瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
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 徘徊の道すがら口ずさむことがある。
君の行く道は 果てしなく遠い/だのになぜ 歯をくいしばり/君は行くのか そんなにしてまで(フォークソング「若者たち」)
 また、道すがら吟じることがある。
僕の前に道はない/僕の後ろに道は出来る/ああ、自然よ/父よ/僕を一人立ちにさせた広大な父よ/僕から目を離さないで守ることをせよ/常に父の気魄を僕に充たせよ/この遠い道程のため/この遠い道程のため(高村光太郎『道程』)
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608c7ad1.JPG 老子さまはその巻頭で、「道の道とすべきは常の道にあらず」と仰る。ものの根源をたずねる哲学的な本質的な質問である。
 そも「道」とは恐るべき字で、異族の首を携えて行くことを意味するという。金文(青銅器の表面に鋳込まれた、あるいは刻まれた文字)の道の字は「導」の形にかかれ、首をてに持つ象(かたち)であるという。道は道路の意に過ぎないが、これを仁義・道徳のように実践倫理の意とするのは、字義を内面化したものなのである。「行路」の行が人の行為の義になるとの同じである。「道」を道徳的な実践に結びつけた用義例は金文には現れていないという。道を存在への認識の仕方、さらには実践そのものとする形而上学に発展させたのは老荘の徒だという。荘子大宗師篇に「夫れ道は情有り信有り。爲す无(な)く形无(な)く、受くべきも傳ふべからず。得べきも見るべからず。自ら本となり自ら根となり、未だ天地有らざるも、古へより以て固(もと)より存す」とある。道は感情もあり、信もあるが、無為無形なのである。体得することは出来てもその姿を目で見ることはできない。何ものからも生れず、何ものにも依存しない。根源的な存在であり、天地開闢以来太古から存在するものなのであろう。
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e9d5f9a5.JPG 道と同じく首を一部に持つ「眞」も、おどろおどろしき字なのである。
 真とは顚(たお)れたるひとであり、道傍死者ををいう。この枉死者(おうししゃ)の霊は瞋恚(しんい)に満ちており、これを板屋(ばんおく、殯宮)に寘(お)き、これを道傍に塡(うず)め、その霊を鎭(しず)めなければならない。その怨霊が再び現れてわざわいなからしめること、それが鎮魂なのである。この厭わしくも思われる眞という字を、こともあろうに真実在の世界の表象に用いたのも荘子である。生は有限であるが、有限であるが故に無限への可能性を持つ。永遠とは死を超えることであると荘子先生は考えたのである。
 荘子以前の文献にはこの字が見られないというのは、その本来の字義が示すように、人間の最も異常な状態を言う語であったからであろう。究極的な悟りを言う真人・真知というような高い形而上学的意味を与えうるものは死霊の世界に何らかの意味で関与する宗教者でなくてはならない。そのような宗教者の観想が枉死者の死を本然に復(かえ)させ、その絶対否定を通じて永遠なる生への転換をなさしめたのである。
930f450f.JPG 「古への眞人は生を悅ぶことを知らず、死を惡むことを知らず。其の出づるに訴(よろこ)ばず、其の入るに距まず。翛然(しゅくぜん)として往き、翛然として來るのみ。其の始まる所を志(し)らず、其の終る所を求めず、受けて之を喜び、忘れて之を復(かへ)す。是を之れ心を以て道を揖(あやつ)らず、人を以て天を助けずと謂ふ。是を之れ眞人と謂ふ(荘子・大宗師篇)」
 道に合して、天とともにあるものが眞人なのである。顛死者より永遠の生としての眞なるものへという大転換のうちには、弁証法的止揚がはたらいているといわねばならない。
05923dec.JPG 天満宮は受験生に大変人気のある神社であり、そこでは、菅原道真は学問の神様になっているのだが、天満宮ができるまでは、道真の怨霊は凄かったらしい。その怨霊を鎮めるために北野天神社ができたという。ともあれ、道真さん学者先生であったとはいうが、この「道」「眞」の字義については恐らくご存じなかったのであろう。



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