Hērā(ヘーラー)はギリシア神話に登場する最高位の女神であります。その名は古典ギリシア語で「貴婦人、女主人」を意味し、結婚と母性、貞節を司るといいます。添え名はGamelia(ガメーリアー、結婚の)、Zygia(ジュギアー、縁結びの)、Arkadiaアルカディアではまた女性の一生涯を表すPais(パイス、乙女)、Teleiaテレイアー(成人の女性、妻)、Chers(ケーラー、寡婦)の三つの名で呼ばれました。聖鳥は孔雀、郭公、鶴で聖獣は牝牛。その象徴は百合、柘榴、林檎であるといいます。
神話ではKhrono(クロノス)とRheā(レアー)の娘で、Tītānomakhiā(ティーターノマキアー)の間Ōkeanos(オーケアノス)とTēthȳs(テーテュース)が彼女を預かって、世界の果てで養育したといいます。もっとも養育したのは他の神であるとの伝承もあります。Hēsíodos(ヘーシオドス)によればヘーラーはゼウスが三番目に兄弟姉妹婚した正妻であるといいます。その婚礼の場には諸伝があります。ヘーラーとゼウスの婚礼は「聖なる婚姻」としてギリシア各地で行われました。ゼウスとの間に、Arē(アレース、軍神)、Eileithyia(エイレイテュイア、結婚神)、Hēbē(ヘーベー、青春の女神)を設けました。Hēphaistos(ヘーパイストス、炎と鍛冶の神)はヘーラーの子でありますが、ゼウスとの間の子か、ヘーラーが一人でもうけた子かについては異伝があるようです。
ヘーラーはオリュンポス十二神の一柱でありまはすが、オリュンポス十二神の中でも情報収集能力に優れた描写が多く、夫ゼウスの浮気を迅速に察知するなど高い監視能力を発揮します。ギリシア神話に登場する男神は総じて女性にだらしがなく、夫であるゼウスはその代表格であるようです。そのため、結婚の守護神でもあるヘーラーは、嫉妬心が深く、彼の愛人(Semelē〈セメレー〉、Lētō〈レートー〉、Īnō〈イーノー〉、Kallistō〈カリストー〉とヘーラーに仕える巫女・Io〈イーオー〉など)やその間に生まれた子供(Dionȳsos〈ディオニューソス〉、Hēraklēs〈ヘーラクレース〉など)に復讐する残酷な女神として描かれているのです。頭に血が上ると自分の子孫にも容赦の無い一面も持ち、ゼウスの愛人になった曾孫Semelē(セメレー)に人間が直視すると致命的な危険があるゼウスの真の姿を見たがるように仕向けます。
ヘーラクレースに惚れ込んで黄金の帯を譲る約束をした孫のHippolyte(ヒッポリュテー)の部下を煽動してヘーラクレース一行を襲わせ、最終的には潔白を示すため無抵抗のまま弁明を試みるヒッポリュテーをヘーラクレースに殺させます。自分の手を汚さずに両人に悲惨な最期を遂げさせています。しかし、ヘーラー自身は貞淑でありました。
最も特殊な異伝は『ホメーロス風讃歌』の中の「アポローン讃歌」でしょう。ゼウスが女神Athēnā(アテーナー)をひとりで生み出したことや、彼女の産んだHēphaisto(ヘーパイストス)がアテーナーに見劣りすることに腹を立てて、ティーターン神族の助けを借りて単性でTȳphōn(テューポーン、あらゆる怪物の王)を産んだとされます。
ヘーラーの母乳は飲んだ人間の肉体を強化し不死身にする力があり、ヘーラクレースもこれを飲んだため乳児時代から驚異的な怪力を発揮することが出来たといいます。また、この時へーラクレースの母乳を吸う力があまりにも強かった為、へーラーはヘーラクレースを突き飛ばし、その際に飛び散ったへーラーの母乳が天の川になったのだともいわれています。なお、ヘーラクレースは、ヘーラーの子ではありませんが「ヘーラーの栄光」と言う意味の名を持っています。
Troia(トロイア)戦争ではアテーナーと組んでギリシア側に味方します。ギリシア側の英雄を助けて戦い、アテーナーと力を合わせ、敵対したAphrodite(アプロディーテー)の情人で、自らの息子の戦を司る神・Ārēs(アレース)を撃退するのです。また、意外と腕っぷしも強く、トロイアを支援したアルテミスを素手で打ちのめす逸話もあります。
ヘーラーは毎年春になるとNauplia(ナウプリア、ペロポネソス半島の東に位置する町)のKanathos(カナートス)の泉で沐浴し、処女性を取り戻したともいわれています。
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