瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
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b0ef9d28.JPG 至尊尚蒙塵  至尊(しそん)は尚(な)お蒙塵(もうじん)す
 幾日休練卒  幾日か卒(そつ)を練るを休(や)めん
 仰観天色改  仰いで天色(てんしょく)の改まるを観(み)
 坐覚妖気豁  坐(そぞろ)に妖気(ようき)の豁(かつ)なるを覚(おぼ)ゆ
 陰風西北来  陰風(いんぷう)  西北より来たり
 惨澹随回鶻  惨澹(さんたん)として回鶻(かいこつ)に随う
 其王願助順  其の王は助順(じょじゅん)を願い
 其俗善馳突  其の俗(ぞく)は馳突(ちとつ)を善(よ)くす
 送兵五千人  兵を送る  五千人
 駆馬一万匹  馬を駆(か)る  一万匹
 此輩少為貴  此の輩(はい)  少(わか)きを貴(とうと)しと為(な)し
 四方服勇決  四方(しほう)  勇決(ゆうけつ)に服す
 所用皆鷹騰  用うる所は皆な鷹(たか)のごとく騰(あが)り
 破敵過箭疾  敵を破ることは箭(や)の疾(と)きに過(す)ぐ
 聖心頗虚佇  聖心(せいしん)は頗(すこぶ)る虚佇(きょちょ)したまうも
 時議気欲奪  時議(じぎ)は気の奪われんと欲(ほっ)す
〈訳〉天子様はまだ兵塵を避けておられる/何時の日の事だろう 兵隊の訓練が無くて済む日は/仰げば天の色にも何か変化が見られるし/何となく兵乱の悪気も晴れそうにも感じられる/陰気な風が西方のほうから吹いてくるが/それはうす暗くウイグルの軍隊にまつわりながら来たもの/ウイグルの王が天子様の軍の見方をしたいと言う/彼らは馬に乗って攻撃するのがうまい/兵士五千を屋って寄越した/一万匹の馬を駆り立ててきた/彼らは若者を尊重している/四方の国々は彼らの勇猛果敢に服従している/いざという時 彼らは鷹の飛ぶように/敵を打ち破るのは矢よりも速い/天子様は非常に虚心にウイグルを受け入れられるが/世論は何とも言えずに そのままにあっけにとられている

 伊洛指掌収  伊洛(いらく)  掌(たなごころ)を指(さ)して収めん
 西京不足抜  西京(せいけい)も抜くに足らざらん
 官軍請深入  官軍  深く入らんことを請(こ)う
 蓄鋭可倶発  鋭(えい)を蓄(たくわ)えて倶(とも)に発す可(べ)し
 此挙開青徐  此の挙(きょ)  青徐(せいじょ)を開かん
 旋瞻略恒碣  旋(たちま)ち恒碣(こうけつ)を略するを瞻(み)ん
 昊天積霜露  昊天(こうてん)  霜露(そうろ)積(つ)み
 正気有粛殺  正気(せいき)  粛殺(しゅくさつ)たる有り
 禍転亡胡歳  禍いは転ぜん  胡(こ)を亡ぼさん歳(とし)
 勢成擒胡月  勢いは成らん  胡を擒(とりこ)にせん月
 胡命其能久  胡の命(めい)  其れ能(よ)く久しからんや
 皇綱未宜絶  皇綱(こうこう)  未だ宜(よろ)しく絶ゆべからず
〈訳〉伊水・洛水の地方は手の内のもののようにこちらのもの/長安を陥れるのも訳は無い/官軍に賊の根拠地まで深く攻め入ってもらいたい/鋭気を貯えてウイグル軍といっしょに攻めるべきだ/今度の行動は青洲・徐州一帯を解放するだろう/また恒山〈こうざん〉・碣石〈けっせき〉の地の攻略も可能であろう/大空に霜や露が満ち満ちている/正義の気がひしひしとみなぎっている/禍を転じて 賊を滅ぼす年となり/その勢いは賊を虜にするという月にもなろう/賊軍の運命は長続きするものか/天子様の時代が断絶することは無い

b7e16673.JPG 憶昨狼狽初  憶う昨(さく)  狼狽(ろうばい)の初め
 事与古先別  事は古先(こせん)と別なり
 姦臣竟葅醢  姦臣  竟(つい)に葅醢(そかい)せられ
 同悪随蕩析  同悪  随って蕩析(とうせき)す
 不聞夏殷衰  聞かず  夏殷(かいん)の衰えしとき
 中自誅褒妲  中(うち)の自ら褒妲(ほうだつ)を誅(ちゅう)せしを
 周漢獲再興  周漢(しゅうかん) 再興するを獲(え)しは
 宣光果明哲  宣光(せんこう)   果たして明哲(めいてつ)なればなり
 桓桓陳将軍  桓桓(かんかん)たり  陳(ちん)将軍
 仗鉞奮忠烈  鉞(えつ)に仗(よ)りて忠烈を奮(ふる)う
 微爾人尽非  爾(なんじ)微(な)かりせば人は尽(ことごと)く非(ひ)ならん
 于今国猶活  今に于(お)いて国は猶(な)お活(い)く
〈訳〉思えば昨年のこと 天子様の出奔というあわただしい事件/事態は古い先例とは違っている/悪臣は結局は処刑され/その仲間の者どもも滅ぼされた/かつて夏や殷が衰えた時/皇帝が自分から褒娰〈ほうじ〉とか妲己〈だっき〉を殺されたとは聞いていない/周や漢が再興することができたのは/宣王や光武帝が聡明であったからだ/ああ陳将軍の勇敢武烈/鉞により縋って彼はその忠義と武烈を示した/あなたが居なかったら人民は現在のようではなかったのだ/いまもなお国家はいきいきとしている

 淒涼大同殿  淒涼(せいりょう)たり  大同殿(だいどうでん)
 寂寞白獣闥  寂寞(せきばく)たり   白獣闥(はくじゅうたつ)
 都人望翠華  都人(とじん)  翠華(すいか)を望み
 佳気向金闕  佳気(かき)   金闕(きんけつ)に向かう
 園陵固有神  園陵(えんりょう)  固(もと)より神(しん)有り
 掃灑数不欠  掃灑(そうさい)   数(すう)欠けず
 煌煌太宗業  煌煌(こうこう)たり  太宗の業(ぎょう)
 樹立甚宏達  樹立  甚(はなは)だ宏達(こうたつ)なり
〈訳〉長安の大同殿はものさびしく/白獣闥(はくじゅうたつ)はひっそりと静かであろう/長安の人人は天子の羽飾りの付いた旗を待ち望んでいる/めでたい霊気はこちらから黄金の宮門に向っている/唐朝の天子の墓所には神霊が宿っている/歴代の祭祀は欠くことも無いであろう/太宗皇帝の建国の大業は輝かしいものだ/国家樹立の大業は広大であり永遠のものなのだ
 

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暑い~
 こんにちは。また汗だくの一日です。
 ところで、杜甫は憂国の詩を色々作っているようですね。たしかに小学生のとき、彼の「春望」という詩を学んだことがありますが、瘋癲爺はご存知ですか。
シン 2011/06/28(Tue) 編集
Re:暑い~
  春望    杜甫 作          
 国破山河在  国破れて山河在り
 城春草木深  城春にして草木深し
 感時花濺涙  時に感じては花にも涙を濺ぎ
 恨別鳥驚心  別れを恨んでは鳥にも心を驚かす
 烽火連三月  烽火三月に連なり
 家書抵萬金  家書萬金に抵る
 白頭掻更短  白頭掻かけば更に短く
 渾欲不勝簪  渾べて簪に勝えざらんと欲す
 1945年夏、敗戦の年、12歳だった私は廣島県三次中学でこの詩を教わりました。謂わば、私の漢詩のルーツともいうべきものです。  拙痴无

      
 【2011/06/28】
感動
 敗戦という雰囲気のなかで、こういった詩を教われたとき、12歳の瘋癲爺はどういう思いでしょうね。
 でもあのころ、瘋癲爺はまだ若かったから杜甫の本領やこの詩が日本の現状といかなる関連があるのかについては理解するにはちょっと難しいかもしれませんね。
シン 2011/06/29(Wed) 編集
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プロフィール
ハンドルネーム:
目高 拙痴无
年齢:
92
誕生日:
1932/02/04
自己紹介:
くたばりかけの糞爺々です。よろしく。メールも頼むね。
 sechin@nethome.ne.jp です。


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