国際協力のあり方 協調が信頼を育み信頼が支援を加速させる
詫摩:現在のグローバルヘルスの研究では、中村さんのように実地体験を積み重ねるからこそ見えてくる課題も多く、実務分野の方と連携する重要性を感じています。日本は、新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大する以前から、負担可能な費用で医療にアクセスできる体制を目指した国際支援を行い、実務的な支援策として日本発の医療リソースを提供してきた実績があります。そうした取り組みの継続が、短期的にはコロナ禍を終息に導き、中長期的には次なるパンデミックに備える体制づくりにつながるはずであり、活動を牽引するJICAの重要性もさらに高まると思います。
中村:JICAの保健分野の活動の軸は、途上国の保健システムの強化や同分野を担う政府高官から現場レベルのコミュニティヘルスワーカーまでを含む様々な保健人材の能力強化です。コロナ禍は、保健システムが機能することによって回避できる部分がありますが、途上国の多くは末端まで十分に機能している保健システムがないことが大きな課題です。
詫摩:途上国では、コロナ禍で励行されるべき手洗いのための環境自体が整っていないケースも珍しくないのですよね。
中村:石鹸があっても水が出なかったり、料理や洗濯のための水の使用が優先されたりすることもあり、手洗い用に水を残すこと自体、ハードルが高い地域も少なくありません。私が赴任した南スーダンでは、子どもたちがプラスチックの容器に水をくみ、家に持ち帰って少しずつ大切に料理などに使うのですが、その水もそれほどきれいな水とは言い難いケースもあります。ただ、それでも現地では貴重な水なんです。
詫摩:基本的な衛生設備・衛生インフラの確立は各国で支援を進めるものの、普及がままならない状況なのですね。
中村:協力する側であるドナーや国際機関、NGOが意図した使われ方ではなく、現地の人々が別の使い方を優先させてしまうケースや、そもそも圧倒的に支援物資が足りないケースもあります。また、交通インフラの未整備によって支援を必要とする場所に辿り着くことすらできない場合は、援助を行き渡らせるために、国際機関が空から物資を投下することもあります。
詫摩:ただ設備をつくるだけではなく、陸路などの周辺整備も並行して行う必要があるのですね。その点、先進諸国による政府開発援助(ODA)と比べて、中国は道路や鉄道といった伝統的なハード面のインフラ整備に注力する傾向にあると思います。
中村:中国は国際協力の多様な分野でリーダーシップを取ろうとしています。例えば、南スーダンの僻地では医療サービスを提供し、現地で喜ばれていました。中国に対しては自国の利益だけを追求しているといった批判もあり、実際にそういうケースもあるかとは思いますが、実はソフト面の支援を強化するなど、国際協力の内容をアップデートさせているんです。
詫摩:先進国からすると中国は野心的に映りますが、現地からは対応がスピーディーだと評価する声もありますよね。
中村:そうですね。南スーダンで新国家の立ち上げに携わった際、国際機関や先進国がインフラを整備しようとすると、環境アセスメントなどでとても時間がかかったのですが、中国はトップダウンですぐに動きます。賛否両論ありますが、現地住民からすれば、生活の改善に直結する支援として有効なケースがあることも事実。その点、日本にとって中国は、国際協力におけるライバルともいえますが、決して競う必要はなく、戦略的に協調したり、役割の棲み分けをしたりしながら、国際協力を推し進めることが肝心なのだと思います。
詫摩:保健協力と国家間の信頼関係は、どちらも欠いてはならない両輪ですので、信頼関係がないから協力しないのではなく、協力関係の中で信頼関係が醸成されていくことが理想です。日中韓の3国にしても、「日中韓保健大臣会合」という枠組み自体はあるものの、政治的な対立によって活用し切れていません。大切なのは未来志向で協力する姿勢です。(以下、次回に続く)
sechin@nethome.ne.jp です。
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