コトワザは個別的な事物を素材にするだけに〈紺屋の白ばかま〉とか〈地震・雷・火事・親父。鼬なき間の貂誇り〉などはいささかずれが目立ってきます。時には別の物に取って代わられる運命にもあるのです。最後の〈鼬なき間の……〉などは「宇津保物語(10世紀)」に出ていますので、相当古くからあったコトワザで、昔の日本では鼬も貂も見ることが出来たのでしょう。さしあたり〈鳥なき里のこうもり〉というのに同じです。
また〈紺屋の……〉も、本来は紺屋の技術の優れていること――白い袴に藍の露を一滴も跳ね返さない――を表現していたものが、〈医者の不養生〉と同じに用いられるようになったものだと言います。
「浮世風呂 二編下」にあるおかみさんのコトバは、作者・式亭三馬の言うように〈つまらぬ所にたとへをいふ詞くせあり〉ですが、コトワザの使用が多く壮観です。
江戸っ子の巻き舌よろしく、まくしたてる下町の女の姿が、浮き彫りにされていると言ってもよいでしょう。
コトワザが教訓性を強くおびると〈いろはがるた〉のようになります。〈犬も歩けば棒にあたる(江)、一寸先は闇(京)、一を聞いて十を知る(大)〉など、同じイでも相違があるのは、土地のそれでもあります。
コトワザは生活表現ですが、一般的な真理を基盤として、批判・風氏・皮肉、時には可笑しみを加えて表現していると考えられます。また、天気予報など自然現象を表現したり、坊主・極楽・地獄・泥棒・乞食などがよく登場してきます。これらはいずれも日本の風土や国柄を濃厚に反映しているからでしょう。国家に関するものは少なく、欲・心・言葉・巧拙などに関するコトワザが多いのも庶民の生活表現であるコトワザの特色です。また、形式からは、
①十七文字の俳句より短く、七七、七五、五五など音数律によるものや韻をふむが多く、口調がよく暗記しやすくなっています。
②何に何、何は……何は……、何とすれば、何……(だ)何は……(だ)、何せよ、……(のようだ)。
③名詞、なし、で終止します。――など断定、対照、判定、比喩の形式をとります。
いずれも、日本語のエスプリを見事に表現していると言えます。
sechin@nethome.ne.jp です。
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |