瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
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47cf9c7b.JPG 列禦寇がある時伯昏瞀人のために弓を射て見せた。彼が弓をいっぱいに引き絞ると、左の討(うで)は真っすぐ水平になり、討(うで)の上に杯の水を置いても零れないというほどの見事な姿勢。矢を放てば飛んでゆく第一の矢が韝(ゆごて)の上にかぶさっていると見る間に、併せもつ第二の矢がはや韝の上に載っているという目にも止まらぬ速さ。このときの彼はまるでからくり人形のように顔色一つ変えない。
 ところで傍らで見ていた伯昏瞀人は言った。
「期の弓は〈射の射〉すなわち弓を射ることを意識した有心の射撃であって、〈不射の射〉すなわち射ることを念頭に置かぬ無心の射撃ではない。もしそなたと高い山に登り、そばだつ岩石を踏んで立ち、百仞もある深い淵を見下ろすとすれば、そなたにいったい、かくも見事に弓がひけるかどうか」
 かくて伯昏瞀人は列禦寇と一緒に高い山にのぼり、そばだっ岩石をふんでたち、百仞もある深い淵を見下ろした。そして淵を背中に後ずさりし、足の半ばは崖の外に宙に垂れ、列禦寇に会釈して此処まで来いと合図した。列禦寇は地べたに這いつくばり、冷汗は流れて踵(かかと)にまで届くというていたらく。それをみて伯昏瞀人はいった。
「そもそも至人というものは、上は青空の彼方までうかがい、下は地底のきわみにまでもぐり、宇宙のすみずみをまで自由に駆け巡って顔色一つ変えないのである。ところが、今そなたはどうだ。おっかなびっくりで目をぱちくりさせる意気地なさ。こんな体たらくで矢を中(あ)てようとしたところで、まったく危ういものである」

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