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 既存の語との関係において語源を考えなければならない例は、言うまでもなく日本語同士の間のものが圧倒的に多いのです。
 醤油のことを「むらさき」と言いますが、これはもと女房詞(室町時代ごろ、御所に仕える女房たちの使い始めた隠語)で、その色が紫であったことからの命名であることは言うまでもありません。

 
今日のviolet(すみれ色)と醤油の色とでは、ちょっと結びつけにくいようですが、古代紫(京紫)が青みを帯びた深紫色であったことを承知していれば、この場合の語源の説明は容易です。

 しかし、遡って、紫色いろをなぜ「むらさき」と命名したかということになると、また別の語源説明が必要になります。紫色はもと紫草の根に含まれている色素によって染めたので、その草の名「むらさき」を、そのままそれによる染色名に転用したのです。

 すると今度はさらに遡って、そもそもその草を何故「紫」と命名したのかという問題になります。この草は花が群れて咲くから「群(む)ら咲き」と言ったのだという説明が行われています。これが正しいかどうかは判らないにしても、とにかく「むらさき」という語を説明しようとすると、どうしてもここまで遡らなければならないことになります。
 ここまで遡ってもまだ不十分で、それなら、何故一つに集まることを「むる(群れる)」と言い。華の開くことを「さく」と言ったか、という点まで説明しなければ、本当にこの語の由来を説いたことにはならない道理です。しかし、そういうことは、少なくとも、醤油を「むらさき」と呼ぶことの由来(語源)としては、直接に関係がないといえます。それが色名の「むらさき」から来ていることを言えば、その段階での語源説明としては、一応十分だと考えなくてはなりません。


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