今まで述べてきたように、Hēraklēs(ヘーラクレース)は、12の難行をし遂げる間にいくつもの功業を成し遂げています。まだまだ他にもいくつもの功業があるようですが、そのうちのいくつかを調べだしてみました。
Hēraklēs(ヘーラクレース)の嫁事件
12の難行を終えたヘーラクレースはようやく自由の身となり、Thēbai(テーバイ)に戻ります。 妻Megarā(メガラ)を甥のIolāos(イオラオス)に与え、自分は新たに結婚しようと嫁探しを始めました。
Apollodoros(アポロドーロス、1世紀~2世紀のギリシアの著述家)によれば、Messenia(メッセニア)のOichalia(オイカリア)へ赴いたとき、ちょうど王Eurytos(エウリュトス)が自分や息子達と弓術をして勝ったものに、 褒美として娘Iolē(イオレ-)を嫁に提供するという催し物を開催していました。 鼻息荒くヘーラクレースは勝負して、簡単に彼らを打ち負かしてしまいます。なお、この試合でエウリュトスは殺され、この後の話はエウリュトスでなく息子たちの話だとする説もあるようです。
Annibale Carracci(アンニーバレ・カラッチ):バロック期のイタリアの画家。 イタリア美術における初期バロック様式を確立した画家の一人であり、イタリア北部のボローニャを中心に活動したボローニャ派の代表的画家です。 アンニーバレを中心とするカラッチ一族の門下からは多くの著名画家が育っており、後世への影響も大きい。
しかし、ヘーラクレースは、Hērā(ヘーラー)に吹き込まれた狂気のためエウリュトスの子Īphitus(イーピトス)を殺して、病気に悩まされるようになるのです。すなわち、王たちはヘーラクレースに王女イオレーを与えることを渋り始めました。 原因はすべてヘーラクレースの素行にあり、狂乱の末子供たちを殺したことのある前科者だったからです。 王の長男イーピトスだけはヘラクレスの味方をしてくれますが、結局結婚は破棄されてしまいます。しばらくして王エウリュトスの牛が盗まれる事件が起きます。犯人はHermēs(ヘルメース)の子で、 かつてヘーラクレースにレスリングを教えたAutolykos(アウトリュコス)だったのですが、 王たちはヘラクレスが腹いせに盗んだのだと決めてかかっていました。実はアウトリュコスがエウリュトスの牛を盗み、これをヘーラクレースに売りつけたのですが、この時もヘーラクレースの弁護をしてくれたのはイーピトスでした。 そしてTiryns(ティリュンス)に滞在していたヘ-ラクレ-スを訪ねてきて、一緒に牛を探して欲しいと誘ってきたのです。 ヘーラクレースは喜んで承知し彼をご馳走でもてなしていたのですが、またも不幸な事件が起きてしまいます。 ヘーラクレースに狂気の心が渦巻き…… たぶん酒乱のせいでしょうが、 馬鹿力でイーピトスをテュリンスの城壁から投げ飛ばし殺してしまったのです。 正気に戻ったヘーラクレースは、救いようのないほどドン底に落ち込んでしまいます。そして王エウリュトス一族の反感はますます募っていくのでした。
ヘーラクレースは殺人の罪を清めてもらうために、Pylos(ピュロス)王Neleus(ネーレウス)の元にやってきました。
「申し訳ないが、私は貴方の罪を清めることはできない。私は王エウリュトスと友情を誓っている。 その息子を殺したことは、私にも耐え難い屈辱である。他をあたってくれ。」
無下に断られたヘーラクレースはLakonía(ラコニア)のAmyklai(アミュクライ)まで赴いて、王Dēiphobos(デイポボス)に清めてもらったのでした。 それでも狂気が彼の中から消えることはありませんでした。
とにかく本人の苦痛は癒えることがなく、Delphoi(デルポイ)に来てApollōn(アポローン)に信託を求めることにしたのです。 しかし神殿の巫女は信託さえ拒んだので、短気なヘーラクレースは腹を立てて神器の1つである3脚の鼎を奪っていこうとしました。 アポローンも我慢ならなくなり、自らヘーラクレースの前に姿を現します。
「神聖なる物を奪っていくとは、なんて罪深いやつだ! 見損なったぞ!」
「お前が俺に信託をくれないからじゃねーか!」
「そんな態度を取っていると、天罰が下るぞ!」
「やれるものならやってみろ!」
「なにぃ!」
というわけで、ヘーラクレースとアポローンが大喧嘩を始めてしまったのです。
これに気づいたZeus(ゼウス)はあわてふためき、2人の間に雷を落として喧嘩を止めさせるのでした。ゼウスにとっては2人とも大事な息子なのです。
「何を喧嘩しておるのだ、2人とも!」
「ヘラクレスが私の神殿を汚そうとしたからですよ!」
「そもそも信託をくれないからじゃないか!わざわざデルポイまで赴いたってのに!」
「わかったわかった。アポロンもそう意地悪するでない。本人もかなり悩んでいるようだし信託を与えよ。」
「えー、だってこいつただの酒乱だし…… 酒を止めろっていうのもつまらんな。よし、わかった。信託を授けよう。」
「まじめにな。」
「殺人の償いは、3年間(または1年説もある)奴隷となり、王エウリュトスには代償を支払うこと。そうすれば病は癒えるだろう。 ま、せいぜい頑張るんだな。はっはっは。」
こうしてヘーラクレースはHermēs(ヘルメース)により、Lydia(リュディア)女王Omphalē(オンパレ)の奴隷に売られたのです。
※Tischbein(ティッシュバイン)家はドイツ,ヘッセンの画家一族。 18世紀から 19世紀にかけて 20人以上の画家を出した家系で、J.H.W.ティッシュバインのほか、彼のおじでカッセルで宮廷画家として活動、A.ワトーや F.ブーシェの影響を受け、ロココ様式の肖像画、神話的主題の作品を多数制作したJohann Heinrich Tischbein(ヨハン・ハインリヒ・ティッシュバイン、1722~1789年) や,ヨハン・ハインリヒの甥でワルデック,ライプチヒで活動したロココから古典主義への過渡期の肖像画家のヨハン・アウグスト・フリードリヒ・ティッシュバイン (1750~1812) らを輩出しました。
彼女はIardanes(イアルダネス)の娘でTmolos(トモロス)の寡婦でしたが、夫の死後この国を統治していたのです。そして奴隷の身でありながら、女王を孕ませてAgelāos(アゲラーオス)が生まれました。 アポロドロス説では、この時にEphesos(エペソス)近傍でKerkops(ケルコプス)と出会うことになっています。(ケルコプスについては、11月13日のブログを参照) またこの間にArgonautai(アルゴナウタイ)の探索やCalydon(カリュドーン)の猪狩りが行われました。また、Thēseus(テーセウス)がTroizḗn(トロイゼーン)よりAthēnai(アテーナイ)に向い、その途上でならず者たちを退治したとされます。にも拘らずヘーラクレースはアルゴー遠征とカリュドンの猪狩にも参加していて、矛盾だらけですが、ここも目をつぶることにしましょう。
その後どういう経緯かAulis(アウリス)の地でSyleus( シューレウス、「奪略する者」の意)はヘラクレスの主人となったのですが、 ヘーラクレースが乱暴にブドウ畑を荒すのでほとほと困り果てたといいます。しかし、アポロドロス説では、このシュ-レウ-スという男は通りかかる旅人に自分の畑を強制的に掘らせていたため、 ヘラクレスはブドウの木を根っこから焼いてしまい彼の娘Xenodoke(クセノドケ)ともども殺してしまったのだといいます。
さらにDoliche(ドリケー)島に立ち寄ったとき、Īkaros(イーカロス)の死骸が海岸に打ち上げられているのを見てこれを葬り、島をIkaria(イーカリアー)と呼んだといいます。イーカロスの父Daidalos(ダイダロス、ギリシア神話に登場する有名な大工、工匠、職人、発明家)は感謝してお礼にピサの地にヘーラクレースの像を建てましたが、ヘーラクレースは夜にこの像を見たため生きていると思い込んで石を投げつけてしまったといいます。
※ Eleas Greitherについては、目下不明です。
ヘーラクレースがオムパレーに仕えたとき、二人は互いの衣装を取り替えたいわれます。この衣装取り替えについては、ローマ期以降脚色を受けて物語化され、絵画の題材としても好んで採り上げられるようになりました。
以下は、Bernard Evslin(バーナード エヴスリン、1922~1993年、ニューヨークの小説家兼劇作家)の『ギリシア神話小事典』の記述の概略です。
オムパレーは専横な主人で、ヘーラクレースは女装のうえ、糸紡ぎの仕事をさせられます。オムパレーがヘーラクレースの獅子の皮を身にまとい、棍棒を持ったところ、棍棒の重さによろめいたといいます。ある日、オムパレーは森から奇襲を受け、牛をさらわれ、部下が殺されます。ヘーラクレースが獅子の皮をまとって棍棒を持って森に入り、敵を掃討したので、オムパレーはヘーラクレースを夫とし、3人の子を産みました。
※ Gustave Moreau(ギュスターヴ・モロー)は印象派の画家たちとほぼ同時代に活動し、聖書やギリシャ神話をおもな題材とし、想像と幻想の世界をもっぱら描いたといいます。彼の作品は19世紀末のいわゆる『世紀末』の画家や文学者に多大な影響を与え、象徴主義の先駆者とされています。
sechin@nethome.ne.jp です。
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