Typhoeus(テュポーエウス)の出自に関してはさまざまな異伝がありますが、最も有名なのは、Zeus(ゼウス)に対するGaîa(ガイア)の怒りから生まれたとするものです。
ゼウスらÓlympos(オリュンポス)の神々は、Tītānomakhiā(ティーターノマキアー)とGigantomakhia(ギガントマキアー)に連勝し、思い上がり始めていたというのです。ガイアにとってはTītān(ティーターン)たちもGigās(ギガース)たちも、わが子であります。それゆえ、これを打ち負かしたゼウスに対して激しく怒りを覚えたガイアは、末子のTyphon(テューポーンTyphoeus〈テュポーエウス〉ともいう)、を産み落としました。そしてテューポーンはやがて成長するとオリュンポスに戦いを挑んだのです。テューポーンは絶え間無い炎弾と噴流によって地球を大炎上させ、天空に突進して宇宙中を暴れ回り、全宇宙を大混乱の渦に叩き込んだのでした。テューポーンに追い掛け回された神々は、凄まじい恐怖を感じ、動物に姿を変えてエジプトの方へ逃げてしまったといいます(それゆえ、エジプトの神々は動物の姿をしているとも言われる)。このとき、Pan (パーン) 神 は、恐慌のあまり上半身がヤギで下半身が魚に化けるという醜態をさらしたといわれています。この恐慌ぶりの伝承が、Panic (パニック)と言う語の由来と言われています。
これに対し、ゼウスは雷霆や金剛の鎌を用いて応戦した。全宇宙を揺るがす激闘の末、シリアのカシオス山へ追いつめられたテューポーンはそこで反撃に転じ、ゼウスを締め上げて金剛の鎌と雷霆を取り上げ、手足の腱を切り落としたうえ、Delphoi(デルポイ)近くのコーリュキオンと呼ばれる洞窟へ閉じ込めてしまいます。そしてテューポーンはゼウスの腱を熊の皮に隠し、番人として半獣の竜女Delphynē(デルピュネー)を置き、自分は傷の治療のために母ガイアの元へ向かいました。
ゼウスが囚われたことを知ったHermēs(ヘルメース)とパーンはゼウスの救出に向かい、Delphynē(デルピュネー)を騙して手足の腱を盗み出し、ゼウスを治療したのです。力を取り戻したゼウスは再びテューポーンと壮絶な戦いを繰り広げ、深手を負わせて追い詰めてしまいます。テューポーンはゼウスに勝つために運命の女神Moirai(モイライ)たちを脅し、どんな願いも叶うという「勝利の果実」を手に入れましたが、その実を食べた途端、テューポーンは力を失ってしまったといいます。実は女神たちがテューポーンに与えたのは、決して望みが叶うことはないという「無常の果実」だったのでした。
※Moirai(モイライ):ギリシア神話における「運命の三女神」です。幾つかの伝承がありますが、Klotho(クロートー)、Lakhesis(ラケシス)、Atropos(アトロポス)の3柱で、姉妹とされます。最初は単数で一柱の女神でありましたが、後に複数で考えられ、三女神で一組となり、複数形でモイライ(Moirai)と呼ばれるようになりました。人間個々人の運命は、モイラたちが割り当て、紡ぎ、断ち切る「糸の長さ」やその変容で決まるのだと考えられたのです。まず「運命の糸」をみずからの糸巻き棒から紡ぐのがKlotho(クロートー,「紡ぐ者」の意)で、人間に「割り当てる者」がLakhesis(ラケシス,「運命の図柄を描く者」の意)で、こうして最後にこの割り当てられた糸を、三番目のスAtropos(アトロポ、「不可避のもの」の意)が切るというのもので、このようにして人間の寿命は決まるのであるというのです。彼女たちは意外にもギガントマキアーにおいては戦線に参加し、青銅の棍棒でAgrios(アグリオス)とThoon(トオーン)と言う2人のギガースを殴り殺しています。また、テューポーンを騙して「無常の果実」を食べさせて彼の力を奪い、神々の勝利に貢献したといいます。
敗走を続けたテューポーンは悪あがきとして山脈そのものをゼウスに投げつけようとしたが、雷霆によって簡単に弾き返され、最後はシケリア島まで追い詰められ、Etna(エトナ)火山の下敷きにされてしまいました。不死の魔神であったため、ゼウスも封印するしかなかったのでしょう。以来、テューポーンがエトナ山の重圧を逃れようともがくたび、噴火が起こるといわれています。ただし、シケリア島に封印されているのはEnkeladus(エンケラドス、ギガンテスの1人で、その名は「大音響を鳴らす者」の意)とする説もあります。
また、ゼウスとテューポーンの全宇宙を巻き込む激闘の後、ゼウスは雷霆の一撃で世界を尽く熔解させ、そのままテューポーンを全宇宙の奈落にあるタルタロスへ放り込んだとする説もあります。sechin@nethome.ne.jp です。
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