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 『万葉集』の歌は、ごく少数の戯笑的作品以外は、本文表記にどんな漢語が使用されていても、必ず和語で読まれていたはずです。
   展轉  戀者死友 灼然  色庭不出  朝容皃之花
                 (万葉集巻一〇 2274)
 「展転」「灼然」などの漢語を音読することは勿論許されません。これらの漢語は万葉語として何と和訓すればよいのでしょう。現在この一首は、
   こいまろび 恋ひは死ぬとも いちしろく 
          色には出でじ 朝顔の花
という歌であったことが明らかになっています。


 『万葉集』には「灼然」という漢語が全部で13か所使われていると言いますが、すべて形容詞「いちしろし」の表記と認めて差し支えないそうです。
    道の辺の 壱師の花の 灼然(いちしろく) 
         人皆知りぬ わが恋妻は
            柿本人麻呂 万葉集巻一一 2480 

 第三句の「いちしろく」は上から「いちしの花のいちしろく」と同音の連続法を用いて導いた序詞なのです。「灼然」はイチシロシのほか、アキラケシ(『類聚名義抄』)などとも読める文字ですが、この歌の「灼然」が「壱師の花のあきらけく」では上二句の序詞が機能していないことになります。

 この歌の「灼然」を鎌倉時代の写本に「いちしく」と読んでいるものがあるそうです。「いちしろく」という語形は、平安時代のごく初期にはもう「いちしるく」という形ににもなっていたようです。「いちしろし」から転じた「いちしるし」が、中世期に「いちじるし」と濁音化するのです。万葉語の「いちしろし」から現代語の「いちじるしい」まで千数百年の語史は理解を絶するほどいちじるしいものではありません。


 


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