平仮名・片仮名の成立以前、漢字の実を借りて表記された『万葉集』は、現在に至ってもなお読み方の安定していない歌集なのです。読み方が違えば無論歌の姿も変わって来るし、意味もかわってしまうこともあります。
万葉集を編集しなおしたと言われる「類聚古集」に、 物皆者新吉唯人者舊之應宜(巻一〇・1885) と原文はたったの12字の歌があります。
万葉学者はこの12字を、首尾一貫した短歌に復元しなければなりません。
① 物皆者 新吉 唯人者 舊之 應宜
物皆は 新(あらた)しき吉(よ)し ただ人は
舊(ふ)りぬるのみし 宜しかるべし
② 物皆者 新吉 唯 人者舊之 應宜
物皆は 新(あらた)しき吉し ただしくも
人は舊りにし 宜しかるべし
③ 物皆者 新吉 唯 人者舊之 應宜
物皆は 新(あらた)まる吉し ただしくも
人は舊りゆく 宜しかるべし
①は、従来の読み方です。
②は、第3句は「唯」一字だけとし、「ただしくも」という万葉語で読んだ形です。
③は、②の区切り方を踏襲しながら、「新」をアラタマル、「之」をユクと動詞化して読んだものです。
原文 玉桙 路徃占 占相 妹逢 我謂
訓読 玉桙(たまほこ)の 道行き占(うら)に 占なへば
妹(いも)に逢(あ)はむと 我れに告(の)りつる
万葉集巻一一 2507
原文は僅か11字が並んでいるにすぎません。原文の「占相」を「うらなふ」という動詞で読めばこういう歌になります。しかし、「相」の字は占の正(まさ)しいことを意味する文字として、マサとも読むことが可能なのだと言います。「相」がマサならば「占相」はウラマサニと読みうるし、歌自体も
玉鉾の 道行き占の 占相(うらまさ)に 妹は逢はむと 我に告りつる
というような形に変貌してしまいます。なお、この歌の直前には次の一首が位置しています。
原文 事霊 八十衢 夕占問 占正謂 妹相依
訓読 言霊(ことだま)の 八十の巷に 夕占(ゆふけ)問ふ
占正(うらまさ)に告(の)る 妹は相寄らむ
万葉集巻一一 2506
sechin@nethome.ne.jp です。
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