瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
夢渓筆談 巻14より 集句詩
古人詩有“風定花猶落”之句、以謂無人能對。王荊公以對“鳥鳴山更幽”。“鳥鳴山更幽”本宋王籍詩、元對“蟬噪林逾靜、鳥鳴山更幽”、上下句只是一意;“風定花猶落、鳥鳴山更幽”則上句乃靜中有動、下句動中有靜。荊公始為集句詩、多者至百韻、皆集合前人之句、語意對偶、往往親切、過於本詩。後人稍稍有效而為者。
〔訳〕古人の詩に「風定まりて花なお落つ」という句があり、これに対句をつけられる人はいないといわれていた。王荊公〔王安石〕がこれに「鳥鳴きて山さらに幽(しず)か」と対句をつけた。「鳥鳴きて山さらに幽か」というのは、もともと宋の王籍〔おうせき、生卒年不詳〕の詩であり、「蝉噪ぎて林いよいよ静か、鳥鳴きて山さらに幽か」という対になっていて、上下句はただ一つの意境を詠ったもの。「風定まりて花なお落ち、鳥鳴きて山さらに幽か」となれば、上句は静中に動あり、下句は動中に静ありとなる。
集句詩なるものは荊公がはじめて作ったものである。長い詩に至っては百韻にも及んでおり、すべて前人の句をつなぎ合わせたものであるが、語気といい対偶といい、しばしばもとの詩よりずっとぴったりしたものになっていた。その後をついでまねて作ってみる者も少々はいるようである。
※集句詩の詩形は明の胡震享が『唐音葵籤』で、「晋の傳咸(ふかん)がはじめ、唐の昭宗の時にも同谷子という者が集句詩を作って時政をそしっている」と述べているように、宋代以前にもあったものらしい。宋の蔡條(さいとう)の『西清詩話』でも「集句詩は宋初からあったがそう盛んでなかった。石曼卿〔992~1040年〕が機智に富んだ集句詩を作って以来盛んになった。王荊公が始祖ではない」と言っている。王安石が特に巧みであったので宋代集句詩の代表的作者とされ一般にも始祖とみなされてしまったらしい。
古人詩有“風定花猶落”之句、以謂無人能對。王荊公以對“鳥鳴山更幽”。“鳥鳴山更幽”本宋王籍詩、元對“蟬噪林逾靜、鳥鳴山更幽”、上下句只是一意;“風定花猶落、鳥鳴山更幽”則上句乃靜中有動、下句動中有靜。荊公始為集句詩、多者至百韻、皆集合前人之句、語意對偶、往往親切、過於本詩。後人稍稍有效而為者。
〔訳〕古人の詩に「風定まりて花なお落つ」という句があり、これに対句をつけられる人はいないといわれていた。王荊公〔王安石〕がこれに「鳥鳴きて山さらに幽(しず)か」と対句をつけた。「鳥鳴きて山さらに幽か」というのは、もともと宋の王籍〔おうせき、生卒年不詳〕の詩であり、「蝉噪ぎて林いよいよ静か、鳥鳴きて山さらに幽か」という対になっていて、上下句はただ一つの意境を詠ったもの。「風定まりて花なお落ち、鳥鳴きて山さらに幽か」となれば、上句は静中に動あり、下句は動中に静ありとなる。
集句詩なるものは荊公がはじめて作ったものである。長い詩に至っては百韻にも及んでおり、すべて前人の句をつなぎ合わせたものであるが、語気といい対偶といい、しばしばもとの詩よりずっとぴったりしたものになっていた。その後をついでまねて作ってみる者も少々はいるようである。
※集句詩の詩形は明の胡震享が『唐音葵籤』で、「晋の傳咸(ふかん)がはじめ、唐の昭宗の時にも同谷子という者が集句詩を作って時政をそしっている」と述べているように、宋代以前にもあったものらしい。宋の蔡條(さいとう)の『西清詩話』でも「集句詩は宋初からあったがそう盛んでなかった。石曼卿〔992~1040年〕が機智に富んだ集句詩を作って以来盛んになった。王荊公が始祖ではない」と言っている。王安石が特に巧みであったので宋代集句詩の代表的作者とされ一般にも始祖とみなされてしまったらしい。
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