瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
桜橋を渡り、墨堤通りを北上する。
浅草通りと接続する墨田区吾妻橋1丁目の交差点を起点に、隅田川沿いを北上し、足立区千住桜木の千住桜木町交差点で尾竹橋通りに接続し、すぐ先で荒川堤に接続する道路が墨堤通りで、全長13000メートル余という。沿道に墨田区役所、墨田公園や牛嶋神社、東白髭公園や隅田川神社・木母寺などがある。隅田公園から高速6号向島線 の向島入口までは、上を首都高速が走る。言問橋を渡る国道6号水戸街道と立体交差するが、接続はされていない。自動車では行き来できないが、歩行者用の階段が存在する。向島第一・向島第二の出入口で高速6号向島線 に接続する。途中、白鬚橋東詰交差点で明治通り、千住宮元町で国道4号(日光街道)と接続する。また東武伊勢崎線や京成本線がこの墨堤通りと併走する。因みに、この道路が走る墨田区は、江戸時代から名高いかの「墨堤」の『墨』と、「隅田川」の『田』から名前が付けられたという。このため墨田区は、川の名前とは異なり隅田区ではなく墨田区なのである。
鐘ヶ淵陸橋の交差点で左折すると、梅若橋をくぐり、水神大橋に出て、しばし隅田川下流を見渡す。明治の詩人たちは昔の江戸を懐かしんで、隅田川の流れをセーヌの流れに見立てたりした。だが、関東大震災のルポルタージュのために上京した作家・夢野久作が、隅田川についてこんなことを書いている。『隅田川は昔から身投げが絶えぬ。都会生活に揉まれて、一種の神経衰弱に陥った人間が、かの広い、寂しい、淀みなく流るる水を見ると、吸い込まれるような気持ちになるのは無理もないであろう。しかし、江戸の人口に差し支えるほど身投げがあったら大変で、隅田川が江戸を呪っていると云うのはそんなわけではない。もっと深刻な意味があるのである。隅田川は昔から水っ子の始まった処であった。水っ子と云っても、その中には堕胎した児、生まれてから殺した子、または捨て子(これも結局はおなじことであるが)が含まれている。しかもその数は統計にも何にも取られたものでないが、江戸っ子の人口減少の一端を引き受けたと認めているのだから恐ろしい。隅田川はこんな残忍な冷たい流れなのである。』(夢野久作:「街頭から見た新東京の裏面」)
観世十郎元雅作の謡曲「隅田川」では狂女の姿になって登場する斑女の前は渡しの舟に乗って隅田川東岸に着いてそこで梅若丸の死を知るという筋になっている。まあ、これは平安時代の話ではあるが、江戸の世にあっては、隅田川の向こう岸(東岸)は他界(あの世)として意識されていて、他界として意識されていたからこそ、そこに回向院が建てられたという話を聞いたことがある。「隅田川」の流れに、江戸の人々はそこに「生と死の境」を感じたのかも知れない。梅若丸もその母である斑女の前もこの冷徹な隅田の流れに呑まれてしまったのであろうか。
現在の水神大橋の下流にも「水神の渡し」があったという。真崎稲荷(現、石濱神社)と隅田川神社を結んでいた渡しで、名は隅田川神社が水神を祀っていることによるが、付近の俗称が「水神」でもあったことにもよるという。
観世十郎元雅作の謡曲「隅田川」では狂女の姿になって登場する斑女の前は渡しの舟に乗って隅田川東岸に着いてそこで梅若丸の死を知るという筋になっている。まあ、これは平安時代の話ではあるが、江戸の世にあっては、隅田川の向こう岸(東岸)は他界(あの世)として意識されていて、他界として意識されていたからこそ、そこに回向院が建てられたという話を聞いたことがある。「隅田川」の流れに、江戸の人々はそこに「生と死の境」を感じたのかも知れない。梅若丸もその母である斑女の前もこの冷徹な隅田の流れに呑まれてしまったのであろうか。
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目高 拙痴无
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