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 「ばら」の名は和語で、「いばら」の転訛したものです。漢語「薔薇」の字をあてるのが通常ですが、この語はまた音読みで「そうび」「しょうび」とも読みます。漢語には「玫瑰」(まいかい)や「月季」(げっき)の異称もあります。「玫瑰」は中国語においてはハマナスを指すそうです。


 欧州ではラテン語の rosa に由来する名で呼ぶ言語が多く、また同じ語が別義として「ピンク色」の意味をもつことが多いそうです。6月の誕生花で、季語は夏です。(「冬薔薇」「ふゆそうび」となると冬の季語になります)。
 
日本はバラの自生地として世界的に知られており、品種改良に使用された原種のうち3種類(ノイバラ、テリハノイバラ、ハマナシ)は日本原産です。



 
古くバラは「うまら」「うばら」と呼ばれ、『万葉集』にも「みちのへの茨(うまら)の末(うれ)に延(ほ)ほ豆のからまる君をはかれか行かむ」という歌があります。『常陸国風土記』の茨城郡条には、「穴に住み人をおびやかす土賊の佐伯を滅ぼすために、イバラを穴に仕掛け、追い込んでイバラに身をかけさせた」とあります。常陸国にはこの故事にちなむ茨城(うばらき)という地名があり、茨城県の県名の由来ともなっています。



 江戸時代初期に、仙台藩の慶長遣欧使節副使・支倉常長が西洋からバラを持ち帰ったそうです。そのバラは、伊達光宗の菩提寺の円通院にある光宗の霊廟「三慧殿」の厨子に描かれたため、同寺は「薔薇寺」の通称で呼ばれるようになったそうです。



  江戸時代には職分を問わず園芸が流行りましたが、バラも「コウシンバラ」「モッコウバラ」などが栽培されており、江戸時代に日本を訪れたドイツ人ケンペルも「日本でバラが栽培されている」ことを記録しています。



 また、与謝蕪村が「愁いつつ岡にのぼれば花いばら」の句を残しています。



 このようにバラ日本人にゆかりのある植物ですが、バラがいまのように「花の女王」として愛好されるようになるのは明治以降なのです。
 
明治維新を迎えると、明治政府は「ラ・フランス(和名:天地開)」を農業試験用の植物として取り寄せ、青山官制農園(いまの東京大学農学部)で栽培させた。馥郁とした香りを嗅ごうと見物客がしばしば訪れたので、株には金網の柵がかけられたといいます。



 しかしまだ、バラは西洋の「高嶺の花」でしたが、その後、バラが接ぎ木で増やせることから、優秀な接ぎ木職人のいる東京郊外の川口市の安行や京阪神地域の郊外・宝塚市山本で栽培が行われるようになりました。バラは皇族、華族、高級官僚といったパトロンを得て、日本でも徐々に愛好され始め、生産量も増え始めます。大正から昭和のころには一般家庭にも普及し、宮沢賢治が「グリュース・アン・テプリッツ(和名:日光)」を愛し、北原白秋の詩にもバラが登場しています。



 第二次世界大戦で日本でもバラの栽培より野菜の栽培が優先され、生産が停滞します。しかし、戦後すぐの1948年には銀座でバラの展示会が開かれた。さらに1949年には横浜でバラの展示会が開かれ、そのときにはアメリカから花を空輸して展示用の花がそろえられたそうです。
 
鳩山一郎や吉田茂などのバラの愛好は、戦後日本でのバラの普及に大いに貢献しました。このように戦後の高度成長の波に乗り、バラは嗜好品として庶民にも普及していき、日本でも品種改良が行われるようになります。また、鉄道会社が沿線開発の一環として、バラ園の造営を行うようになり、各地にバラ園が開園されました。


 


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