瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
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 夢渓筆談 巻17より 正午の牡丹
 歐陽公嘗得一古畫牡丹叢、其下有一貓、未知其精粗。丞相正肅吳公與歐公姻家、一見曰:“此正午牡丹也。何以明之?其花披哆而色燥、此日中時花也;貓眼黑睛如線、此正午貓眼也。有帶露花、則房斂而色澤。貓眼早暮則睛圓、日漸中狹長、正午則如一線耳。”此亦善求古人心意也。
1c36b0ff.JPG〔訳〕欧陽公〔欧陽脩〕が、かつて群り咲く牡丹の花の下に猫のいる古画を手に入れたが、それがどれほどよく描けているか判っていなかった。欧公と姻戚の丞相(じょうしょう)正肅(せいしゅく)呉公は一目見てこう言った。
「これは午後の牡丹ですな。なんでそれが判るかって。花が開ききり、しかも色がかわいている。これは日中の花です。猫の目のひとみの穴も糸のようになっている。これは正午の猫の目です。露をおびた花なら花ぶさがすぼまっているし色もつややか、猫の目も朝や晩にはひとみの穴はまんまる、正午に近づくにつれて細くせばまり、正午だけ一本の線のようになるのです」
 いやまたよく古人の筆意をつかんだものだ。
 
a8e43d8c.JPG※正肅呉公とは呉育〔1004~58年〕のことで、字は春卿、諡が正肅。宋の仁宗の時、資政殿大学士・尚書左丞となる。若い時から博学であったと言う。


 

 夢渓筆談 巻17より 遠近法
 李成畫山上亭館及樓塔之類、皆仰畫飛檐、其說以謂自下望上、如人平地望塔檐間、見其榱桷。此論非也。大都山水之法、蓋以大觀小、如人觀假山耳。若同真山之法、以下望上、只合見一重山、豈可重重悉見、兼不應見其溪谷間事。又如屋舍、亦不應見其中庭及後巷中事。若人在東立、則山西便合是遠境;人在西立、則山東卻合是遠境。似此如何成畫?李君蓋不知以大觀小之法、其間折高、折遠、自有妙理、豈在掀屋角也。
4f6b5a67.JPG〔訳〕李成が画く山上の亭館(やかた)や楼塔(たかどの)のたぐいは、みな高い軒を仰ぎ見るように画いてある。下から上を望めば、人が平地で塔を見上げるように、軒のたるきまで見えるものだから、というのであるが、この論は間違っている。おおむね山水を画く法というものは、人が築山を見るように、実際には大きなものを、実際より小さく見取るものである。もしすべて本当の山の大きさの通りに山々を画く法を取って、下から上をのぞんだら、山がひとつ見えるだけで、重なり合う山々を見渡すことはおろか、谷あいのこまごましたものまで見えるわけはない。また家屋について、その中庭や屋敷の後ろまで見えるはずはない。もし人が東側に立てば山の西側は遠方に位置するものだし、西側に立てば山の東側が遠方になるもの。これをどのようにして画にすればよいか。李成は、大きなものを小さく見取る法〔遠近法を取り入れた鳥瞰(ちょうかん)図法〕を知らないのだ。屋根のすみをはねあげるなどということではなくて、高さを按排したり、遠近を安排するところに画のうまみがあるのだ。
 
3e7595fb.JPG※李成(りせい、919~967年頃)、字は咸熙(かんき)。五代、北宋初期の山水画家。青州〔現在の山東省濰坊〕の人。唐の宗室とも言われる。営丘に移り住んだ事から李営丘ともいう。北宋初期には范寬、関仝と並んで「三家鼎峙(ていじ)」とも言われ、多く淡墨の山水を描いて「惜墨如金」ともよばれ、夢霧の如しとも言われた。のち、郭煕〔かくき、1023?~1085?年〕などがその画風を継承し、李郭派と呼ばれた。「喬松平遠図」が伝世の中で最もよくその画風を伝えるとされる。
 
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