瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
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 蘇東坡の禅の道の友人仏印禅師は東坡に潮時を見て役目を退く様に勧めたことがあり、或る日長歌一編を寄越した。これはまたなかなか変わった書き方で、二字ずつ一つに揃ったものが全部で百三十組。
 東坡は二、三度目を通したが急には読むことができず考え込んでいるばかり、妹の小妹(しょうまい)はそれを取上げて、「お兄様、この歌のどこが難しいのですの。いま私が、詠んで差し上げましょう」というや、早速読み始めた。
e2adf6c4.JPG 野鳥啼く、野鳥啼けば時時(つね)に思い有り、思い有れば春季桃花発(ひら)き、春季桃花発いて枝に満つ。枝に満つ鶯雀は相呼喚し、鶯雀相呼喚するは巌の畔、巌の畔は花紅(くれない)にして錦屏の似(ごと)く、花紅にして錦屏の似(ごと)きは看るに堪えたり。看るに堪えたる山、山は秀麗、秀麗なる山前に煙霧起(た)つ。山前に煙霧起ちて清らかに浮かび、清らかに浮かぶ浪潺湲(せんかん)たる水を促す。浪潺湲たる水を促せば景幽(かそけ)し。景幽く深き処好しければ追游す。追游する傍水(みずべ)の花、傍水の花は雪の似(ごと)し。雪の似き梨花は光皎潔(こうけつ)。梨花は光皎潔にして玲瓏(れいろう)、玲瓏墜つるが似(ごと)く銀花折る。墜つるが似く銀花折るるは最も好(よろ)しく、最も好しきは柔茸(じゅうじょう)たる《やわらかな》渓畔の草。柔茸たる渓畔の草は青々とし、雙雙(つがい)の胡蝶飛ん来到す。胡蝶飛んで来到すれば落花し、落花の林裏に鳥啼き叫ぶ。林裏に鳥啼き叫んで休まず、休まざるは春光の好しきを憶うが為なり。春光の好しきを憶うが為の楊柳、楊柳の枝頭(えだ)に春色秀(ひい)づ。枝頭に春色秀づれば時常(つね)に共に飲み、時常に共に飲むは春の濃き酒。春の濃き酒は酔うが似く、酔うが似く間行(そぞろあるき)す春色の裏(うち)。間行す春色の裏に相逢い、相逢いて競って山水に遊ばんことを憶う。競って山水に遊ばんことを憶えば心息(やす)まり、心息まれば悠悠として帰去来いざ、帰去来いざ役を休めよ役を休めよ。

4d8101a9.JPG 東坡は大いに驚いて、「お前の智慧には、私も適わないよ。もし男だったら、官位はきっと私より上だったに違いない」と嘆じた。
 そこで仏印の書いた元の長歌と、小妹の付けた句読とを全部書き写して同封すると、小妹の夫の小游に送った。そして自分が何度読んでも判らなかったものを小妹が一目見てその意味を知ったということを申し添えた。少游も初め仏印の書いたものを見たときは、何やら判らなかったが、後で小妹の読み方を見てやっと夢から覚めたようにますます深く感じ入った。そこで短い歌の返事をした。
 坊さんの歌には適わない 言葉も意味も重なって 字と字が玉の並びなら 行と行とも数珠のよう
f829b700.JPG 君は一目で読めたとか こちらは三度も苦労した ところで儂から詩を送る 趣向は凡そ同じもの
 君よ、とっくり考えて 儂の気持ちを読みたまえ
 短い歌の後に、畳字詩(一種のしりとり歌のようなもの、左図)が付けてあったがこれがまた変ちくりんなものであった。(抱甕老人『今古奇観』第十七話より) ―― 次回に続く

761c2713.JPG 頭の体操16の解) 左の図のように①、②、③、④の部分に切り、①.②.③をそれぞれ1、2、3の位置に回転移動すればよい





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