瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
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 Hēraklēs(ヘーラクレース)の第11の難行はHesperides(ヘスペリデス)の守る黄金の林檎を取ってくることでした。ヘリペリデスは美しいニンフたちで「黄昏の娘たち」という意味です。ヘスペリデスは西のかなたに住む乙女たちで、Gaia(ガイア)がZeus(ゼウス)とHērā(ヘーラー)の結婚祝いに贈った黄金の林檎の木を守っています。 彼女たちはAegle(アイグレ、閃光)、Erytheia(エリュテイア、紅娘)、Hesperia(ヘスペリア、黄昏娘)と呼ばれており、またTȳphōn(テューポーン、ギリシア神話に登場する怪物の中では最大最強の存在といわれます)とEchidna(エキドナ、上半身は美女で下半身は蛇で背中に翼が生えた姿をしています)から生まれた巨竜も番をしています。


 


Frederic Leighton(フレデリック・レイトン):イギリスの画家・彫刻家。作品は歴史、聖書、古典的題材がほとんどです。


 


 ヘーラクレースがヘスペリデスの守る黄金の林檎を取りに行く途中、Thessalía(テッサリア)の地でKerkpes(ケルコプス)という2人組と出会います。彼らは猿のように小さく、物を盗んだり悪戯がすきな困った小僧たちでした。ヘーラクレースが旅の疲れで寝ている間にケルコプスがやってきて、彼の武器を盗もうとしたのです。 しかし気配に感づいたヘーラクレースは、とっさに起きて2人を捕まえてしまいます。 そしてちょっと懲らしめるために棒の両端に2人を逆さ吊りにして担いだのです。その時2人小僧の目に入ってきたのは、ヘーラクレースのお尻(けつ)。当時はお尻丸出しで歩いているのが普通でした。特にヘーラクレースはライオンの皮をまとっているだけのほぼ全裸状態であったのでしょう。とにかく彼のお尻を見たケルコプスは、たちまち笑い出しました。


「なにがおかしい?」


「昔、お母さんにお尻の黒い人に会ったら気をつけなさい、ひどい目にあうからネって言われたことがあるんだ。」


「あなたのお尻、毛がボーボーで真っ黒だー!」


それを聞いたヘラクレスは大爆笑して、2人を放してやったのでした。その後ケルコプスはZeus(ゼウス)にも悪戯をしようとして、本物の猿に変えられてしまったとか石にされたとかいう説もあります。 とにかくヘーラクレースとケルコプスの話は、 その土地の小人話と多毛症男の話あたりがミックスされてヘーラクレース伝説に組み込まれたのでしょう。


 


Apollodoros(アポロドーロス、古代ローマ時代のギリシャの著作家、1世紀から2世紀にかけての人物)説では、12の難行を終えてLydia(リュディア、BC7世紀~BC547年にアナトリア半島〈現在のトルコ〉のリュディア地方を中心に栄えた国家です)に奴隷として働きに行っている間にEphesos(エペソス、トルコ、Artemis〈アルテミス〉崇拝で知られたギリシア人都市でした)近傍でケルコプスと出会うことになっています。


テッサリアで2人の悪戯小僧「猿」ケルコプスと遊んだあと、Echedoros(エケドロス河)にやってきたヘーラクレースに、 Arēs(アレ-ス)とPyrenaei〈ピュレネ〉またはPelopeia(ペロペイア)の子Cycnus〈キュクノス〉は一騎打ちを挑んできました。 だが、この戦いはゼウスの落雷により引き分けとなって集結しました。


他説ではアレス自身と戦ったともいいます。 キュクノスが父アレースのためにPagasai(パガサイ)の野に社を建てようとDelphoi(デルポイ)に赴く崇拝者の首をはね捧げ物にしたため、 Apollōnアポローン)がヘーラクレースに命令してキュクノスは抹殺されてしまつたのです。 それに憤ったアレースがヘーラクレースと決闘しようとしたが、 ゼウスの落雷によって未然に防がれました。まさしく宗教戦争にヘーラクレースが巻き込まれた感じでしょう。

※ Villa Giulia(ヴィラ・ジュリア)国立博物館はローマにある、Etruria(エトルリア)美術(前8世紀頃中央イタリアの北部に現れたエトルリア人によって展開され,前2~1世紀ローマに吸収されるまで続いた美術)を収蔵展示する博物館です。

 Illyria(イリュリア、古代ギリシア・ローマ時代に現バルカン半島の西部に存在した王国)を通過しĒridanos(エリダノス)河へ到着したヘーラクレースは、 ゼウスとThemis(テミス)の間に生まれたニンフ(誰の事かはっきりしない)に出会い、 Nereus(ネレウス、「海の老人」とあだ名されるギリシア神話の海神)の事を教えてもらいます。

「じいさん、あんたは何でも知っているんだってな。ヘスペリデスの守る黄金のりんごはどこにあるんだ?」
「わしゃあ、知らんよ。」
「うそつけー。教えてくれるまで放さんぞ。」
「ああ、暑苦しい。ええい、放さんかい。」
 ネレウスは海の老神であり、変身が大得意。いろいろな生き物に化けてヘーラクレースから逃れようとしますが、 馬鹿力を発揮する彼の手から逃れそうにもありませんでした。
「お若いの、なぜそんなものを必要とする。あれはゼウス神のもの。勝手に持ち出すと天罰が下るぞ。」
「好きで取ってくるんじゃねえんだ。上司……というか、女神Hērā(ヘーラー)の命令でなあ。ちょっと借りるだけなんだよ。」
「ヘ-ラ-か、仕方ない。教えるから放しておくれ。」
 ネレウスから道を教えてもらったヘーラクレースはLibya(リビア)に到着。そこでリビア王Antaios(アンタイオス)と出会います。彼はポセイドンの子といわれており、 旅人を見つけると無理やりレスリングをさせて殺してしまう極悪人でした。そしてヘーラクレスーもその標的となったのですが、 アンタイオスは彼の力量にかなわず、あっという間に扼殺されてしまいました。

 そしてEgypt(エジプト)に着いたヘーラクレースは王Būsīris(ブーシーリス)と出会います。 彼はEpaphos(エパポス)の娘Lyusianassa(リューシアナッサ)とPoseidōn(ポセイドーン)の息子で、 Īō(イーオー)の末裔です。この地は9年間も続いた凶作に悩んでおり、 ちょうどKypros(キュプロス)から来た予言者Phrasios(プラシオス)がこの地の信託を受けてやりました。
「うーむ、毎年ゼウスに異邦人を殺して生贄を捧げたら不作はまぬがれるだろう。」
「何、異邦人か。よし、まずはお前からだ。」
 予言者プラシオス自身が「異邦人」という条件に該当していたので、エジプト王ブーシーリスはまず最初に彼を殺してしまいます。
 そんな時にヘーラクレースがやってきたのです。しかもなぜか捕らわれて、祭壇にまで運ばれてしまいます。 しかし処刑寸前のところでヘーラクレースは手錠をちぎって大暴れ、とうとう王ブーシーリスとその息子Anphidamas(アンピダマース)を殺して脱走しました。

 ようやくついた場所はLindos(リンドス)人の住むAsia(アシア、現在のトルコ西部)のThermydrai(テルミュドライ)港でした。あまりの空腹に耐えかねたヘーラクレースは、 目の前に止まっていた牛車の牛を無断で殺して、自分の胃袋に納めてしまったのです。 所有者の牛飼いは非常に腹が立てたのですが、ヘーラクレースが相手ではどうすることも出来ず呪うことしかできませんでした。 それ以来、この地ではヘーラクレースに生贄を捧げるときは呪いも一緒に行うようになりました。
 その後Arabia(アラビア)に沿って進み、何があったかよくわかりませんが、Tīthōnos(ティートーノス)の子Ēmathiōn(エーマティオーン)を殺してしまいます。 Libya(リビア)を通ってようやく外海に進み、再びヘリオスから黄金の盃を借りて向かい側の大陸に到着した。 そしてちょうどPromētheus(プロメ-テウス)が磔(はりつけ)にされているCaucasus(カウカサス)山にやってきます。これはどうやらゼウスの命令でここに来たようです。 ヘーラクレースはプロメーテウスの肝臓を啄んでいるハゲタカを矢で射殺しました。 毎度のことながら、このハゲタカもテュポンとエキドナの子であるといいます。


※ Jacob Jordaens(ヤーコブ・ヨルダーンス):オランダはフランドルのバロック期の画家です。同時代の他の画家たちとは違ってイタリア絵画を学ぶため外国へ行くことはなく、画家としてのキャリアを通じてイタリア人画家たちの人間性や優雅さへの追求には無関心でした。ヨルダーンスは低地諸国への短期旅行をした以外は、人生の大半をアントウェルペンで過ごしました。
※ Christian Griepenkerl(クリスチャン・グリーケァル):ウィーン美術学校の教授で、歴史画家。画家エゴン・シーレの師としても有名ですが、同教授は68歳の時、ヒトラーの入学試験に初めて立ち会ったといいます。グリーベンケァル教授はシーレを合格させ、ヒトラーを不合格にした美術教授として歴史に名を残しました。

 ヘーラクレースにより解放されたプロメーテウスは、彼に予言と助言を与えました。
「ヘスペリデスの林檎を取るのは、, Atlās(アトラース)に頼むがいい。彼は先のオリュンポスの戦いで蒼穹を肩に担うという罰を受けている。 取ってきてもらう間、その罰をちょっと代わってやってくれ。彼は律儀に戻ってくるが、2度とこの罰を受けるのはゴメンだと代わるのを嫌がるであろう。 その時に、円座を頭の上に乗せるからその間だけ代わってくれと頼むがいい。そしてそのままりんごを持ち逃げしろ。」
 ようやくヘスペリデスの国へやってきたヘーラクレースはプロメーテウスの助言どおり、 蒼穹を引き受けてアトラスに林檎を3つ取ってこさせました。
「私がEurystheus(エウリュステウス)の元へ届けてやろう。」
「(やっぱり蒼穹を担ぐのはいやなんだなあ。重いもんな、これ。)じゃあちょっと頭の上に円座を乗せるから、その間だけ代わってくれ。」

 そしてまんまと林檎を奪取してその場から去っていったのです。別説では、ヘーラクレース自身が竜と戦い林檎を取ってきたというものもあります。とにかくヘーラクレースはそれを持ち帰り、エウリュステウスに無事渡したのです。 だがその林檎はどこにも置いてはいけないと自然の法律で決まっていたため、 処分に困ったエウリュステウスはヘーラクレースに返してしまいます。 彼はその林檎をAthēnā(アテ-ナ-)に献上して、元の場所に戻してもらったのでした。 

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