瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
[2227] [2226] [2225] [2224] [2223] [2222] [2221] [2220] [2219] [2218] [2217]

原文   若草乃  新手枕乎  巻始而  夜哉将間  二八十一不在國
訓読   若草の 新手枕を まきそめて 夜をや隔てむ 憎くあらなくに
           作者不詳 万葉集巻十一 2542
現代語訳 新妻と手枕を交わしてから、一夜も逢わないで居られようか、憎くもないものを
 この歌の表記が「憎く」という語を「二八十一」と書いているところが興味深いです。作者は明らかに掛け算の「九九」をしていたはずです。「八十一」は「九九」、したがって「二八十一」で「憎く」というのです。
 『万葉集』には、その他に、鹿や猪を表す語「しし」を「十六」、十五夜の「望月」を「三五月」と書いたり、助詞の「し」あるいは助動詞「き」の連体形「し」を「二二」と書いた例もあります。

原文  …… 萬代 如是二二知三 三芳野之 蜻蛉乃宮者 ……
訓読  …… 万代(よろづよ)に 斯(か)く二二(し)知(し)ら三(さむ) 三(み)吉野の 秋津(あきづ)の宮は ……    笠朝臣金村 万葉集巻六 907
現代語訳
   …… 継ぎ継ぎと万代までにこのように統治なされる吉野の秋津の宮は、……
 ここには意識的に数字が列挙されています。
 ミという和語の数詞、サムという漢語の数詞、「二二が四」の掛け算など、あたかも万葉知識人の数知識を展示したような表記であります。

 「一一が一、二二が四」と数えながら、この数え方を「九九」と呼んでいます。「いろはにほへと……」を「いろは」と略称せずに「せすん」と呼んでいるようなもので、いささか奇妙ではありませんか。「一一が一」に始まる数え方がなぜ「九九」なのでしょうか?
 古い形式の「九九」は文字通り「九九=八十一」から数え起こしました。「九九=八十一、八九=七十二、七九=六十三……三九=二十七、二九=十八。八八=六十四、七八=五十六、六八=四十八……二八=十六」と数えてきて、最後が「……二二=四、一一=一」で終わります。さればこそ、「九九」だったのです。十世紀の「口遊(くちづさみ)」という書物に、上の順序を列挙し、「之を九九と謂ふ」と注記した明証があります。十五世紀の『拾芥抄』所載の「九九」の表も順序は同じです。

 「九九」はもともと中国の算法で、古来「九九八十一」に始まる方式が行われていたといいます。万葉人の習い覚えた「九九」も当然この方式でした。中国では元・明の算書に「一一」と下から数える順序を載せているということであるが、日本では十五世紀になってもなお「九九八十一」型であったことは『拾芥抄』所載の「九九表」によって明らかです。江戸時代の算書には既に「九九八十一」から始まる方式は載っていませんから、およそ十五世紀後半以降江戸時代初期あたりまでに新しい「一一が一」型の普及を見たのでしょう。
 狂言に『二九十八』というのがあります。

 ここの「九九」は「九九八十一」型であったのでしょうか、「一一が一」型であったのでしょうか?


 


この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
URL
コメント
パスワード Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
プロフィール
ハンドルネーム:
目高 拙痴无
年齢:
92
誕生日:
1932/02/04
自己紹介:
くたばりかけの糞爺々です。よろしく。メールも頼むね。
 sechin@nethome.ne.jp です。


小冊子の紹介
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新コメント
[m.m 10/12]
[爺の姪 10/01]
[あは♡ 09/20]
[Mr.サタン 09/20]
[Mr.サタン 09/20]
[ままだいちゅき 09/20]
[ままだいちゅき 09/20]
[ままだいちゅき 09/20]
[爺 09/20]
[ままだいちゅき 09/20]
最新トラックバック
ブログ内検索
カウンター
Powered by ニンジャブログ  Designed by ゆきぱんだ
Copyright © 瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り All Rights Reserved
/