塾友のHitomi女史は28日にはシアトルへ帰るとの言うことなので、在日中にお世話になったこともあって、メールを入れておきました。曰く、
2016年8月28日10時40分発信 題:今頃はシアトルかな
28日に帰国と聞いていましたのでメールします。
先日はいろいろと有難う。お蔭で方々にメールできるようになり、助かりました。
若い人たちの間でムサイ爺がお邪魔だとは思ったのですが、皆が喜んで迎えてくれて大変嬉しかったです。
家族そろって折角訪ねていただいたのに、パソコンの不具合の調整で写真を撮るのを忘れてしまい残念です。息子さんもすっかり大きくなってお母さんの背を遥か越してしまっていた事にはびっくりしました。娘さんも女らしく美人の陰が見えてきましたね。旦那さんもすっかり日本語が上手になられましたね。
ずいぶん昔の写真ですが、臨海での写真を添付しておきます。
Hitoちゃんの隣のMakkouこと、KK君は、いまは自衛隊員で、去年の『はきだおれ市』に、家の手伝いをしているところを花川戸公園で出会いました。その時の写した写真も添付しておきます。弟のI君も元気です。
もう一人のT君は今はどうしている事やら、音信不通です。
これからも、何かにつけ、塾友たちの消息をお知らせしたいと思っています。
また、メールします。Hitoちゃんからのメールもお待ちします。
取り敢えず、本日はこれまで。 日高 節夫
朝パソコンを開くと、IN氏よりメールが入っていました。曰く、
2016年8月28日20時16分受信 題:前進座の鳴神
日高節夫様
前進座の芝居で、シェークスピアの「ヴェニスの商人」と「鳴神」をみたという話の続きを書いてみよう。
門司中学の講堂で観た「ベニスの商人」では、ひとりだけ瀬川菊之丞といううまい役者がいたのを覚えている。私がそんなに役者を見る目があったわけではない。クラスは違うが歌舞伎通の浜田君が、「あの芝居で、瀬川菊之丞がいちばんうまいね。せりふ回しも、演技も断然いい」というのでその役者が瀬川菊之丞と呼ぶ役者だと知っただけ。
そういえば、シャイロックやポーシャ姫以外、大切な狂言回しをする脇役の存在があった。ユダヤ人のシャイロックから、友人のために借金をして友人に用立てたアントニオではない。バッサニオではなかったろうか。
その瀬川菊之丞、演技も台詞も朗々として明るい発声で、演技は観客を引き付けた。浜田君は、この役者を前から知っていたのか、当日、初めてお目にかかったのか、ついぞ聞く機会がなかった。
「歌舞伎人名事典」で引いてみると、明治40年生まれ、昭和7年前進座に参加、8月、新橋演舞場で初演とある。そのまま、舞台に出続けて、昭和51年10月30日初日の大阪中座「新門辰五郎」の小鉄役で出演中11月3日大阪梅田のホテル阪神で心臓麻痺で死去とある。
昭和7年というから私の生まれた年に前進座に参加した役者、門司中学で「ベニスの商人」を演じたのは39歳頃の脂の乗り切った盛り、大劇場ではない田舎の中学の講堂で、巡回演劇の場であっても、戦争中の情報局や警察官の臨検を気にしなくてよい戦後の自由主義の芝居の場はさぞかしやりがいがあったろうと思います。
ここまでは蛇足。「歌舞伎十八番 雷神不動北山桜〈なるかみふどう、きたやまざくら)」(通称 鳴神)も当日、同時上演していました。すこしくどいが、粗筋を書いておきます。
《高僧・鳴神上人は、帝が皇子誕生の祈祷が成功すれば、鳴神上人の住んでいる北山に道場をつくると約束したにも拘わらず、皇子が誕生しても約束が叶えられず、怒って世界の龍神龍女を岩屋の滝壺に行力で封じ込めてしまう。そのため、雨が一滴も降らぬようになり農民は大弱り。朝廷では対策を練り、雲の絶間姫(くものたえまひめ)という宮中で第一の美女を、夫に死別した女が亡夫の衣類を洗濯しようと水を求めてこの山奥まで分け入ってきたという設定で、差し向ける。鳴神上人に近づき、色仕掛けで堕落させて、密法の注連縄を切る。そのために龍神龍女が八方に散り、雨が降る。絶間姫にしたたか飲まされて不覚を取った上人は、弟子たちから起こされて、自分の行法が破られたことを知り、荒れ狂って絶間姫の後を追う。》(芝居はこのような場合、あとから追っかけてつかまえられたためしがありません)
雲の絶間姫は美しい女形で、物堅いお上人様を落とすために、夫とのなれそめを語る川渡りの所作で、裾をぐっとからげて見せる。二人の弟子の堕落坊主、白雲坊、黒雲坊を相手に悩殺するものですから、すっかり破戒坊主になってしまうのです。
ところがこの時ばかりは、役者が汗っかきだったせいか、段々、紅の化粧が溶けて頬から顎から流れ落ちてきて、気の毒でした。普通の芝居ですと黒子の後見が直すのでしょうが、この時は手が足りなかったのか、花道を引っ込むまで、血だらけの絶間姫で、役者には気の毒な結果でした。
前進座の役者諸君が特別に安い化粧品を使っているわけでもないのでしょうが、あんなに顔が血だらけの雲の絶間姫は初めて見ました。
熱演の結果ああなったのでしょうが、やはり役者たるもの、黒子の後見にちゃんと見てもらって、メークを直したほうがよかったなあと思ったのでした。
この鳴神という芝居は、まことに皮肉なストーリーで、厳しい修業を積んでも女体に迷って凡夫に還るというテーマは生臭くて、数日前にもあった芸能界のおかしくて、かなしい現実を思い出しました。
長々と駄弁を弄してすみませんでした。暫くは口をつぐんでおきましょう。 IN
sechin@nethome.ne.jp です。
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