瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
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(はり)を詠んだ歌3
16-3791: みどり子の若子髪にはたらちし母に抱かえ.......(長歌)


標題:竹取翁、偶逢九箇神女、贖近狎之罪作歌一首并短歌
標訓:竹取の翁の、偶(たまたま)九箇(ここのたり)の神女(めかみ)に逢ひしに、近く狎()れし罪を贖(あが)ひて作れる歌一首并せて短歌

:昔有老翁、号曰竹取翁也。此翁、季春之月登丘遠望、忽値煮羮之九箇女子也。百嬌無儔、花容無止。于時娘子等呼老翁嗤曰、叔父来乎。吹此燭火也。於是翁曰唯々、漸赴徐行著接座上。良久娘子等皆共含咲相推譲之曰、阿誰呼此翁哉。尓乃竹取翁謝之曰、非慮之外偶逢神仙、迷惑之心無敢所禁。近狎之罪、希贖以謌。即作謌一首并短謌
序訓:昔、老翁ありき、号(なづけ)て竹取翁と曰ふ。この翁、季春(きしゅん)の月に丘に登り遠く望むに、忽(たちま)ちに、羮(あつもの)を煮る九箇の女子に値()ひき。百嬌儔(たぐ)ひ無く、花容に匹するは無し。時に娘子等は老翁を呼び嗤(わら)ひて曰はく「叔父来れ。この燭の火を吹け」という。ここに翁は「唯々」と曰ひて、漸(やくやく)に赴き徐(おもふる)に行きて座(むしろ)の上に著接(まじは)る。良久(ややひさか)にして娘子等皆共に咲(えみ)を含み相推譲(おしゆづ)りて曰はく「阿誰(あた)がこの翁を呼べる」といふ。すなわち竹取の翁謝(ことは)りて曰はく「慮(おも)ざる外に、偶(たまさか)に神仙に逢へり、迷惑(まど)へる心敢(あへ)へて禁()ふる所なし。近く狎()れし罪は、希(ねが)はくは贖(あがな)ふに歌をもちてせむ」といへり。すなはち作れる歌一首并せて短歌
序訳:昔、八十歳を越える老人がいた。呼び名を竹取の翁といった。この老人が春三月頃に丘に登って遠くを眺めると、たまたま、羮を煮る九人の女性に出逢った。その妖艶さは比べるものが無く、花のように美しい顔立ちに匹敵する人がいない。その時、娘女達は老人を呼び笑いながらいった。「おやじ、ここに来い。この焚き火の火を吹け。」と。老人は「はいはい」といってゆっくりと娘女達の間に近づき、膝を交えて座った。ところが、しばらくして、娘女達は一様に笑いを含めながらお互いをつつきあい、「一体、誰が、このおやじを呼んだの」といった。そこで、竹取の翁が詫びていうには、「思ってもいなくて、たまたま神仙に回り逢い、戸惑う気持ちをどうしても抑えることが出来ませんでした。近づき馴れ馴れしくした罪は、どうか、この償いの歌で許して欲しい」といった。そこで作った歌一首。并せて短歌。 


原文:緑子之 若子蚊見庭 垂乳為母所懐 褨襁 平生蚊見庭 結經方衣 水津裏丹縫服 頚著之 童子蚊見庭 結幡之 袂著衣 服我矣 丹因 子等何四千庭 三名之綿 蚊黒為髪尾 信櫛持 於是蚊寸垂 取束 擧而裳纒見 解乱 童兒丹成見 羅丹津蚊經 色丹名著来 紫之 大綾之衣 墨江之 遠里小野之 真榛持 丹穂之為衣丹 狛錦 紐丹縫著 刺部重部 波累服 打十八為 麻續兒等 蟻衣之 寶之子等蚊 打栲者 經而織布 日曝之 朝手作尾 信巾裳成 者之寸丹取 為支屋所經 稲寸丁女蚊 妻問迹 我丹所来為 彼方之 二綾裏沓 飛鳥 飛鳥壮蚊 霖禁 縫為黒沓 刺佩而 庭立住 退莫立 禁尾迹女蚊 髣髴聞而 我丹所来為 水縹 絹帶尾 引帶成 韓帶丹取為 海神之 殿盖丹 飛翔 為軽如来 腰細丹 取餝氷 真十鏡 取雙懸而 己蚊杲 還氷見乍 春避而 野邊尾廻者 面白見 我矣思經蚊 狭野津鳥 来鳴翔經 秋僻而 山邊尾徃者 名津蚊為迹 我矣思經蚊 天雲裳 行田菜引 還立 路尾所来者 打氷刺 宮尾見名 刺竹之 舎人壮裳 忍經等氷 還等氷見乍 誰子其迹哉 所思而在 如是 所為故為 古部 狭々寸為我哉 端寸八為 今日八方子等丹 五十狭邇迹哉 所思而在 如是 所為故為 古部之 賢人藻 後之世之 堅監将為迹 老人矣 送為車 持還来 持還来
                                        万葉集 巻16-3791
                                    作者:竹取翁
よみ:緑子の 若子の時(かみ)には たらちしも懐(なつか)し 褨(すき)を襁()け 平生(ひらお)の時(かみ)には 木綿(ゆふ)の肩衣(かたきぬ) ひつらに縫ひ着 頚(うな)つきの 童(わらは)の時(かみ)には 結幡(けつはん)の 袖つけ衣(ころも) 着し我れを 丹()よれる 子らが同年輩(よち)には 蜷(みな)の腸(わた) か黒し髪を ま櫛持ち ここにかき垂れ 取り束(たか)ね 上げても巻きみ 解き乱り 童に為()しみ 薄絹(うすもの)似つかふ 色に相応(なつか)しき 紫の 大綾(おほあや)の衣(きぬ) 住吉の 遠里小野の ま榛(はり)持ち にほほし衣(きぬ)に 高麗錦 紐に縫ひつけ 刺()さへ重(かさ)なへ 浪累()き 賭博為し 麻続(をみ)の子ら あり衣の 宝(たから)の子らか 未必(うつたへ)は 延()へて織る布(ぬの) 日晒(ひさら)しの 麻手(あさて)作りを 食薦(しきむも)なす 脛裳(はばき)に取らし 醜屋(しきや)に経()る 否(いな)き娘子(をとめ)か 妻問ふに 我れに来なせと 彼方(をちかた)の 挿鞋(ふたあやうらくつ) 飛ぶ鳥の 明日香壮士(をとこ)か 眺め禁()み 烏皮履(くりかわのくつ) ()し佩()きし 庭たつすみ 甚(いた)な立ち 禁(いさ)め娘子(をとめ)か 髣髴(ほの)聞きて 我れに来なせと 水縹(みなはだ)の 絹の帯を 引き帯()なし 韓(から)を帶に取らし 海若(わたつみ)の 殿(あらか)の盖(うへ)に 飛び翔ける すがるのごとき 腰細(こしほそ)に 取り装ほひ 真十鏡(まそかがみ) 取り並()め懸けて 己(おの)か欲()し 返へらひ見つつ 春さりて 野辺を廻(めぐ)れば おもしろみ 我れを思へか 背の千鳥(つとり) 来鳴き翔らふ 秋さりて 山辺を行けば 懐かしと 我れを思へか 天雲も 行き棚引く 還へり立ち 道を来れば 打日刺す 宮女(みやをみな) さす竹の 舎人(とねり)壮士(をとこ)も 忍ぶらひ 返らひ見つつ 誰が子ぞとや 思はえてある かくのごと 為()し故(ゆへ)し 古(いにしへ)の 狭幸(ささき)し我れや 愛()しきやし 今日(けふ)やも子らに 不知(いさ)にとや 思はえてある かくのごと 為()し故(ゆへ)し 古(いにしへ)の 賢(さか)しき人も 後の世の 語らむせむと 老人(おひひと)を 送りし車 持ち帰りけり 持ち帰りけり
◎この歌は万葉集最大の難訓を持つ難解歌のため、現在においても適切な解釈が得られていません。
意味:(わしが)誕生したばかりの頃は“たらちし”母親に抱かれていた。“ひむつきの”幼児の頃は、木綿の肩衣に総裏を縫いつけて着ていた。“うなつきの”童子の頃は、絞り染めの袖着衣を、わしは着ていたのじゃ。赤いニキビの、思春期の頃は、“みなのわた”真っ黒な髪を、立派な櫛で梳いて、髪を垂らしたり、巻いたり、梳き乱しては、その年代に似合う髪形にしていた。“さ丹つらふ”(赤い)色をさした“紫の”綾織りの衣や、“住吉の”遠里小野の榛の木で、染め上げた衣を(着用し)、高麗錦を紐にして縫いつけ、重ね着をした。“打麻やし”麻績の娘や“あり衣の”財の娘らが、絹を打ち延ばして織り上げた生地。日晒しの、手織りのアサ布を、前垂れ風の短い袴にあしらっていたのじゃよ。
 (青年期になった)何日も自宅にこもった、稲置の乙女が、(わしに)求婚するといって、わしに贈ってきた、“おちかたの”二色交ぜ織りの足袋を履き、“飛ぶ鳥”明日香の男が、長雨の中、縫い上げた黒い沓(くつ)を履いて、(惚れた女の)庭にたたずむと、『そこを退きなさい』と(彼女の両親に追い払われた)。
 なかなか会えない娘(稲置の乙女)が、こっそり聞いて、わしに会いに来た。水色の絹帯を、付け紐風の韓帯みたく、“わたつみの”宮殿の瓦を飛び翔ける、ジガバチのように細い腰に装着する。“まそ鏡”(鏡を)二つ並べて、自分の顔を何度も見た。
 春が来た。野辺を駆ければ、わしに趣があるのか、“さ野つ鳥”(キジが)飛んできて鳴くよ。秋が来た。山辺を歩けば、わしに心ひかれたのか、“天雲も”たなびくものよ。帰途につこうと、道を戻れば、“うちひさす”宮殿に仕える官女や“さす竹の”舎人たちがこっそり見返っていた。『どこのイケメンかしら』と、関心を寄せられていたのじゃ。
 ―かくして、はるか昔は、もてはやされたわしであったが、“はしきやし”きょうび、(きみたち)若い娘らに、嫌な(じーさんと)思われている。かくのごとく、年をとると大事にされなくなる。昔の賢人たちも、後世(の若者ら)に見せるため、ジジババを(山中に)捨てに行った手押しの車を、持ち帰ったのじゃ。持ち帰ったのじゃよ
 
16-3801: 住吉の岸野の榛ににほふれどにほはぬ我れやにほひて居らむ


 

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