ウェブニュースより
「年金だけでは不安」消えず 老後2000万円報告書、実質撤回 ―― 麻生太郎副総理兼金融担当相は十一日の閣議後記者会見で、公的年金以外に夫婦で老後に二千万円の蓄えが必要と試算した金融庁の金融審議会の報告書を受け取らない意向を示した。報告書は金融審の総会を経て麻生氏に手渡されることになっており、事実上の撤回。自民党は早い幕引きで夏の参院選への悪影響を回避する狙いがある。金融庁は報告書の修正などを検討する。
麻生氏は会見で、報告書について「著しい不安と誤解を与えている。政府の政策スタンスとも違うので、正式な報告書としては受け取らない」と述べた。
金融審議会は首相、金融担当相らの諮問機関。報告書は今月三日に金融審議会の「市場ワーキング・グループ」が公表したもので、平均的な無職の高齢夫婦世帯で月五万円の赤字が見込まれ、二十年間で約千三百万円、三十年間で約二千万円が不足するとした。
麻生氏は報告書の位置付けについて「まだ金融審議会の総会を通っていない」として、公式な文書ではないと強調。「(老後の)生活費として不足、赤字だという表現を使ったのは、極めて不適切だ」と強調した。
記者から「もう一度報告書を出すことになるのか」と問われると、麻生氏は「いつまでにと日にちをもって考えているわけではない」と述べるにとどめ、再提出を行うかなどの明言は避けた。
これに先立ち、自民党の林幹雄幹事長代理は金融庁の三井秀範企画市場局長を党本部に呼び、報告書の撤回を求めていた。
自公政権は二〇〇四年の年金制度改革で「百年安心」との看板を掲げていた。野党は、金融審議会の報告書が多額の自己資金が必要なことを示したことから「百年安心はうそだった」などと激しく反発。安倍晋三首相は十日の参院決算委員会で「不正確であり、誤解を与えるものだった」と釈明していた。
◆不都合な現実 説明避ける政府
金融審議会の報告書が問題化したのは、公的年金だけでは老後の生活費が不足しかねない「不都合な現実」を示したためだ。多くの人が漠然と感じていた不安を裏付けた形で、政府が正面からの説明を避けてきたツケが噴き出した。撤回して議論そのものにフタをしても、老後の資金が年金だけでは心もとない事実は変わらない。将来はなお見えず、不安が募る悪循環が続く。
「みんな公的年金だけでは無理だと感じているから、生活防衛に走っている」。家計相談を数多く受けている生活マネー相談室(東京)の八ツ井慶子さんは相談者の状況を明かす。
高齢になっても働き、消費を控え、リスクがある運用をしない。人々の生活は公的年金への不安に根ざすと感じる。八ツ井さんは「蓄えが目減りすることに本能的な恐怖を感じている」と解説した。
金融庁が報告書で示した「二千万円足りない」などの試算も、民間のシンクタンクでは複数出ているもの。審議に参加したみずほ総研の高田創氏は「こういう統計があることを前提に、これからどうすれば良いか議論しただけなのに」と、反発の大きさに当惑を隠せない。
公的年金の議論に携わってきた学識経験者は「自助も含めなければやっていけないという長年の議論を政府が説明せず、逃げ続けてきたツケ」と嘆く。日本総研の西沢和彦氏も「報告書の撤回などせず、厳しい現実を政府が正面から語ればいいだけ。野党にも同じことが言える」と政局に利用すること自体を批判した。
七日に都内であった「高齢化と金融」がテーマのシンポジウムで象徴的な場面があった。ドイツの金融監督庁長官が「私の国で一番大きな課題は公的年金の維持だ」と正面から語った。これに対し、麻生太郎金融担当相は十一日の会見で「(報告書の内容が)政府のスタンスと違う」とあいまいに言葉を濁し続けるだけだった。
(東京新聞 2019年6月12日 朝刊)
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