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 ずれは、意味の面だけでなく、むしろ、より多く語の形式(音韻)の面で起こっています。「おんな」の例でも判るように、語源を探求するためには、その後の形を、可能な限り遡らせて、その成立期のものに近づけて考えることが必要になります。
 そうすることで語源の考えやすくなる一例として、例えば、「補充する」という意味の「おぎなう」という語があります。この語の語源はオギナウという形で考える限りでは、すぐに明らかにしにくいのですが、これは古くは「おきなふ」の形であり、さらに遡ると、平安時代の緩和字書『類聚名義抄(るいじゅみょうぎしょう)』に、
  輔  ツゝル・ソフ・オキヌフ・タスク (観智院本)
 
とあるように、「おきぬふ」という形であったことが判ると、考えやすくなります。つまり、もとこれは「置き縫ふ」で、「布の破れた所に他の布を置いて縫う」ことを言った語でした。そこから広く「補綴(ほてつ)する」「補充する」の意味に転じたものであると考えられます。

 
音韻の歴史的な研究が進んで、こういう過去にさかのぼって一つの語の形式を復元することが、かなりしやすくなりました。例の「上代特殊仮名遣」の名で知られている事実、すなわち、
「奈良時代以前の日本語の状態を反映していると考えられる文献には、キ・ケ・コ・ソ・ト・ノ・ヒ・ヘ・ミ・メ・(モ)・ヨ・ロの十二(ないし十三)の万葉仮名に、それぞれ二類(甲類・乙類と呼びます)のかきわけがある。これは、おそらく、当時、これらの各音節に発音の相違があったことにもとづくものであろうと考えられる。」
という重要な事実、および、これから導かれる音韻交替や母音結合に関する諸法則などは、今日、最早これを考慮せずにには語源を考えることが出来ないほどの意味を持つものであります。

 
ひとり上代語の問題に限らず、中古・中世・近世・現代の各時代にわたって、その音韻の状態や音韻変化の事情が、アクセントまでも含めて次第に解明されてきています。一般に音韻変化は、同じ条件もとにある個々の語の音韻について、ある斉一性をもって起こるものであるといいうる場合が多いのです。だから、上のような諸事実をたよりに、それぞれの語の語形変化の経緯を、かなりの程度まで推定できるようになっているのが現状です。


 


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