瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
夢渓筆談 巻13より 曹瑋の戦法
曹南院知鎮戎軍日、嘗出戰爭小捷、虜兵引去。瑋偵虜兵起遠、乃驅所掠牛羊輜重、緩驅而還、頗失部伍。其下憂之、言於瑋曰:“牛羊無用、徒縻軍、若棄之、整眾而歸。”瑋不答、使人侯。虜兵去數十裏、聞瑋利牛羊而師不整、遽襲之。瑋愈緩、行得地利處、乃止以待之。虜軍將至近、使人謂之曰:“蕃軍遠來、幾甚疲。我不欲乘人之怠、請休憩士馬、少選決戰。”虜方苦疲甚、皆欣然、嚴軍歇良久。瑋又使人諭之:“歇定可相馳矣。”於是各鼓軍而進一戰大破虜師、遂棄牛羊而還。徐謂其下曰:“吾知虜已疲、故為貪利認誘之。此其復來、幾行百裏矣、若乘銳便戰、猶有勝負。遠行之人若小憩、則足痹不能立、人氣亦闌、吾以此取之。”
〔訳〕曹南院〔曹瑋〕が鎭戎軍を治めていた頃、かつて出撃して軽く一戦をものし敵軍は兵を引いて去った。瑋は敵軍がすでに遠くに去ったことを確かめると、奪い取った牛羊輜重(しちょう)を追いたてながら、のんびりと帰途に着いたので、隊伍が乱れてしまった。部下が心配して、「牛や羊は使い道もなく、部隊の足手まといになるばかり、これを捨てて整然と隊伍を整えて帰った方がよいと存じますが」と、瑋に進言したが、瑋は黙ったまま斥候を出す。敵軍は数十里ほど兵を引いた所で、瑋が牛羊に気を取られて隊伍を乱したと聞いて、急遽取って返して瑋の軍の襲撃にかかる。瑋の方はますます行軍の速度を落とし、地の利のいい所をみつけると、そこに待機して敵軍を迎えた。
敵軍が至近距離に近づくと、使者をはけんして、「お前たちは遠くから駆けつけたので、きっと疲れていることだろう。相手の弱みに付け込むのは好まぬ。兵士も馬も一休みさせて、一息入れてから決戦することにしようではないか」と申し入れさせた。敵は折しも非常に疲れているところだったから、みな喜んで兵をまとめしばらく休息をした。瑋はまた使者を派遣して「一息入れた所で、さて勝負いたそう」と申し入れ、太鼓を打って各部隊を進攻させ、一撃で敵部隊を大いに破ると、牛羊を捨てて帰還した。ここで瑋はやっと口を開いて部下に言った。
「わしは敵がすでに戦い疲れているのを知っていたから、わざと欲に目がくらんだふりをして敵を誘ったのだ。再び追いついた時には、敵は百里近くも走り続けているわけだ。もしその勢いに乗ってすぐ戦闘に突入したなら、まだ相当戦えただろう。が、長距離は知ったものが、ちょっと一休みをすると、かえって足がしびれて立てなくなり、意気も挫けてしまうものだ。そこをわしは狙ってやったのさ」と。
※曹瑋〔973~1030年〕は、字は宝臣、諡は武穆(ぶぼく)。のち宋代において軍事を司る最高機関であった枢密院の次官〔簽書枢密院事〕になり、宣徽(せんき)南院〔宮中の祭宴を司る役所。大臣・枢密院官などの高官が担当する〕の官にもなつたので曹南院と呼ばれる。太宗の時、西夏軍に対する作戦を十九歳で担当し、その時すでに老将のように沈着であったという。真宗が即位すると、引き続き対西夏作戦にあたり、鎭戎軍の長官となって、西夏の太宗李継遷〔けいせん、963~1004年〕の軍をしばしば破った。以後40年間の先人生活で失策を犯したことがないという名称であった。
夢渓筆談 巻13より 王元澤の機転
王元澤數歳時、客有以一麞一鹿同籠以問雱:“何者是麞、何者是鹿?”雱實未識、良久對曰:“麞邊者是鹿、鹿邊者是麞。”客大奇之。
〔訳〕王元沢〔王雱(おうほう)〕が五、六歳の時、ある客が麞(のろ)と鹿とを同じ籠に入れて「どっちが麞でどっちが鹿だ?」と雱に聞いた。雱には実は未だその見分けはつかなかったのだが、ややあって「麞の隣にいるのが鹿で、鹿の隣にいるのが麞だよ」と応えたので、客は大いに感心した。
※王雱(1043~1076年)の字は元澤、王安石の子で少年の頃から才華に溢れ、元服前にすでに数万言の書を著したという。のち天章閣待制の官となったが、三十三歳にして父に先立ち世を去った。
※麞(のろ)は角が短い小型の鹿。肩髙70cmほど。夏毛は赤褐色で冬毛は淡黄色。臀部に大きな白斑がある。なおここで言う鹿はいわゆるニホンジカの類、すなわち肩高70~90cmで、栗色の毛に白斑をもち、冬には斑紋がなくなり、灰褐色となるもの。
曹南院知鎮戎軍日、嘗出戰爭小捷、虜兵引去。瑋偵虜兵起遠、乃驅所掠牛羊輜重、緩驅而還、頗失部伍。其下憂之、言於瑋曰:“牛羊無用、徒縻軍、若棄之、整眾而歸。”瑋不答、使人侯。虜兵去數十裏、聞瑋利牛羊而師不整、遽襲之。瑋愈緩、行得地利處、乃止以待之。虜軍將至近、使人謂之曰:“蕃軍遠來、幾甚疲。我不欲乘人之怠、請休憩士馬、少選決戰。”虜方苦疲甚、皆欣然、嚴軍歇良久。瑋又使人諭之:“歇定可相馳矣。”於是各鼓軍而進一戰大破虜師、遂棄牛羊而還。徐謂其下曰:“吾知虜已疲、故為貪利認誘之。此其復來、幾行百裏矣、若乘銳便戰、猶有勝負。遠行之人若小憩、則足痹不能立、人氣亦闌、吾以此取之。”
〔訳〕曹南院〔曹瑋〕が鎭戎軍を治めていた頃、かつて出撃して軽く一戦をものし敵軍は兵を引いて去った。瑋は敵軍がすでに遠くに去ったことを確かめると、奪い取った牛羊輜重(しちょう)を追いたてながら、のんびりと帰途に着いたので、隊伍が乱れてしまった。部下が心配して、「牛や羊は使い道もなく、部隊の足手まといになるばかり、これを捨てて整然と隊伍を整えて帰った方がよいと存じますが」と、瑋に進言したが、瑋は黙ったまま斥候を出す。敵軍は数十里ほど兵を引いた所で、瑋が牛羊に気を取られて隊伍を乱したと聞いて、急遽取って返して瑋の軍の襲撃にかかる。瑋の方はますます行軍の速度を落とし、地の利のいい所をみつけると、そこに待機して敵軍を迎えた。
敵軍が至近距離に近づくと、使者をはけんして、「お前たちは遠くから駆けつけたので、きっと疲れていることだろう。相手の弱みに付け込むのは好まぬ。兵士も馬も一休みさせて、一息入れてから決戦することにしようではないか」と申し入れさせた。敵は折しも非常に疲れているところだったから、みな喜んで兵をまとめしばらく休息をした。瑋はまた使者を派遣して「一息入れた所で、さて勝負いたそう」と申し入れ、太鼓を打って各部隊を進攻させ、一撃で敵部隊を大いに破ると、牛羊を捨てて帰還した。ここで瑋はやっと口を開いて部下に言った。
「わしは敵がすでに戦い疲れているのを知っていたから、わざと欲に目がくらんだふりをして敵を誘ったのだ。再び追いついた時には、敵は百里近くも走り続けているわけだ。もしその勢いに乗ってすぐ戦闘に突入したなら、まだ相当戦えただろう。が、長距離は知ったものが、ちょっと一休みをすると、かえって足がしびれて立てなくなり、意気も挫けてしまうものだ。そこをわしは狙ってやったのさ」と。
※曹瑋〔973~1030年〕は、字は宝臣、諡は武穆(ぶぼく)。のち宋代において軍事を司る最高機関であった枢密院の次官〔簽書枢密院事〕になり、宣徽(せんき)南院〔宮中の祭宴を司る役所。大臣・枢密院官などの高官が担当する〕の官にもなつたので曹南院と呼ばれる。太宗の時、西夏軍に対する作戦を十九歳で担当し、その時すでに老将のように沈着であったという。真宗が即位すると、引き続き対西夏作戦にあたり、鎭戎軍の長官となって、西夏の太宗李継遷〔けいせん、963~1004年〕の軍をしばしば破った。以後40年間の先人生活で失策を犯したことがないという名称であった。
夢渓筆談 巻13より 王元澤の機転
王元澤數歳時、客有以一麞一鹿同籠以問雱:“何者是麞、何者是鹿?”雱實未識、良久對曰:“麞邊者是鹿、鹿邊者是麞。”客大奇之。
〔訳〕王元沢〔王雱(おうほう)〕が五、六歳の時、ある客が麞(のろ)と鹿とを同じ籠に入れて「どっちが麞でどっちが鹿だ?」と雱に聞いた。雱には実は未だその見分けはつかなかったのだが、ややあって「麞の隣にいるのが鹿で、鹿の隣にいるのが麞だよ」と応えたので、客は大いに感心した。
※王雱(1043~1076年)の字は元澤、王安石の子で少年の頃から才華に溢れ、元服前にすでに数万言の書を著したという。のち天章閣待制の官となったが、三十三歳にして父に先立ち世を去った。
※麞(のろ)は角が短い小型の鹿。肩髙70cmほど。夏毛は赤褐色で冬毛は淡黄色。臀部に大きな白斑がある。なおここで言う鹿はいわゆるニホンジカの類、すなわち肩高70~90cmで、栗色の毛に白斑をもち、冬には斑紋がなくなり、灰褐色となるもの。
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目高 拙痴无
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1932/02/04
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