にも取り組んでおり、こうした取り組みも続ける」と述べた。/岡田外相は、普天間移設問題について5月までに結論を出す政府方針をあらためて伝え、日米安保条約改定50周年に合わせた日米同盟深化の意向を表明した。 (ロイター、2010年 01月 13日 07:02 JST)
f751ed46.JPG イランの核科学者、遠隔操作の爆弾爆発で死亡=報道 ――  [テヘラン 12日 ロイター] イランの首都テへランで12日、遠隔操作の爆弾が爆発し、テヘラン大学の教授で核科学者のマスード・モハマディ氏が死亡した。国営メディアが報じた。/テヘランでこうした爆弾攻撃が発生するのは珍しく、イラン放送(IRIB)は、米国とイスラエルが関与しているとの見方を示している。/国営イラン通信(IRNA)は、爆発による死者の数は明らかになっていないとしており、モハマディ氏以外にも犠牲者がいる可能性を示唆している。またファルス通信は、2人が軽傷を負ったと報じている。 (ロイター、2010年 01月 12日 19:50 JST)

 ギリシア神話:驢馬の耳にされたミダース王
e26db274.JPG Pan(パアン)牧神は元来アルカディアの植物神で、同地産まれの神々の頭領であるヘルメースの息子であるとされる。彼はプリュギアかリューディアに棲まっていてその地方でアポローンに挑戦したことになっていてる。審判の立会役はこれも些か変わっていて、リューディアの都サルディスの近くに聳え立つトモーロスの山であった。この付近でパアンは野山を逍遥しながら、吹き鳴らしていた笙を執ってニンフらに聞かせついのぼせ上がって、己が技をアポローン以上と自慢したわけであった。
 ブリュギアの王ミダースはかねてからPanの崇拝者であった。彼は先の物語以来すっかり黄金が嫌いになって、専ら簡素な生活を愛し、森や野の自然を恋い慕い、山間の洞窟にすむPanに随身していた。そこで、この折も心配のあまり、オブザーバーとして列席した訳である。いよいよ準備が整いトモーロスが競技の宣告をすれば、まずPanが蝋で固めた葦の笛を一渡り吹き奏でた。続いて、今度はアポローンが宝石を鏤め象牙を木目込みにした竪琴を取上げた。トモーロスが彼に合図を送れば、森の木々もこれに均しくその方へ靡き亙ったという。
12bbbf08.JPG 月桂の冠を着け真紅の外衣をまとった御神はやおら金の撥を掲げた。絃音は高らかにリューディアの野山に轟き渡った。トモーロス山神の判定はアポーロンに挙がり、誰一人としてこれに異議を唱えるものはなかった。ただミダース王だけが敢然と進み出て、抗議を申し込んだ。彼は容易く所信を枉げ故旧に反(そむ)くような者ではなかった。早くいうと頑固な心と耳の持ち主だった。アポローンはこの不遜とも見えるこの批判をそのまま見逃すことが出来なかった。さりとて、厳罰に処するのも一同の手前大人気ない。そこで優雅な曲を聞き分ける人間らしい聴感を缼くものとして、それに相応しいもののように、ミダースの耳を伸ばして灰色の粗網毛で被わせ、しかも自由に動けるように詰まれ変えてやった。つまり驢馬の耳を付けてやったのである。これがデルボイの御神の罰だった。
 今朝のウェブニュースより
3cca2f7c.JPG 魁皇、力強い取り口で歴代最多勝/初場所 ―― 大横綱、千代の富士に並ぶ歴代最多の幕内807勝目は、魁皇らしい力強い取り口だった。得意の左四つ右上手。ひとまわり以上年下の23歳の豪栄道をつかまえ、抵抗に構わず寄り切った。/大入りの館内は割れんばかりの大歓声。その中を表情を変えずに引き揚げてきた37歳は、1位に並んだことに「こだわりはない。でもお客さんはそういう目で見ていてくれたのかな」と、照れくさそうにほほ笑んだ。/15歳で初土俵を踏んでからの約22年は、けがとの闘いでもあった。元もと酒が大好きで、深酒もたびたび。そんな酒豪が、左股(こ)関節筋断裂の大けがを負った後の25歳あたりから変わった。「いろんな人に、付き合いが悪いなと言われ始めた。治療や翌朝のけいこのことを優先させてもらった」。心優しい男が酒席の誘いを断り、体の手入れに真剣に取り組み始めた。/現在も腰やひざなどに痛みを抱えており、連日、最低でも1時間のマッサージを欠かさない。記録に追いつかれた九重親方(元横綱千代の富士)は「若いころからしっかりやってきたから、もっている。頑張ってきた表れだ」と賛辞を贈った。/魁皇は「目の前の一番でどういう相撲を取るかということしか考えていない。まだ場所は始まったばかり」と、いつも通りに気を引き締める。帰宅すると酒ではなく、愛妻お手製の野菜ジュースで、翌日の勝負へ英気を養っている。
 魁皇(記録について):「あまり意識していたわけではない。常に体のケアを考えているから、けがをしても続けられていると思う。相撲を取るからには勝負に対しての欲がある。人生としてはいいと思う」
 武蔵川理事長(元横綱三重ノ海):「大変な記録だ。すごい。一つの形を持っているのが強みだし、けがを克服して辛抱してやってきた。(右)上手を取ると、まだまだ力強さが出ている」
 貴乃花親方:「超人的なすごい記録。右上手を取ると比類なき強さがあり、わたしも何度も苦しめられた。あの形があったからこそ、ここまでの実績を残せたのだろう。ただただ感服します」
 九重親方(元横綱千代の富士):「常に体を動かし、頑張ってきた表れだ。(最多勝の)記録があったからここまでやってこれたというのもあると思う。今後はもっと頑張って、誰にも抜けない記録を作ってほしい」
 魁皇の師匠、友綱親方(元関脇魁輝):「体のケアを含めて、相撲に対して一途にやっているのはすごい。入門したころはこんなに長く取れるとは思っていなかった」  (SANSPO.COM、2010.1.11 20:32)
20315199.JPG 平成成人、緊張の門出 就活「今から不安」、「必ず1票」意気込み ―― 「成人の日」の11日、初めて全員が平成生まれの新成人を迎えた式典が各地で開かれた。総務省の推計によると、1989年生まれの新成人は127万人。68年の推計開始以降で初めて130万人を下回り、過去最少を更新した。鮮やかな晴れ着姿でにぎわった東京・江東区の式典会場では、長引く不況を反映して「就職が厳しい」との不安の一方、今夏の参院選に向け「必ず1票を投じる」といった意欲的な声も聞かれた。/フランス語を専攻する大学2年の今野恵里さんは、小学生からのあこがれだった航空会社の客室乗務員や地上職への就職を希望。だが、日本航空の経営再建問題なども明るみに出て「先輩の状況も見ていると来年からの就職活動が不安。ほかの業界にも視野を広げないといけない」と危機感を抱く。 (NIKKII NET、07:00)
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2f149f7f.jpg スーダンで勤務中のEriちゃんが正月で一時帰国した。忙しい仕事の合間を縫って、生憎の雨にも拘らず淺草を訪ねてくれた。午後1時過ぎ、東京メトロ浅草駅で待ち合わせ、松屋の「すし栄」で遅い昼食(アフリカ在勤中食べられない好物の鰻が食べたいということで鰻寿司)を食べて、我が家に来てもらい、いろいろとアフリカの話を聞かせてもらった。東京での仕事を済ませ、金曜日には家族の居る福岡へ飛び、土曜日の深夜便で勤務先のスーダンへは、日曜日の夜に着くということである。なんともはや、忙しい一時帰国ではある。
 ふと気がつくと、闇の川辺を徘徊している。何時まで経っても夜は明けない。東白鬚公園の南ゲートを入ると、煌(きら)びやかなイルミネーションが目を射た。南池にはスカイツリーと思しき像を挟んで「賀正」の2文字がオレンジ色に輝き、その左には「2010」の数字が、右側には辛うじて「虎」と見える絵が浮き出て、それらが池の面に対称に逆さまの像を投げかけている。
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2f3ed103.jpg 公園を抜け、水神大橋を渡っても、まだ暗い。汐入の遊歩道を南下する頃には、ぼつぼつ人影が見え始める。白鬚橋を通す明治通りに出る頃になって、漸く東の空が白み始める。曇空の所為か何時も観られる東雲の朝焼けはみられない。東天高く三日月が見えたかと思うとすぐに雲間にかくれる。橋場の遊歩道から見るスカイツリーは一段と高さを増したようである。テラスの昇降口にあがってカメラを構えたが、まだ薄暗くうまく収まったかどうか解らない。体は汗ばんでくるのに、手は冷たく悴(かじ)んでいる。両手を合わせ指の関節を力いっぱい伸ばしては、こぶしを握ったり平手を開いたりして指の屈伸を行う。そんなことを何回も繰り返しながら、桜橋辺りまで来た頃やっと明るくなった。本日の東京の日の出は6時51分とある。

 ギリシア神話:黄金漬になったミダース王
891fbec5.JPG Sileni (シーレーニ)はディオニュソスの従者であるIpotanes(イポタネス、半人半馬の種族)であり、彼等は酔っぱらいであった。他のイポタヌスと違う点は、通常、禿げた肥満体で、薄い唇とずんぐりした鼻をしていることである。脚も人間のそれであった。後にsileniは複数形であることの意味を失い、もっぱら独りのイポタヌス、Silenus (シーレーノス)を指すようになった。シーレーノスの伝説として名高いものにブリュギアの王Midas(ミダース)との出会いがある。
 Midasは伝説によるとCybele(キュベーレ)女神の子であるといわれるコルディアースの子でブリュギア王朝の第二代目として豪富をもって知られていた。このMidas王が年寄りのSilenusを捕えたという話はヘーロドトス(BC485年頃~BC420年頃)やクセノポーン(BC427年?~BC355年?)にも出てくるが場所が一定していない。マケドニアともブリュキアともいうが、ともかく王はいつもSilenusがいつも水を飲みに来る泉に酒をしたたかに混ぜておかせた。Silenusが例により腹いっぱいに水を飲むと、いい気持ちに酔ってしまい、薔薇の咲き乱れている花園に入って花の香に戯れているうちに眠り込んでしまう。王は家来か農民か王宮へ連れてきたSilenusを鄭重に扱い、珍客の到来とばかり饗宴の主客と為して夜となく昼となく十日の間酒盛りを続けた。そして、十一日目の朝に彼を棲み慣れた元の野へ送り返してやった。
80452988.JPG Silenusはディオニューソス(バッコス)の幼い時、彼を養い育てた謂わば養父格なのである。それゆえこの話を聞いたディオニューソスは王を大いに徳として何でも望むことを一つだけ叶えてやろうと王に対(むか)って言われた。ギリシア七賢人の一人といわれたSolon(ソローン、BD639年頃~BC559年頃)は「金持ちは金が増えるごとに一層それだけ欲深くなってゆくもの」と言っている通りMidasもだんだん身代が増えるに従って欲深になったのであろう。この御神の寛大な(あるいは性悪な)申出を承ると、思案の末答えた。「どうか私の体に触れる限りのものが、何でも皆黄金に変わりますように」
 おおらかな微笑を口許に浮かべて、バッコスはMidaのこの素朴な願いを快く聞き届けてくださった。王は有頂天の歓びで王宮にかえると、早速色んな物に触って神から与えられた力を試してみた。初めは本気で信じようともしなかったが、物は試しと苑にある樫の木の下枝を折り取ってみた。すると指が触れたか触れないかのうちにそれは黄金の小枝になった。路地に敷いた小石を拾い上げると、これもピカピカと輝く黄金の球になった。枝から林檎をもぎ採って手に載せると、それはあのアプロディーテーがパリスから受け取ったヘスペリデスの林檎のように、美しい金色に輝いていた。王が手を水で洗うと、指の間を零れる水はあのダナエーが夢見たような黄金の雨の流れであった。全ての物が皆黄金に変わるのを見た王は、もう自分が正気なのか夢を見ているのか解らないほど胸が躍って茫然としてしまった。しかし、その歓びも王にとって残念至極の事ながら、そう長くは続かなかった。夕方になって食堂へ入った王の前へ、召使が肉とパンとを山盛りにした小卓を運んできた。王は歓びに忘れていた空腹をにわかに感じて、早速目の前に置かれたパンを手に掴むとそれは忽ち硬い金に変わった。あわてて今度は一変の肉を食べようとすると、歯が肉に触れるや否やカチンという音がして、王の歯は冷たい黄金の板を噛んでいるのであった。暗然として今度は、当の贈物の主であるデュオニューソスに酒を飲もうと盃を挙げると、咽喉を通るのは何の味もない、溶けた黄金の雫に過ぎなかった。
いかにも世界一の金持ちになれるという期待はあったが、餓(うえ)は彼に迫り、幾日生命を保てるかも最早解らなくなってしまった。この予期しなかったとんでもない災難に驚いて、王はもう今では富とか財産とかいものが、何にも増して空しい、どうでも好いことになっていった。いやいやそれどころか何にも増して忌まわしい、憎らしいものに変わってしまった。何にも使えないだけでなく自分の基本的な欲求をさえ妨げるもの、それが何の役に立つだろう。王は自分の願いもディオニューソスも疎ましく後悔されてきて、居ても立っても居られなくなった。咽喉は渇き、食べ物は山のように積んであるのに、腹の皮は背中につくほど、ひもじさが身に迫っている。とうとう彼は黄金に輝く手を天に差し伸べ、ディオニューソスに祈った。どうか自分の愚かさを憐み、自分の犯した思い上がりの罪を赦して、お慈悲をお垂くださいますよう。どうかこの外見ばかりは美しい呪いから、私を解き放してくださるようにと祈るのであった。
もともと本気で彼を辛い目に逢わせるつもりではなかったディオニューソスは早速この王の願いを肯(き)き入れて、彼の厄介な能力を取り除いてやられた。そしてこの上にも彼が先ほど愚かにも懇願したり祈りの虜にならないですむようにと、王に訓(おし)えてサルディスの町外れを流れる川をたどり、その源泉まで溯(さかのぼ)らせた。そしてリューディアの山々の間を分け、その源に行き着いたとき、湧き上がる泉に身を投じてこれまでの過怠の罪をすっかり洗い潔(きよ)めるがいい… これが御神の尊い指令だった。因より王はバッコス神の訓えの通りに実行した。王の体に触れるものが全て黄金に変わるという魔力は初めて王の体を離れ、洗い去られてその水に沁み込み、流れにと写っていった。そのために今日までもこのパクトーロス川からは砂金が出るのだという。後ろの山はその麓にSisyphus(シーシュポス)が住んだというトモーロス山がある。
 ギリシア神話:生き剥ぎにされたマルシュアース
7a964758.JPG 今まで述べてきたApollōn(アポーローン)神にまつわる伝説はこれらの他にも数々ある。彼の優しい面、優雅な面だけでなく、烈しさ恐ろしさ厳しさを物語るもの、たとえば既に記したCassandr(カッサンドラー)の物語も多分に彼の残酷なまでの愛情を語っている。主神Zeus(ゼウス)とLētō(レートー)との息子で、アルテミスとは双子である。後に光明神の性格を持つことからヘーリオスと混同され太陽神とされたが、本来は予言と牧畜、音楽(竪琴)、弓矢の神である。また、オリュンポス十二神には(諸説があるが)ほぼ確実に名を連ねる。既に幼少の頃、母親Lētōに邪(よこしま)な恋を仕掛けあるいは彼女を迫害した巨人ティテュオスを殺した。それ以来この巨人は冥府の底タルタロスに固く縛られ二羽の鷲に両側から肝臓を啄ばまれている。その姿は冥界めぐりをしたOdysseus(オデュッセウス)さえ戦慄させるに足るものだったという。神々と人間との争い、ことに技競(くら)べはしばしば説話化された人間像であり、人間が常に高みを冀い、しばしばその能力を夢想したギリシア人の間においては、幾度となくさまざまのヴァリエーションで物語られるが、もとより人気のあるアポーロンにこれが缼ける謂れはなかった。
 Marsyas(マルシュアース)はシーレーノスの一人であった。小さな角を頭のこめかみに付け毛むくじゃらな山羊の足をした彼が、よい天気の日にうかうかと野を散歩していた折、ふと小径に落ちている1管の笛を見つけた。それはアテーナー女神が棄てていった物であった。技芸の司(つかさ)である女神は、手先の巧みに任せてさまざまな器具を拵えられた中に、喇叭や竪笛も数えられた。しかし、笛を吹くのに頬を膨らませ、見っともよからぬ面持ちになるのを厭われた女神はこれをうち棄てられたのである。これを手に入れたMarsyaは、生まれつきの剽軽(ひょうきん)さとすばしっこく働く小器用さから、いろいろと試みるうちに自ずからこの術を会得し、野山を巡り歩くたびに、曲(ふし)無面白く、歌い奏でてはニンフたちを興がらせていた。アテーナー女神はこれを嫌がられて、こっぴどく槍の柄で打擲(ちょうちゃく)されたが、彼は一向に懲りずに、いろいろと工夫を凝らすのであった。そして遂には大変な天狗になり、技自慢の果てはアポローン神にもおさおさ敗(ひ)けは執るまいなどと言って歩いた。
 ついにアポローン神とMarsyasとが技競べをする日がやってきた。立会いはオリュンポスの神々であった。そして競技の条件は勝者が敗者を思うままに処分し得ることというのであった。競技の模様についてはどんな歌が歌われか二人の妙技がそれぞれどんなであったかなど誰も伝えるものはない。しかし、言うまでもなくアポローンはその入神のわざをもって鄙びたMarsyasを容易く打ち破った。
883d4368.JPG Marsyasが笛に敗れて受けた審判は、生きながらにして皮を剥がれることであった。「何故、あなたは私自身から私を引き剥がすのか。もう後悔しました。許してください。笛でこんな目に遭わすのはあんまりです」このように哀れなMarsyasは叫んだと言われている。全身は一つの傷となり一面の地に塗れた。その態(さま)をみて仲間のシーレーノスたち、また牧人たちは群れいるかぎり、ひとしく涙を流し、大地はそのためにしとどに濡れた。そのあまりは地下を潜って清冽な泉と化し、このようにしてブリュギア地方に比べるものなく澄んだ流れの、彼の名を負うマルシュアース川が出来たのだという。
 間もなく、初場所がはじまる。今朝のウェブニュースはその相撲界から。
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b4e11330.JPG 【大相撲】角界の旧弊に風穴明けるか 貴乃花親方の強行出馬 ―― 会合の開始からおよそ2時間後、貴乃花親方が一人で途中退席した。報道陣に「立候補させていただきますということでお話ししました。一門を出るということです」と話し、無所属で理事選に出馬するのかを確認されると「そういうことですね」と言い切った。/会合は、さらに1時間後に終了。「穏便に話をしようと思っていたが(貴乃花親方が)乗ってくれなかった」。一門の取りまとめ役の放駒親方は話し、「本人の意志が固く、どういう形になっても立候補したいということだ」と説明した。/理事選で投票権を持つ評議員は現在105人いる年寄に、大関以上の日本人力士2人(魁皇、琴光喜)、立行司2人の計109人。外部理事を除く理事の定員は10だから、当選に必要な票数は10前後となる。5つの一門は票に見合った数の理事を出しており、29票を持つ二所ノ関一門の理事枠は3。4人が出馬すれば共倒れとなるだけに、調整が図られてきた。37歳と若い貴乃花親方には「もう1期(2年)待ってはどうか」と自重を促す意見もあったが、耳を貸さなかった。/角界では一昨年の力士暴行死事件以来、大麻問題など不祥事が続発。イメージの悪化に有効な手段を打てない協会執行部に対して、若手親方を中心に不満がくすぶっている。貴乃花親方は以前からファンサービスやチケット販売方法などで持論を展開するなど改革の意欲が強く、若手の意見を取り入れ、現状を早期に是正したい考えだという。/優勝22回など一時代を築いた貴乃花親方は、平成15年の引退後は「将来の理事長候補」とされてきた。出馬を強行するのは改革の近道との思いからだろうが、同門の尾車親方(元大関琴風)が「数年後にはあいつの時代が来るのに、何でそんなに急ぐんだ」と語るなど批判の声も少なくない。/一方で、「私は一人で立候補するのではない」と話すように、同門の大嶽親方(元関脇貴闘力)や阿武松親方(元関脇益荒雄)らのほか、一門外にも複数の支持者がいるとされる。当選ラインの得票を可能と見る関係者も多く、理事当選後に賛同者を増やせれば早期の改革実現も可能になる。/「なくした方がいい」という声すらある一門制に反旗を翻した貴乃花親方。賛否両論ある今回の行動だが、かつての自民党の派閥にも似た角界の旧弊に風穴を開けたという意義はありそうだ。 (産経ニュース、2010.1.8 22:36)

 ギリシア神話:アポローンの愛を拒絶したカッサンドラー
601ead2e.JPG Cassandra(カッサンドラー)はトロイア地方の首都イーリオスの王Priamos(プリアモス)の娘であって、Alexandra(アレクサンドラー)とも呼ばれた。早くからアポローンの寵を蒙り、おそらくは巫女としてその宮に仕えていたものと思われる。アポローンの神寵はいと細やかに、くさぐさの賜物のうちにも、御神のとりわけて秀で給う予言の術があった。こうして彼女は末先々の出来事まで予知しこれを託宣として伝える力を授かったのであった。彼女の誇らかに透徹して冷ややかな輝きを帯びる白玉のような美しさは銀弓の御神に対してそれほどまでの蠱惑(こわく)を持っていたのである。 しかし、それほどまでのアポローン神の有難い心遣いに対しても容易に彼女の心はすべてを打ち明けて許そうとはしなかった。生まれつきの冷たい心ばえからか、慎み深い乙女の臆病さの故か、それとも何か神性というものに本能的な警戒心を持っていたのか、はたまた一度靡くと見せてまた変心したのか、伝えにより話し手により種々であるが、ともかくいろいろな贈物を受けながら、ついに恩神に従わなかったか、背いたかしたことは事実にちがいなかった。
 腹立ち紛れにアポローン神は一度遣った贈物を取り返そうとした。しかし人間にそれは許されても、神々に対しては一度授けたものを取り返すことは許容されなかった。それは神格を毀す振舞いとされた。そこでアポローンは彼女に授けた予言の力が無効になるよう、如何程真実な予言であっても人からそれが信じられないようにしてしまった。御神にはこの権限は許されていた。この時からして、Cassandraはこの上ない悲劇的な運命を負わされることになった。彼女は祖国の危難に対してParis(パリス)の生まれるとき予言し、また例の木馬がイーリオス城内に引き入れられようと言う際にも制止しようとした。しかし誰一人として彼女の戒めに耳を貸そうというものは無かったのである。
ef1b4f6e.JPG そして遂にイーリオス城は落城した。雪崩のように乱入するギリシア軍に城中は蹂躙(じゅうりん)され火は放たれ財物は奪われた。彼女はアテーナー神殿に逃げ込み、神像に縋って助けを求めたが、ついにロクリスのAias(アイアース)のために陵辱を受けた(この非行のためAiasは女神から震怒を蒙り、海上で溺れ死ぬことになる)。それから後も捕えられてギリシア軍の陣中に曳かれ、戦功褒章の折総帥Agamemnon(アガメムノーン)の手に渡った。アポローン神さえ拒んだ誇らかな王女が今は婢妾(ひしょう)としてアカイア人の臥床を調えねばならないとは。そして帰国と共に追うとひとしく王妃Klytaimnestra(クリュタイムネーストラー)の陰謀に係り、敢え無い最後を遂げるのである。
 今朝のウェブニュース(少々長いがいずれもロイター)から。
626c04fa.JPG 12日にハワイで日米外相会談、普天間移設問題も協議=米国務省 ―― [ワシントン 7日 ロイター] クリントン米国務長官と岡田克也外相は12日にハワイで会談する。米軍普天間基地の移設問題についても協議する見込み。国務省のクローリー次官補(広報担当)が7日明らかにした。/同次官補は「普天間(基地)問題が取り上げられても驚かない」と語った。その上で、アフガニスタン情勢など安全保障に関する他の問題も協議する公算が大きいと述べた。/国務省によると、クリントン長官はオーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニア歴訪の際にハワイに立ち寄る。(2010年 01月 8日 05:04 JST )

 菅直人副総理兼財務・経済財政担当相の就任会見の一問一答 ―― [東京 7日 ロイター] 菅直人副総理兼財務・経済財政担当相は7日午後、財務相就任を受けて記者会見を行った。/会見の一問一答は以下のとおり。
──就任のあいさつとして。
「大臣は役所の代表ではなく、国民が役所に送り込んだ国民の代表だ。その役目として大臣に就任した。副総理の役割もあり、内閣全体についても総理を支える立場で十分に目配りしなくてはならない」 「財務省について一、二点、推し進めたいことがある。一つは、予算執行についての透明化だ。歳出、つまり予算執行の中身を国民に公開し、国民のためになっているか判断できるような運営、支出の管理を実行していきたい」「民主党マニフェストの中では、207兆円の一般・特別会計を含む総予算を全面的に見直すとなっているが、まだこの3カ月半では着手したという段階に留まっている。あらゆる特別会計、独立行政法人、公益法人について、主に行政刷新会議が担当することになると思うが、多くの関わりを持つ財務省の立場で、この問題にしっかり取り組んでいきたい」「経済財政担当は継続するよう総理から話があった。日本を元気にしていく前向きの事については、経済財政の観点から明るい未来を展望するような、すでに成長戦略の基本方針を打ち出しており、そういうものへの肉付けも含めて取り組んでいきたい。財務省の仕事は現実社会での仕事が多い。現実の中に埋もれることがないよう、坂の上の雲を目指して歩めるような方向性を、経済財政担当という立場の中でも合わせてまとめていきたい」
──予算執行の透明化について話があったが、厳しい財政の再建について。消費税、環境税、いわゆる埋蔵金の活用をどう考えるか。
「今日の財政状況となった原因をしっかり押さえなければならない。12月30日に発表した成長戦略をしっかり推し進めることが第一になければならない。環境、健康、アジア、地域・観光、科学技術、雇用と6本の柱になっているが、基本的には需要拡大でいろいろな政策を展開するのが、財政再建の基本的な道筋だ」「税制については207兆円の国の総予算を徹底的に見直す作業が始まったばかり。その中から無駄なもの、必要のない制度、あるいは間違った制度を変えていく。その上で、ある時期には消費税といった議論も必要になるかと思うが、少なくとも増税から入っていくのではなくて、まずは、今までの財政のあり方を徹底的に洗い出すところから入っていくべきだと思っている。環境税については、税制調査会あるいは省庁間をまたぐ議論をすることになると認識している」「かつて埋蔵金は一切ないと言っていた自民党の政治家も、かなり埋蔵金を使った。私たちが組んだ予算の中でも、いわゆる埋蔵金をかなり掘り出して予算に計上した。もちろん埋蔵金は無限にある訳ではなく、まだ使えるもの、使っても良いものについては精査していきたいが、基本的には、埋蔵金は無限にある訳ではないとの認識を持ちながら、207兆円の色々な見直しをしっかりと、全ての省庁の大臣、副大臣、政務官が先頭になってやって頂くよう努力していきたい」
──財政面について。
「昨年の段階で、今年の5、6月ごろに複数年度予算も含めて中期財政フレームを出すと申し上げてきた。内閣としては、すでに閣議決定している方針に沿って出していく。納税番号はマニフェストにも盛り込まれている課題であり、国家戦略室が中心になるとしても、財務省にも関わりの深い課題であり、協力して取り組んでいく」
──為替についてうかがいたい。前任の藤井氏は、自国の通貨が強いことは好ましいとの考えだったが、菅財務相は円が強いことについて、どのように考えているか。
「為替については、そういう質問にあまりうかつに答えると、とんでもないことになることを私もよく知っているので、本当なら答えない方がいいと思うが、少なくてもこの間、私が経済財政担当相として取り組んできた事で言えば、ある時期、円が非常に高くなって、経済界からすれば(1ドル)90円台、できれば半ばあたりが貿易の関係で適切ではないかとの見方が多い。まさに為替が日本経済に与えるいろいろな影響を考えながら、適切な水準になるように、日銀との連携も含めて、対応して努力しなければならない。現状は比較的、一時のドバイ・ショックのころと比べれば円安の方向にかなり是正されているので、もう少し、是正が進めばいいなと、円安の方向に進めばいいなと思っている」
──どのように脱官僚を成し遂げていくのか。
「鳩山総理が少し言葉を継ぎ足して脱官僚依存、という表現をしている。私もそういうスタンスだ。3カ月あまりの、この内閣の中で、行き過ぎた官僚依存は相当程度変わったと思っている」
──207兆円の予算の組み替えについて、特別会計や公益法人、独立行政法人の改革の具体的イメージや財源ねん出は。
「行政刷新会議が中心にやる課題だと思っている。実は昨日昼間、まだ財務相に任じられるのが分かる前に、仙谷大臣を含めて数人で相談しており、各省庁の3役に管轄分野での特別会計等を精査するよう、早ければ次の閣議の閣僚懇談会の中で多少、資料を含めて提示しようと話をしていた」
──過去最大規模に膨らんだ予算や他閣僚に関して。
「史上最高規模の予算になったこと自体は、リーマンショック以来の日本経済をみる中で、いろいろ私と、例えば亀井大臣(亀井静香郵政・金融担当相)で議論があったと見られているが、私自身も、今緊縮財政にしていいと一度として思っていなかったし、そういう主張はしてこなかった。ある程度、景気刺激的な財政で、来年度予算を組むべきと、私を含め多くの内閣メンバーが考えていた。額が大きいから良いと悪いという人の両方あるが、ある程度、この経済情勢の中では景気刺激的な意味を持つ予算であることは、ある意味当然のことだと思う。中身はコンクリートから人へという基本方針を明確に打ち出した予算になっている。約44兆円の国債発行は藤井前財務相も強く主張され、それはぎりぎり守られて、マーケットから信認も何とか得られた」
──今回の予算編成での政治主導は果たせたのか、その評価は。
「国家戦略担当の立場で予算編成にかなり深く関わってみたが、国家戦略室が財務省主計局の代わりに査定するならば、代わりに主計局の人間を全部持ってくるしかない。財務省主計局がそういう仕事をすることが、財務省依存とか財務省支配とかいう見方はしていない。移したからといって、今度は国家戦略局官僚依存になってしまい結局は同じこと」「非常に今回の予算では政治主導が貫かれた」
──今後の省運営を考える中で、菅財務相の判断で幹部人事を動かす考えはあるか。
「一般的に言って憲法15条には、公務員を選任または罷免する権利は国民固有の権利であると書かれている。ある意味で政治家もそうだが、一般公務員も含めて選ぶ・辞めさせる権利は国民にある。省庁の官僚人事については、各省庁の大臣が国民固有の権限を預かっている。ですから、やるべき時には人事権を行使するのは当然のことだと思っている」
──日本航空(9205.T: 株価, ニュース, レポート)の再建問題に、どのような方向性で取り組んでいくのか。
「基本的にこれまでと同じでよいと思っている。まずは再生支援機構に、日本航空と、最終的には日本航空に融資をしているいくつかの主な銀行が支援要請をすると。すでに日本航空は要請している訳だが。その支援要請に対して、支援機構が支援をするしないを決める段階で、どのような再生がありうるかを提案するという形になってくるとみられている。私の立場からすると、支援機構が支援をすることになるとすれば、支援機構の考え方、日本航空に多額の融資をしている多くの金融機関の考え方、日本航空自身の考え方、さらには運航の行政的責任を持つ国交省の考え方、こういうものの中からしっかりした合意を形成して、関係者が協力して再生に取り組めるという全体の状況を生み出すため、政権としての支援をしていく。中身そのものを直接こういうやり方がいい、あれはだめだとか、そういう立場ではない」
──2011年度予算の概算要求、マニフェスト関係の予算確保について。
「かなり気が早いね。やっと来年度予算の審議が始まるかどうかで、次の予算の概算要求の時期までは考えていません。一般的に参議院選挙は7月中の可能性が高いとすれば、それ以前にしなければならない理由は現時点では必ずしも思い当たらない」
──景気の二番底懸念があるが、補正の可能性について。
「ほんと気が早いね。この国会が一応18日ということになりそうだが、開かれれば、まず2次補正を出して成立させ、それから来年度予算の審議に入っていく。その中身を含めて、金融政策の連動も含めて、何とか二番底という状態は回避したい、そうならないようにしたいという考えの下に2つの予算を作っている。その先に、さらにそういう時どうするかは、仮定の仮定が重なっており、申し上げる段階にはない」
──鳩山首相からの指示はどのようなものか。国際会議日程で2月と4月にG7があるが大臣自身が出席するのか。
「首相からは是非よろしくとの短い言葉があった。私にとっては十分気持ちが分かった」「2月初めにG7が予定されていると聞いているが、まだ準備まで行っていない。一般的には財務相が出ていたケースが多いと思うので、過去のケースや会議の重要性をよく精査する中で、必要であれば、もちろん私自身出かけたい。国会日程との関係もあり確定的なことは…」(2010年 01月 7日 18:47 JST)
b920f2d9.JPG 菅財務相が就任記者会見:識者はこうみる ―― [東京 7日 ロイター] 菅直人副総理兼財務・経済財政担当相は7日午後、財務相就任を受けて記者会見し、一般会計と特別会計を合わせた総予算の見直しに積極的に取り組むとともに、財政再建には需要拡大に向けた政策展開が基本的な道筋になるとの見解を示した。/また、為替政策に関して、為替相場が適切な水準になるように日銀と連携して取り組むとし、現在の為替水準について「ドバイ・ショックのころに比べて円安だが、もう少し円安方向に進めばいい」と語った。/同記者会見での発言内容に関する識者の見方は以下の通り。
●為替水準の言及に違和感<みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト 上野泰也氏>
 産業界を引き合いに出しているとはいえ、為替水準に明確に言及していることには違和感がある。一方、特別会計や公益法人を含めた207兆円の総予算見直しに関しては、2011年度予算編成をにらんだ埋蔵金の積み増しが視野にあってのことではないか。消費税率は4年間上げない方針を打ち出しており、どこかで「つじつま合わせ」が必要になる。中期的な財政健全化も念頭にありそうだ。/焦点になるのは、外為特会のストックの埋蔵金だ。為替が円安になれば比較的、含み損のレベルが低くなり、使いやすくなる。/政府・日銀間で軋轢(あつれき)が生じる可能性は小さい。昨年12月の追加緩和が円安・株高につながったことに対し、菅氏は高い評価を繰り返し表明している。日銀が導入した固定金利の新オペをめぐっては、為替対策が必要な際、期間を延ばしたり金額を増やしたりと柔軟な対応が可能だ。国債買いきりの増額論議は、浮上しにくいのではないか。
●日本経済の現状踏まえた意思表明<三菱東京UFJ銀行 チーフアナリスト 高島修氏>
 日本経済の現状を考えれば、菅財務相がもう少し円安方向に進めばいいとの意思表明をしたことは評価できる。ただ、為替介入については、国際関係を考えれば実施しにくい環境にあることも事実だ。/現在は、米雇用統計や1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)をにらんでドル高・円安に振れやすい局面。この地合いに沿った発言だったことでインパクトを持った。今の流れのなかでは、ドル・円は94~95円程度まで円安に振れてもおかしくない。
●ソブリン・リスク意識して円売り<草野グローバルフロンティア代表取締役 草野豊己氏>
 菅財務相の発言で円が売られた背景は「緊縮財政にしていいとは一度も思ったことはない」とのコメントだ。ヘッジファンド業界の今年のテーマはソブリン・リスク。海外投資家の間でも、ブラックロック(BLK.N: 株価, 企業情報, レポート)やベアリング・アセット・マネジメントなど、政府債務の増大や中央銀行の政策が景気回復を頓挫させかねないとの見方から、米国債や英国債の保有を減らす動きが出てきている。/そうしたなか、政府債務が主要国の中でも突出している日本の財務相が財政拡張政策を意識させる発言をすれば、本格的な日本国債売り・円売りを誘発しかねない。海外勢は、自民党から民主党への政権交代を受けて日本の改革への期待を高めていたが、これも剥落しつつある。/「もう少し円安方向に進めばいい」などの発言で為替介入が頭をよぎった向きもあろうが、今の水準で介入はあり得ない。」    (2010年 01月 7日 18:35 JST)
 今朝のウェブニュースから2つ。
 菅氏の財務相起用 不安を口にする霞が関 ―― 藤井裕久財務相の後任に菅直人副総理が就任することが6日決まり、東京・霞が関の官庁街では、通常国会への対応が迫っている時期だけに、官僚と対峙(たいじ)してきた菅氏への不安を口にする官僚も目立った。/「菅氏の就任で財務省の力は弱まるのではないか」と、菅氏の姿勢を警戒する官僚は少なくない。一方で「(菅氏でも)ある程度のばらまき予算を認めざるを得ない立場になる。閣内で明快に厳しい意見を言えず、存在感が弱まるのでは」(総務省幹部)とし、影響力の低下を懸念する声も。農林水産省の課長は「評価に関しては何も言えない」と素っ気ない反応。国家戦略担当相の菅氏を支えてきた内閣府のある幹部は「報道以上のことは分からない」と繰り返した。(産経ニュース、2010.1.6 21:58)
b6d7c554.JPG 「菅財務相は予算委で攻めやすい」 加藤元自民幹事長 ――  衆院予算委員会で自民党理事を務める加藤紘一元幹事長は6日夜、民放BS番組に出演し、藤井裕久財務相の後任に菅直人副総理が決まったことについて「すぐカッとなる方なので攻めやすい」と述べ、就任を“歓迎”する意向を示した。/加藤氏は「財務相内定後の菅氏の表情は硬く、あまりやりたくなかったのでないか。何かあったのかとすら思う」と指摘。「事業仕分けなどで平成22年度予算案の厳しさを知る仙谷由人行政刷新担当相が最適任者と思っていたが、菅氏は予算案の構図にかかわっておらず攻めやすい」と述べた。(産経ニュース、2010.1.6 23:29)

 ギリシア神話:勇敢なる少女キュレーネー
 Kyrene(キュレーネー)はテッサリアの河ペーネイオスの河神の息子Hypseus(ヒュプセウス)の娘であった。彼女は単に容姿が優れていたばかりでなく、男勝りの闊達さでいつも身軽な装いで美しい肌を惜しげもなく風になぶらせ、野山を馳せ回ってただ狩猟にのみ身を打ち込んでいた。アポローンが初めて彼女を見かけたのは、丁度彼女が単身武器をも持たず、獅子と組討していたところのことであった。銀弓の御神はこの様子を見て吃驚されると同時に、その大胆さ向こう見ずさに心を動かされた。ともかくこの美しい、かつ勇敢な少女に激しい愛情を覚え給うたアポローン神は、まず獅子を容易く眠らせてから、彼女を自らの黄金の馬車に乗せ、ペリーオンの山から遥かに空を馳せて、地中海を越える南のアフリカはリビアまで運んで行かれた。
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49d6d36c.JPG そこで彼女はAristaios(アリスタイオス)の母になった。このAristaiosは恐らくこの地方の古くからある土地神で、農牧の神として知られ、土民に養蜂やオリーブ樹の栽培、狩猟の方法等を教えたと言い伝えられる。Kyreneが運ばれて行ったのは、アフリカはリビアのキュレーネ市であって、後にキュレナイカ地方の首都として栄えた町である。さすれば、この伝説もこの都市の縁起としてその縁故の人々によって形づくられたものであろう。Aristaiosは土地の伝説にあった農神が、人類に光りを与えるアポローンの子として、ギリシア名をつけたられたものであろう。
 今朝のウェブニュースから2つ。
 東京地検、小沢氏に近く出頭要請 「陸山会」土地購入疑惑で聴取へ ―― 民主党の小沢一郎幹事長の資金管理団体「陸山会」が平成16年に購入した土地をめぐる疑惑で、東京地検特捜部が小沢氏から任意で事情聴取する方針を固めたことが5日、関係者への取材で分かった。近く聴取に応じるよう要請する。/小沢氏は疑惑に関する告発の対象になっていない。しかし、小沢氏が土地取引をめぐる陸山会と関連政治団体間の複雑な資金移動に関与した疑いが強いことから、疑惑の全容解明には小沢氏本人の事情聴取が不可欠と判断したもようだ。/特捜部は通常国会が18日召集予定となったことを踏まえ、来週中にも陸山会の会計責任者だった民主党の石川知裕衆院議員(36)=北海道11区=に対する政治資金規正法違反容疑での処分内容を最終判断する方針だが、その前に小沢氏に出頭を求め、土地取引の経緯や不記載の認識などについて説明を求めるとみられる。政権与党の幹事長が捜査機関から事情聴取を受けるのは極めて異例。/関係者によると、陸山会は16年10月、東京都世田谷区の土地を約3億4千万円で購入。複数の関連政治団体を経由するなどして、土地購入の直前に現金約4億円が陸山会に入り、直後にも約1億8千万円が入金された。取引直後には4億円の定期預金が組まれ、小沢氏名義で4億円を借り入れていた。/石川氏は特捜部の任意聴取に「小沢先生の指示で土地を購入した。運転資金が足りなくなり、小沢先生に相談して個人資金約4億円を貸付金として受け取り、土地代金に充てた」と供述したが、この資金を含む約5億8千万円は収支報告書に記載されていない。石川氏は不記載を認め、「ずさんだった」としている。/また、翌17年3月にも別の4億円が陸山会などの口座に入金され、5月に引き出されていたほか、19年には陸山会が小沢氏に4億円を借入金返済名目で支出していたとされる。いずれも収支報告書に記載はなく、不記載の総額は10億円以上に上る可能性もある。/特捜部は小沢氏本人しか分からない資金の移動が不記載となっていることなどから、事情聴取が不可欠と判断したもようだ。  (産経ニュース、2010.1.6 02:00)

f6c29137.JPG 藤井氏辞任で政権に痛手 背景に小沢氏との確執、「政治とカネ」も? ―― 18日召集予定の通常国会を控え、鳩山由紀夫首相の大きな後ろ盾となってきた藤井裕久財務相が辞意を固めたことは、政権に大きな痛手となった。後任人事をめぐり、政府・民主党ではすでに熾烈な綱引きが始まっており、これが政局の序章となる可能性もある。/「藤井さんは大丈夫ですか? 次を用意した方がいいんじゃないですか」/民主党の山岡賢次国対委員長は4日、党本部で首相にこう詰め寄った。/首相が最優先課題に掲げる平成21年度第2次補正予算案と22年度予算案の審議では財務相が最前線に立たされる。後任には即戦力を求められるが、首相は「どうなんですかねえ…」と曖昧に答えるだけだった。/首相は昨夏、政界引退を表明していた藤井氏を必死に説得し、衆院選で比例代表の名簿に登載した。財務相起用には民主党の小沢一郎幹事長が難色を示したが、これも押し切った。いかに首相が藤井氏に絶大な信頼を置いていたかの証左といえる。/にもかからわず、唐突な辞意は腑に落ちない。藤井氏は「健康上の理由」の一点張りだが、小沢氏との確執を指摘する声もある。/小沢、藤井両氏はかつて盟友だったが、次第に疎遠となり、昨年12月の22年度予算編成をめぐり、対立は表面化した。/藤井氏は子ども手当への所得制限導入や診療報酬引き上げ反対を主張したが、小沢氏は次々に覆し、12月16日の民主党の重点要望の際には「財務省は予算編成を『急げ、急げ』と言っているが、国民の声をちゃんと聞いてやってくれ!」と藤井氏を面罵した。この件を機に藤井氏は財務相を続けることに嫌気が差したといわれている。/もう一つ、辞意を固めた理由として「政治とカネ」問題も取りざたされる。/藤井氏は旧自由党で小沢党首の下、幹事長を務め、平成14年に政党助成金など党費から組織活動費として約15億2千万円が藤井氏あてに支出されたことが明らかになっている。/この件について、藤井氏は複数の議員に「おれ、あれ知らないんだよなあ」と漏らしているが、自民党は通常国会でこの問題を徹底追及する構えを見せており、藤井氏が矢面に立たされる公算は大きかった。/首相が藤井氏の慰留をあきらめても後任人事は難航が予想される。/即戦力として仙谷由人行政刷新担当相、野田佳彦財務副大臣の名が挙がるが、両氏は小沢氏と距離があり、無理に起用すれば首相と小沢氏の関係にヒビが入る可能性がある。菅直人副総理・国家戦略担当相の起用も有力視されるが、菅氏にあまりに権限が集中するとの見方もある。ピンチヒッターとして峰崎直樹財務副大臣の起用も取りざたされている。/「あれは検査入院じゃないだろ?」/藤井氏が入院した翌日の12月29日夜、小沢氏は与党幹部との懇談会の席上で冷ややかにこう言い放ったという。こういう事態になることを予測していたのかも知れない。        (産経ニュース、2010.1.6 00:02)

 ギリシア神話:神よりも人間を伴侶に選んだマルペーッサ
 Marpessa(マルペーッサ)は武神Arēs(アレース)の息子と言われるエウエーノスの娘で、夫と聞こえたIdas(イーダース)は「地のうえにある武士(もののふ)のうち、とりわけていと力の勝れた者で、さても美しい踝の若妻ゆえ、ボイボス・アポローンのみことに向かい弓矢を執った」と記され、この伝説の由緒が極めて古いことを想像させる。
 Idasはアパレウスの子であるが、母アレーネーがポセイドーンによって生んだといわれ、ポセイドーン神から翼の付いた戦車を与えられていた。ところで、Marpessaには早くからアポローン神が思いをかけ、しばしば言い寄っていたのを、Idasが一図にはやる恋心から父親の許しも得ずに、我武者羅にかの戦車に載せて奪っていったのである。父親のエウエーノスは固より烈火のごとく憤って、自ら馬を駆り後を追ったが、神車には到底敵(かな)いえなかったので、その頃はリュコルマースと呼ばれていた川の畔に着いたとき、遂に断念すると共に無念やるかたなく、馬を殺し自分もこの川に身を投げて死んだ。この川は彼に因んでエウエーノス川と呼ばれるようになったと言う。
95f5e895.JPG その後、Idasはメッセーネーに赴いたが、前々からMarpessaに思いを寄せていたアポローンが今度は出かけて行った彼女を連れ去ろうとした。そこでこの二人の愛人同志は当然のことながら激しい鞘当てを演じ、あわや一大事に及ぶところを、天上より大神ゼウスが認めて仲裁に入り、もっとも合理的な方法として、Marpessa自身にどちらでも彼女の望む方を選び取らせることにした。Marpessaは思案の末に、Idasを生涯の伴侶に選んだ。その理由は、おそらく彼女が他日年老いた時不死身であるアポーロン神は自分を見棄てて、誰か若い容姿麗しい女の許へ行かれるであろう、しかし人間であるIdasは恐らく自分を愛して渝(か)わるまいというのであった。
 ギリシア神話:ヒュアキントス
409d0bf3.JPG Hyakinthos(ヒュアキントス)は、Kyparissos(キュパリッソス)と同じようにギリシア神話でアポローンに愛された美少年である。アポローンとの円盤投げの遊戯中に、その跳ね返りを頭に受けて死ぬ。その際、ヒュアキントスの頭部から流れた血から、花が咲きヒヤシンスの名がついた。現在のアイリス、ラクスパ、あるいはパンジーであるとも。一説には西風の神Zephyros(ゼピュロス)もヒュアキントスを愛していたが、彼に拒絶される。ある日アポローンとHyakinthosが仲睦まじく円盤投げをしているのを見て、ゼピュロスは嫉妬に狂った。そしてアポローンの投げた鉄輪がヒュアキントスに当たるよう風を操り、それを頭に受けたヒュアキントスは死んだ。
 Hyakinthosはラコーニアの首都スパルテの南の地アミュクライの生まれて、その開祖アミュクラースの子ともいわれる。秀でた眉に紅をさした豊かな頬をして元気一杯に野山を駈ける彼の姿は、とりわけ銀弓の御神の御心に叶うものだった。御神はしばしばデルボイの神殿を空しくして、信託を伺いに群れ寄れる信者たちに待ちぼうけを食わせ、はるばるアミュクライの野に降臨されるのであった。少年を誘っては町外の、柔草(にこぐさ)が緑に一面のふっくらとした畳を敷き詰める辺りに出て、運動の競技にうち興じられた。今しもティーターン太陽(ヘーリオス)神はまさしく頭上に進めていた。二人は衣を脱いで裸体となり、豊かなオリーブの油で肌を輝(てら)せながら、大き目の円盤(デイスコ)を手に、技を競い合った。春もはや過ぎようかという頃であった。Zephyros(ゼピュロス)が静かに梢を揺すっていた。この西風の神Zephyros(男神)もまた、Hyakinthosに思いを寄せる若者の一人であった。しかし、眉の匂やかな少年は、ただ一途にアポローン神を頼んで、他のもの共の言葉には一顧も与えなかった。それらは彼にとって、ただ煩わしいお節介に過ぎなかった。
37117eef.JPG アポローンの投げる番が廻って来た。よく釣り合いを取り、弾みをつけて御神はその円盤を勢いよく空中に投げた。重い円盤は風を切って飛び、ややあって投げ手投げ手の技倆(うでまえ)と力を示しながら地上に落ちかかった。勝負に熱中していたアミュクライの少年は危ないのも忘れてディスクの飛ぶほうへ走り寄って行った。疚ましげにこの様子を見ていた西風(ゼピュロス)が、ふとむらむらと燃え上がった嫉妬心から、その円盤を押し付けて方向を変えさせ、少年の額に真っ向から落ちかからせた。二人のあまりに親しげな様子と、楽しそうな語らいとが、彼の心を彼自身に反(そむ)かせこんな悪戯(わるさ)をさせてしまったのである。何故なら、彼はすでに額を割られ、朱に染まって倒れる少年を見て、言いようのない後悔と悲しみとに胸を貫かれるのだったから。ああ、何という一瞬時の性急な怒りが、おぞましい振舞いが、取り返しのつかない悔いを、我々に与えることだろう。
 デルボイの御神はこの様を見るなりすぐに駆け寄って、地上に倒れ身を縮めた少年を抱き上げようとした。御神の面はさながら地にもえる若草と同じように蒼ざめていた。どのように温めてみても、恐ろしい傷に手当てをしてしゅっけつをとめても、いろいろと薬草を門でつけても、去りかける彼の生命を、引き留めることはできなかった。あらゆる方策(てだて)も尽きて、アポローンは深い吐息と共にこういうばかりだった。
 「スパルテーの子よ、お前は子供らしい熱心さから死んでしまった。私はお前の傷に自分の罪を認めなければならない。お前は私の悩みの原因として何時までも留まるだろう。お前を思い出すたびに我と我が身が情けなくなる。私は自分をお前を殺した下手人として告発しなければなるまいから。だが、私の罪というのは何だろうか。もしもお前と馴れ親しんだことが罪といわれず、お前を愛したことが咎でないなら。 ああ、愛しいお前のためとあらば私の不死の命さえ断念(あきら)めたい。お前と一緒に冥府へ行けるものだったらば。だが運命によって一つに結ばれた私とお前は、いつまでも別れはしないだろう。私の唇から、お前の忘られる時はないのだ。お前は私の竪琴になろう。そして私の手によって奏でられ、私の哀歌をうたうだろう。お前は新しい花に変わって何時までも私の愛を受け、その色合いで私の嘆きを永遠になぞえることになろう。」
f7700160.JPG アポローン神が真心を篭めて言い放ったとき、傷口から地に滴り落ちて柔草(にこぐさ)を濡らしていた血が見る見る色相を変え、黒い土からテュロスの紅よりも鮮やかな花が葉を擡げた。その花は百合に似た姿をしていて、ただその花弁が純白の代わりに、濃い紫の悔いを湛えていた。しかし御神はこれでもまだ思い足りずに、自分の胸の嘆きの言葉をその花弁に刻みつけた。この時からヒヤシンスの花は花びらの上に「アイアイ」という字を誌(しる)されているのだという。その時から、スパルテーの全国では、かくも深くデルホイの御神の鍾愛を受けた少年が、自分の息子であるのを誇りとし、例年の祭りの日が来るごとに、祖先の祭りと同様いとも厳粛にこのヒュアキンティアの祭を執り行うのである。
プロフィール
ハンドルネーム:
目高 拙痴无
年齢:
93
誕生日:
1932/02/04
自己紹介:
くたばりかけの糞爺々です。よろしく。メールも頼むね。
 sechin@nethome.ne.jp です。


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