栲(たく)を詠める歌1
栲(たく)はクワ科の落葉低木の楮(こうぞ)です。春に小さな花をつけ、六月頃に木苺に似た実をつけます。古くから布や紙の材料として利用されてきました。
万葉集では、この栲(たく)の皮からとった白い繊維、または繊維で織った布を指しています。また、その繊維で編んだ「栲縄(たくなは)」は「長い」を引き出す言葉として使われています。
巻2-0217:秋山のしたへる妹なよ竹のとをよる子らは...(長歌)
標題:吉備津采女死時、柿本朝臣人麿作歌一首并短哥
標訓:吉備(きび)の津(つ)の采女(うねめ)の死(みまか)りし時に、柿本朝臣人麿の作れる歌一首并せて短歌
原文:秋山 下部留妹 奈用竹乃 騰遠依子等者 何方尓 念居可 栲紲之 長命乎 露己曽婆 朝尓置而 夕者 消等言 霧己曽婆 夕立而 明者 失等言 梓弓 音聞吾母 髪髴見之 事悔敷乎 布栲乃 手枕纏而 釼刀 身二副寐價牟 若草 其嬬子者 不怜弥可 念而寐良武 悔弥可 念戀良武 時不在 過去子等我 朝露乃如也 夕霧乃如也
万葉集 巻2-0217
作者:柿本人麻呂
よみ:秋山の したへる妹 なよ竹の とをよる子らは いかさまに 思ひをれか 栲縄(たくなは)の 長き命を 露こそは 朝に置きて 夕は 消ゆと言へ 霧こそは 夕に立ちて 朝は 失すと言へ 梓弓 音聞くわれも おほに見し 事悔しきを 敷栲の 手枕まきて 剣刃 身に副(そ)へ寝けむ 若草の その嬬の子は さぶしみか 思ひて寝らむ 悔しみか 思ひ恋ふらむ 時ならず 過ぎにし子らが 朝露のごと 夕霧のごと
意訳:秋山の木々の間に光が差し込め、美しく輝く貴女、なめらかな竹のようなしなやかな体をした貴女は、どう思ったのか、栲の繩のように長い命を、露だったら朝に降りて夕べには消え、霧だったら夕べに立ち込めて朝には消え失せるという、采女の貴女が神を呼ぶ梓の弓をかき鳴らす音を聞いた私も、その姿をかすかにしか見なかったことが残念で、閨の寝具の上で手枕を交わして剣や太刀を身に添えるように寄り添って寝た、若草のような貴女の若い恋人は、貴女を亡くした寂しさか、思い出して夜を寝られるでしょう。悔しみか、思い出して恋しがるでしょう。思いもかけず、亡くなった貴女は、朝露のようで、夕霧のようです。
※吉備津采女(きびつの-うねめ、生没年不詳)
飛鳥(あすか)時代の女官です。吉備国津郡出身の采女です。近江(おうみ)朝廷につかえ、ゆるされない結婚をしたため罰せられ、自殺したとされます。「万葉集」巻2に柿本人麻呂(かきのもとの-ひとまろ)の長歌1首、反歌2首の挽歌があり、当時世にきこえた事件を人麻呂が詠ったものと思われます。
◎采女は、各地の有力な氏族から容姿端麗ななる女性を選び、出仕させ、天皇の身辺の世話をする女性としました。古くは、各豪族の服従の贄として、貢上されたものです。
この美女たちは、美しい装飾、美しい衣服を身にまとい、しかも天皇側近という、一般の廷臣とはかけ離れた世界にいました。それを垣間見る廷臣(人麻呂も含む)にとってみれば、憧れるだけで近づきがたい存在です。
また、その采女という職掌の性格上、出仕の間は、天皇以外の男性と関係を持つことは、厳に禁じられていました。
この吉備津の采女の場合は、歌の中に「夫」とあることから、禁断である天皇以外の男と密通し、それが露見してしまったのでしょう。
それを悔い、恥ずかしみ、突然、入水自殺をしてしまったようです。
人麻呂は、そんな話を噂で聞き、彼女の命の儚さと、禁断の恋を思い、悔やんではいるけれど、最後は「朝露のごと 夕霧のこと」(朝露のような・・・夕霧のような・・・)と、儚さだけを詠み、終えています。
彼女の罪を責めてはいません、ただ、その儚さだけを、悲しむだけです。
様々な辛さに耐えかねて、水底に沈む美女。このテーマは、様々な歌で、万葉集に出て来ます。
ウェブニュースより
藤井2冠激戦で連勝「負けもあった」次は木村一基戦 ―― 将棋の藤井聡太2冠(王位・棋聖=18)が2日、東京・千駄ケ谷「将棋会館」で行われた第70期王将戦挑戦者決定リーグ5回戦で、広瀬章人八段(33)を下した。
これで3連敗後、2連勝。ほかの棋士の勝敗次第だが、今月20日の最終局、木村一基九段(47)戦での残留に望みをつないだ。目まぐるしく形勢が傾き、「負けもあった気がします」と話すほどだった。
https://www.youtube.com/watch?v=RZRq5brw9tA
1年前の前期王将リーグでは4勝1敗同士で、渡辺明王将(36)への挑戦権をめぐって直接対決。藤井は終盤、受けを間違えて挑戦できなかった。今期は、負けられない対局で踏みとどまった。「最終局も盤上に集中して指したい」と、抱負を語った。 [日刊スポーツ 2020年11月2日20時52分]
sechin@nethome.ne.jp です。
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