瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
午前、北海道は旭川勤務に単身赴任している塾友のK氏が年賀の挨拶に訪ねてくれた。仕事部屋に飾ってある昨年暮れの忘年会の写真を見て懐かしがりながら、「早く、忘年会に復帰したいものですね」と言っていた。息子さんは昨年トヨタに就職、娘さんはこの春大学受験とのことである。
Dáphnê(ダプネー)は、テッサリアを貫通する大河Peneios(ペーネイオス)の河神の娘であった。アポローン神がピュートの大蛇を退治したとき退治したとき(何となく「八岐大蛇」の話に似ている)、彼は天上で愛神Eros(エロース、Cupido)に出遭った。この小童は、人も知るように裸形でいつも弓と矢を手挟んでいる。今しも悪龍を退治した手柄に心膨れたアポローンは、その小賢しい様子を見るなり揶揄って言った。「おい、悪戯小僧奴、大人の持つ武器を玩具にして、どうしようってんだ。そいつは僕の道具だよ。僕は十分な力と確かな技倆を持っている。それで狙いも誤たず、野獣でも悪い奴でも射て取るんだ。今が今とてほら、あそこに谷々を覆って延びている巨龍を退治してきたのだぞ。お前はせいぜい炬火(たいまつ)でも持って隠れた恋の通い路を照らしてやるのが分相応だろう。僕と腕比べをして争おうなんて考えちゃいけないよ」
こういうとErosは可愛い眉を昂(あ)げて、「君の箭はいかにも何でも射通すそうだがね、僕の矢は君でさえ射抜いてしまうんだよ。人間が神々に劣るくらい、丁度それだけ君の誉れも、僕の力に敵うまいというものさ」こう言って彼は翼を揺(ゆ)り立てて、遥かの空へそのまま翔って行ったが、パルナッソスの頂に着くと、背の箙から2本の矢を取り出して、それを弦にあてがった。一方は鋭いぴかぴか光る黄金の鏃のついた箭で、当たった者を愛しい思いに燃立たせる矢、もう一方は鈍く曇った鉛を端につけた矢でこれに当たれば、ただ人が疎ましく厭(いと)ましく思われてくるのだった。エロースはこの鉛の箭を取ってペーネイオスの河の神の娘に向けて射た。それからもう一方は、密にアポローンの胸を狙って射放たれた。
Dáphnêはまだ恋などという言葉を耳にするのも厭わしくただ森の寂(しず)けさを愛して、野山に獣を追って歩いた。彼女の髪はただ一条の細いバンドで束ねられたばかりに白い項(うなじ)に垂れかかり、すんなりとした肩には箙(えびら)を吊るした。短い上衣は膝に達せず、紅の行縢(むかばき)が形の良い脹脛(ふくらはぎ)をしっかと締め付けているだけだった。彼女の手を求め、父の河神を訪ねる若殿原は、近隣の国だけではなく、遥かな山を越えたラピタイの中にも数多くあった。しかし彼女は求婚者等というものには一顧も与えず、婚礼のことを父から言われると、耳までまっ赤に染めて強く首を振るのだった。そして父親の首に縋りながら甘えた声で、「お父様お願いですから、私に何時までも処女(きむすめ)のままでいさせて下さいまし。あのアルテミス女神さまの御父親だっても、それをお許しになっておいでですのに」と言うのであった。彼女の父ペーネイオスは止むを得ず娘の言うままに、それを見過ごしていたが、彼女の美しさが、何時までもその願いを容(ゆる)してはおかなかった。アドメートスの羊を監督(みと)るアポローン神は、時折牧場を横切って行く少女の姿にずっと前からもう胸を焦がしていた。彼女の暁の星のようにきらきらしく仄めく瞳に、さすが神の予言の力も早くから失われていた。彼は少女の匂やかな口許を見つめ鮮やかなその色に見とれはするが、やがてそれだけでは満足できなくなった。白い指や臂(ただむき)、形地のよい頚すじから肩、それらは見惚れる隙(ひま)も与えず、木立の中へ突き入って消えてしまう。そして彼が呼んでも振り向いてもみず答えようともしない。さすがの御神も一介の鄙びて荒くれた牧夫にしか彼女の眼には写らないのか。いつの間にか彼は我ともなく少女の後を追いかけていた。
逃げ行く少女の姿は、一際愛らしく見えた。風に翻る衣は形の好いふっくらした腿を露に見せた。そして爽やかな五月の風に彼女の亜麻色の髪は、煌きながら靡いて流れた。若々しい御神はもう甘たるい言葉で誘うのは止めた。一段の切なさを加えた胸のとどろきが彼の足に拍車をかけた。競走も最早や終わりに近付くと見えた。アポーロンは今にも達せられようという望みに歩みを速め、少女はひたすら恐れに足を駆り立てられた。それにしてももう彼女の力は尽き果てるに近かった。恐怖に色も蒼ざめて、背中に迫ってくる足音に総毛立ちなが、やっと眼の前に現れてきた父であるペーネイオスの流れに対って、彼女は叫んだ。
「お父様たすけて。私をこの男の人から護って。もしお父様が神様ならば、私の美しさをこの人のものにさせないでくださいまし」少女の祈りが、まだ口許から去るか去らないかに、劇しい痺れが彼女の足を捉えた。そしてその脇腹は見る間に固い樹皮で覆われて行った。ふさふさと初夏の太陽に輝いていて波打っていた金髪は緑の葉に変わり、両腕は同じようにすんなりとした枝となった。今しがた迄あれほど疾(はや)く馳っていた両脚も、今は地中に深く入り込んだ根に変じ、その頭は今では微風にそよぐ梢に過ぎない、ただ変わらないのは趣こそ異なれ前に等しく輝かしい美しさである。この新しい姿になっても、アポローンはまだ彼女を愛していた。其の気の幹へ手を当てると樹皮の下ではまだ心臓が優しく鼓動しているように感じられた。彼は樹の幹を耐え切れぬ思いで胸に抱きしめると、そっと唇を押し当てた。すると今でもまだその木は、縮かんで彼を避けるかのように思われた。とうとう耐え切れずに御神は樹に向かって声を上げて名を呼んでさけぶのであった。
月桂樹がアポーロンの栄えの象徴として、文武の誉を獲た人々の頭に、栄冠として献ぜられるのはこうした謂れに基くと言い伝えられる。月桂樹はギリシア名はダプネーである。
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目高 拙痴无
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誕生日:
1932/02/04
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