瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
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 枕草子に「かたはらいたきもの」の例えとしていくつかの事例が述べられています。

 かたはらいたきもの、よくも音弾きとどめぬ琴を、よくも調べで、心の限り弾きたてたる。
 客人などに会ひてもの言ふに、奥の方にうちとけ言など言ふを、えは制せで聞く心地。
 思ふ人のいたく酔ひて、同じことしたる。聞きゐたりけるを知らで、人のうへ言ひたる。それは、何ばかりの人ならねど、使ふ人などだにいとかたはらいたし。
 旅立ちたる所にて、下衆(げす)どものざれゐたる。にくげなるちごを、おのが心地のかなしきままに、うつくしみ、かなしがり、これが声のままに、言ひたることなど語りたる。
 才ある人の前にて、才なき人の、ものおぼえ声に人の名など言ひたる。
 ことによしともおぼえぬわが歌を、人に語りて、人のほめなどしたるよし言ふも、かたはらいたし。

訳〉そばにいていたたまれないもの、上手に音を弾きこなさない琴を、じゅうぶんに調律しないで、思うがままに弾きたてているの。
 (訪ねてきた)客に会って話をするときに、奥の方で(家の者が客に聞かれたくない)遠慮のない話をしているのを、止めることもできないで聞く気持ち。
 愛する人がひどく酔って、同じことをくりかえして(話して)いるの。
 (話にでている当人が)聞いていたのを知らないで、(その)人のことをうわさしているの。
 それは、どれほどの身分の人でなくても、使用人などでさえ非常に聞き苦しい。
 (自宅から離れて)しばらく滞在している所で、身分の低い者たちがふざけあっているの。
 かわいげのない幼児を、自分の気持ちでかわいいと思うのにまかせて、愛し、かわいがり、この子の声の通りに、言ったことなどを話して聞かせているの。
 学才のある人の前で、学才がない人が、物知りぶった声の調子で人の名などを言ったの。
 とくにうまいとも思われない自作の歌を、人に言って聞かせて、(その歌を)人がほめなどしたということを言うのも、聞き苦しい。(うまくない歌を、ほめられたといって人に聞かせているのがみっともない)

 「かたはらいたし」という語は現在、「片腹痛い」などという宛字が使われて、「ちゃんちゃら可笑しい」とか「可笑しくてみておれない」というような、対象を見くびった言い方に用いられますが、元来は「傍(かたはら)いたし」の意味で、傍(そば)にいて心に苦痛を覚える、つまり辛くていたたまれない気がするという気持ちを述べたものでした。
 枕草子にあるように本来は話し手の主観的な感情を吐露する語でした。それが次第に批評的な意味合いを強くして、現代では第三者に関しての客観的評価を述べるような場合が多くなってきているのです。

徒然草 57段
 人の語り出でたる歌物語の、歌のわろきこそ、本意なけれ。少しその道知らん人は、いみじと思ひては語らじ。
 すべて、いとも知らぬ道の物語したる、かたはらいたく、聞きにくし。


 


訳)  人が語りはじめた歌物語(歌についての話題ということで、歌の物語ではない)の中で、肝心の和歌ができそこないだとがっかりだ。少しでも和歌に心得がある人ならば、できそこないの和歌を良いものとして語ったりしない。
  なにごとにつけ、よく知らない分野のことをべらべらと話すのは、笑止千万で聞き苦しいものだ。


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