「七」という字は、切断した骨の形を表したもので、元は「切る」というもとの意味をもつ漢字でした。
そこから音だけ借りて数字の「七」を表しています。これは「仮借(かしゃ)」という漢字のなりたちのひとつです。
その言葉を表す適当な漢字がないとき、意味や内容とは関係なく、同じ音や似た音をもつ字を借りて用います。
結局、「七」という漢字が本来もっていた「切る」という意味より、数字の七を表すほうが一般的になって、転用されてしまいました。
そのため「切る」という漢字を書くときは、「七」にわざわざ「刀」を添えることになったのです。
いにしえより「七」という数は、世界各地で特別な意味をもっていました。
西洋の神がこの世界を創りあげた七日間。
仏教や儒教における大切な七つの教え。
月の運行が七日間ごとに様子を変えることから暦が生まれ、世界には七つの海と大陸があることに気づきます。
日本では子どもが生まれて七日目に「お七夜」を祝い、この世を去れば七日間ごとの法要を経て、四十九日で来世の行き先が決まるといわれています。
七つ道具に七不思議、七賢人に七人の侍。
「七」という数字は人々を夢中にし、力を授け、生きる指針となってきたのです。
ではここで、もう一度「七」という字を感じてみてください。
中国の思想家、荘子の『應帝王第七』に「混沌の死」という寓話があります。
ある日、南と北に住む二人の帝が、「混沌」という名の帝が治める土地で手厚くもてなしを受けます。
「混沌」には、人が持つ七つの穴、両目、両耳、鼻の穴、口がありません。
自分たちはその穴で見たり聴いたり食べたり、息をしている。
そこで二人は試しに毎日ひとつずつ、「混沌」に穴を開けていきます。
ところが、すべての穴が開いた七日目に、「混沌」は死んでしまうのです。
好き嫌いを生じ、善悪や損得などを判断し、情報を得る七つの穴。
んな穴など持たなかった「混沌」は、絶対的な価値観とは無縁な、あるがままの世界で自由に生きていました。
それなのに、穴を通じて外界とつながることで心身を乱し、命を落とすのです。
それはまるで、情報の海におぼれ、自分らしさを見失って苦しむ現代人の姿を彷彿とさせます。
今年こそ、忙しく働こうとする七つの穴をたまにふさいで、内なる想いと向き合うときをもちたいものです。
漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージです。
その想いを受けとって、感じてみたら……、ほら、今日一日が違って見えるはずです。
sechin@nethome.ne.jp です。
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