日本の役割 戦後復興の経験もヒントに世界に資する独自性を追求
詫摩:途上国支援から核の問題、人権、AIDS、マラリア、そして新型コロナウイルスの感染拡大まで、グローバル社会にはさまざまな課題がありますが、私は教員として多様な事例を参考するとともに、中村さんのような実務経験者の視点を研究に取り入れながら、日本の保健協力における潜在力を掘り起こす研究成果を生み出せればと考えています。また、学生の指導においては、広く国際社会で解決すべき課題に関する基本的な知識と、選択可能なオプションも提示した上で、自分はどうするべきだと考えるのか、それはなぜなのかを自分の頭で考えて解決方法を導き出せる力を伸ばせればと考えています。正解のないテーマばかりですが、東京都立大学の学生の意識は非常に高いですし、社会をよりよく変革したいという気概を感じています。
中村:私はJICAで採用面接を担当することや大学の授業で学生さんに教えたりすることがありますが、同じように学生の皆さんの熱意を感じます。途上国でも日本国内でも、立ちはだかる問題は多様かつ複雑化して予測不能ですので、特定分野の知識というよりも、自分で動いて情報を集め、仮説を立てて解決策を考え、多様なステークホルダーを巻き込みながらその解決策を実施し、自論をブラッシュアップしていけるような人材に期待しています。そして、私自身は今後も実務家として紛争影響地域の国づくりや人材育成に携わりたいという希望を持っています。並行して、これまで実務家として南スーダンやソマリア、ブルンジなどで携わってきたプロジェクトのインパクトや教訓の整理集約も進めています。数々の実体験を紐解き、体系化できる部分は体系化することで、実務の成果をアカデミックな場で発信していきたいと考えています。そのプロセスを踏むことで、実務と学術研究の双方の知見を兼ね備え、それらの知見をまた現場で活用することができればと思います。現在、大学院に通い、紛争影響地域における民間セクターの役割について研究を進めている理由もそこにあります。
詫摩:そうですね。私も実務と学術研究は相互補完関係にあるべきだと思います。だからこそ私も、専門分野である「グローバルヘルス×国際政治」の研究成果をJICAの活動のような実務分野に還元できたり、論文を読んだ方に新たな視点を与えられたりできるような存在でありたいと考えています。現在は、先進諸国の独自性がどう現実の保健外交に活かされているか比較分析を進めており、各国の潜在力を具現化するプロセスを解明することで、今後求められる日本の役割をあぶり出したいのです。
中村:その役割を明らかにするヒントになるのが、日本の復興経験だと思います。いま紛争の渦中にある人々も、戦禍によって保健システム等の基本的な社会インフラへのアクセスがない人々も、数十年後には平和や安全な暮らしを手に入れられる可能性があることは、戦後復興を果たした日本人自身が経験として知っています。その経験も活かしながら途上国の人たちに伴走したいと考えています。祖父母の戦争体験に端を発するこの思いは、赴任先や出張先の途上国で出会った人々のエネルギー、今の日本では感じられないような国づくりへの情熱や献身に触れることでより強固になりました。これを読んだ学生さんが国際協力にやりがいを感じ、将来の選択肢に加えてくれると嬉しいです。
sechin@nethome.ne.jp です。
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