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 ゴボウ(牛蒡または牛旁、悪実)は、キク科の多年草で、ユーラシア大陸原産です。大阪弁では「ごんぼ」と呼びます。水はけの良い土地を好みます。ゴボウの野生種はヨーロッパとアジアに広く分布していますが、 食用に利用しているのは日本と台湾だけです。植物は長い年月の間に分化して様々な品種ができるものですが、 ゴボウは日本に渡来してから長い栽培の歴史にもかかわらず品種が多くありません。

 原産地は中国東北部からシベリア、北欧にかけての広い範囲が原産地と言われています。日本には野生種は自生していません。中国から渡来したと考えられます。そうとう昔に渡来したらしく、縄文初期の貝塚からもゴボウの種が発見されたという話です。

 古くはキタキス、またはウマフフキという名で呼ばれていました。西暦900年ごろ中国から牛蒡という名で“再び”紹介され、この後200年の間に食用として広まってアザミ(当時、根や葉が食用にされていた)に取って代わりました。

 “和名抄”(倭名類聚抄923~930年)に面白い記述があります。 「牛蒡。本草に言う悪実(アクジツ)は一名牛蒡。和名、岐太岐須(キタキス)。一に言う宇末不々木(ウマフフキ)。今案ずるに俗に房となすは非也」 (ゴボウ。薬草の悪実はゴボウの事。和名はキタキス。ウマフフキとも言う。牛房と書くのは間違い。)
 悪実はゴボウの種子で、解毒、浮腫、咽頭痛の薬です。つまり、「中国でゴボウと呼ばれるものは日本のキタキス、ウマフフキである」と言う記述です。

 この時代に書かれた延喜式の内膳司(927年)の「耕種園圃」にある朝廷の菜園の栽培リストにはアザミはありますがゴボウはありません。その後、類聚雑要抄(1146年)には、 ゴボウが朝廷の献立に用いられた記録があります。だからこの間の約200年間に食用として定着したと考えられるのです。

 寛永20年(1643年)に刊行された、我が国初の実用レシピ集である『料理物語』には、牛蒡の調理法として、「汁。あへもの。に物。もち。かうの物。茶ぐはし。其外いろゝ。」とあります。汁物、和え物、煮物、香の物は現在も一般的な調理法ですが、餅や茶菓子としても食べられていたとは驚きです。

 建部清庵(たてべ せいあん、1712~1782年、江戸時代中期の医者。陸奥国一関の地から杉田玄白と書簡を交わし、蘭学の発展に協力しました。)が著した『備考草木図』には、山野に自生する牛蒡は根だけでなく、葉も茹でて食べるとよいとされています。

 きんぴらとは、牛蒡・蓮根などをせん切りにした材料を植物油で炒め、砂糖・醤油で煮て、唐辛子で辛味をきかせた料理のことです。
 きんぴらの語源は、江戸の和泉太夫が語り始めた古浄瑠璃のひとつ『金平浄瑠璃』の主人公「坂田金平(さかたのきんぴら)」の名に由来します。坂田金平は坂田金時(金太郎のこと)の息子という設定で、非常に強くて勇ましい武勇談として語られていました。ゴボウの歯ごたえや精がつくところ、また唐辛子の強い辛さが坂田金平の強さに通じることから、「きんぴらごぼう」という料理の名が生まれ、きんぴらごぼうと同じ作り方で、レンコンやニンジン、大根の皮・ヤーコンなどを材料にした料理も「きんぴら」と呼ばれるようになったといいます。坂田金平を演じる役者の髪型が刻んだゴボウに似ていたことから、「きんぴらごぼう」になったとも言われるが、「きんぴら」の付く言葉には「金平足袋」や「金平糊」などがあり、それらは「強さ」を表していることから、「きんぴらごぼう」だけが髪型に由来するとは考え難いのです。

 「笹掻き」と書くように、笹の葉の形に似ているところからこう呼ばれます。細長い野菜、主にごぼうやにんじんに使います。野菜を回しながら、包丁で削るように薄く切っていきます。
 開いたドジョウと笹掻きにしたゴボウを味醂と醤油の割下で煮て鶏卵で綴じます。バリエーションとして、一緒にネギやミツバを用いる場合もあります。肉類などを柳川と同じように、笹掻きゴボウと共に甘辛く煮て卵で閉じたものを「○○の柳川」あるいは「柳川風」と呼ぶことがあります。江戸時代にはドジョウもゴボウも精の付く食材とされていたため、柳川鍋は暑中に食べるものとされていました。俳句の世界では「泥鰌」は夏の季語(「泥鰌掘る」は冬の季語)となっています。ドジョウはウナギに劣らない滋養があり、しかも安価である事から、江戸の庶民に好まれていたようです。

 太平洋戦争の頃の話。西洋では、ゴボウを食べる習慣がありません。そのため、食事にゴボウを出された米軍捕虜が、戦犯裁判「木の根を食べさせられた。これは捕虜虐待である」と訴え、有罪判決が出されました。こんな話を聞いたことがあるでしょうか。
 どうやら、この話は都市伝説の類みたいです。まず、戦後裁判の事例の中に、ごぼうを食べさせたことを虐待として扱うという事例はないようです。
 そもそも、西洋にもサルシフィという、西洋ゴボウとも呼ばれる根菜があります。ゴボウとは別の種類になるのですが、見た目は同じようなもので、ゴボウを食材と認識できないということは無いはずです。仮に、ゴボウが食材であるということを知らなかったとしても、料理して出されたのであれば、食材であるということは理解できるはずです。

 実際には、戦後裁判で捕虜虐待を扱った事例が多く、その中で生まれた言い訳じみた都市伝説のようです。


 


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