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 ウェブニュースより


芭蕉さん、旅の始まりどこでした? 足立・荒川区が論争 ――  松尾芭蕉が「奥の細道」の旅を始めた地点をめぐって、東京都足立区と荒川区が熱い論争を繰り広げている。隅田川にかかる千住大橋周辺とされるが、はっきりとした記録はない。どっちが「本家」なのか。


 今月11日、論争の渦中にある千住大橋で芭蕉が歩んだとされる足跡をたどろうと、荒川区民約30人が芭蕉に扮して、橋を渡るイベントがあった。荒川区の南千住地区商店街の企画。あいさつで、西川太一郎・区長は「今までは芭蕉と言えば、足立区が優勢だったが、最近は荒川区も出発の地として認められてきた」と自信をのぞかせた。


 「奥の細道」によると、旅立ちは1689年3月27日。江戸・深川から船に乗って隅田川を北上、「千住といふ所にて船をあが」り、そこで「矢立て初めの句」として知られる「行春(ゆくはる)や 鳥啼(なき) 魚の目は泪(なみだ)」を詠んだとされる。ただ、川の北側にある足立区・北千住か、それとも荒川区・南千住なのかの記述はない。


 そんな中で、両区は「証拠」をアピールする。


 


 足立区は1974年、千住大橋の北側にある大橋公園に、出発点を意味する「矢立初の碑」を設置。2,004年には足立市場前に芭蕉の石像を設け、翌年、橋付近に芭蕉の壁画を描いた。


 一方の荒川区。素盞雄(すさのお)神社にある「行春や」の句碑は1820年建立と、碑に関しては断トツに早かったが、その後は足立区にリードを許してきた。最近は巻き返しに懸命で、今年3月には南千住駅西口に芭蕉のブロンズ像を建てた。


 論争の発端は、1989年の「奥の細道」300年記念事業にさかのぼる。旅立ちの再現イベントで、芭蕉に扮した江東区長が屋形船で千住大橋北側に到着し、足立区長が出迎えた。これに対し、「荒川区が呼ばれないのはおかしい」と荒川区民から横やりが入ったのだ。


 「当時の江戸は隅田川の南岸までだった」と、荒川区立荒川ふるさと文化館の野尻かおる館長(56)は言う。「いったん南側で下り、江戸を去る心境を一歩一歩かみしめながら、橋を渡ったはずだ」と話す。しかし、足立区立郷土博物館の学芸員・多田文夫さん(52)は「宿泊を手配する問屋場も北側に集中していた。長旅で北に行くのだから北岸に下りるのが普通だろう」と指摘する。


 昨年11月には、「芭蕉旅立ちの謎に迫る」と題したシンポジウムが荒川区で開かれたが、両区の議論は平行線のままだった。


 果たして、決着はつくのか。両区は、この「論争」を町おこしにつなげようともくろむ。


 足立区は06年、全国のゆかりの自治体が集まる「奥の細道サミット」を誘致するなど、芭蕉グッズの開発やスポットをめぐる街歩きイベントなどを積極的に実施してきた。一方、荒川区も08年から、芭蕉が旅を終えた「結びの地」の岐阜県大垣市の児童を招いて「俳句相撲大会」を開き、今年3月には「俳句のまち」を宣言した。


 こうした中、最近は地元のファンが、芭蕉ゆかりの地をまとめた両区の共通マップを作るなどの動きも出てきた。足立区のNPO法人「千住文化普及会」の櫟原(いちはら)文夫理事長(64)は「論争は芭蕉さんのプレゼント。決着がつかない方がロマンがある」。荒川区の郷土史家、杉山六郎さん(79)も「千住はもともと一つ。論争を楽しみながら、ともに盛り上げていければ」と話している。  (朝日新聞DIGITAL 201510160230分)

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