ウェブニュースより
「賠償ではなく、漁業をしたいだけ」 処理水放出計画に福島県漁連 検査重ね増やした漁獲量「ようやくここまできたのに」 ―― 東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出計画で22日にも放出期日が決まる。一貫して反対してきた福島県漁業協同組合連合会は、原発事故後の操業自粛を乗り越えて、復活に向け一歩ずつステップを踏んできた。試験操業では、厳しい自主基準で検査を重ねて福島の漁業継続に苦心。沿岸漁業の水揚げ量は事故前の2割にとどまるものの、本格操業に向け着実に増えている。「ようやくここまで来たのに」。漁業関係者らは悔しさをにじませる。
◆高値の「常磐もの」、原発事故で一変
6月下旬、朝焼けの中、福島県相馬市の相馬漁港に漁船が次々入ってくる。船の水槽から大きな網ですくい上げたヒラメが勢いよく跳ねる。「今年はよく取れているよ。大きさもいい」。日焼けした地元漁師男性の顔がほころぶ。大きいもので体長1メートル超、10キロ近いものもある。
福島沿岸は、暖流と寒流が交わり豊かな漁場に恵まれている。捕獲される魚介類は「常磐もの」として高値で取引されてきた。それが原発事故で一変した。
2011年3月11日の東日本大震災の大津波で、県内では100人以上の漁師が亡くなり、多くの船が損壊。港や市場も大きな被害を受けた。陸上や漁場のがれき撤去に加え、東電が事故直後に無断で汚染水1万トン超を海へ放出したことなどで、沿岸漁業は操業を自粛せざるを得なくなった。
◆自主検査は国より厳しい基準で
12年6月、放射性物質が検出されていないミズダコなど3種で試験操業を始めた。県漁連指導部の澤田忠明主任(38)は「原発事故後の試験的な操業の再開は初めての試みで、ルールもなかった。通常は出荷制限がかかった魚種を漁獲から外していくが、福島では検査で安全性を確認した魚種を漁獲の対象に増やしていった」と振り返る。
どう食卓の安全を守るか、専門家を交えて議論を重ねた。当初は漁場を福島県の海域の一部に絞り、底引き網は水深150メートル以深に限った。その上で国より厳しい基準で自主検査した。「漁業者や仲買人たちが誰よりも『安全なものを食べてほしい』と望んでいた」
今でも原発港湾内から沖に出たとみられる魚が検査で高い数値を示して出荷停止になり、東電に対策を強く求めることはあるが、全体的には放射性物質はほとんど検出されなくなった。出荷制限は次第に減り、21年3月末に試験操業を終了。本格操業への移行期間に入っている。
◆平均価格、震災前の水準に戻ってきたのに…
操業自粛中に失った売り先の確保も進みつつある。東京都中央卸売市場で取引される福島産のヒラメの平均価格は、試験操業を始めた12年には1キロ当たり330円だったが、昨年は同1351円と震災前の水準に戻った。
澤田さんは「価格も戻り、これからはどう漁獲量を増やし、販路を広げるか。ようやく復調してきたのに今、海洋放出されたらどうなるのか…」と、多くの漁業者が感じている不安を口にした。後継者の問題もある。福島のある漁師は、風評被害が起きれば賠償すると繰り返す政府や東電への不信感が拭えない。「俺たちは賠償が欲しいんじゃない。福島で漁業をしたいだけだ」
福島県の漁業 福島県漁連は食品衛生法に基づく国の基準値(1キロ当たり100ベクレル)の半分となる同50ベクレルを独自基準に設定し、検査で基準超過した魚種は出荷を自粛している。出荷制限は最大44種だったが、現在はクロソイだけ。2019年度以降、検査件数の99%超が放射能濃度が検出できないほど低かった。福島第一原発から10キロ圏内は操業自粛が続く一方、水揚げ対象は事故前と同じ約200種に戻った。沿岸漁業の水揚げ量は事故前の10年が約2万6000トン。試験操業を始めた12年は約122トンで、22年は約5600トンだった。 【東京新聞 2023年8月22日 06時00分】
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