瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
年が変わってこのかた、餅のような粘っこい物を食べると奥の部分入れ歯が取れるようになった。日に日に取れやすくなり、舌の先でもはずすことができるようになった。まだ雪も残っていて億劫ではあったが、近くの歯医者に出かけた。今回は部分入れ歯の金具を少しだけ締めてもらうだけで治ったが、いずれはこれを支える本歯もやがては弱って抜けてしまうのだろう。前にもブログで取り上げたように思うが、韓愈の「落歯」という漢詩を再読する。
落歯 韓愈
去年落一牙 去年、一牙を落とし、
今年落一齒 今年、一歯を落とす。
俄然落六七 俄然として六七を落とし
落勢殊未已 落つる勢い殊に未だ己まず。
餘存皆動搖 余の存するものも皆動揺し、
盡落應始止 尽く落ちて応に始めて止むべし。
〔訳〕 去年、わきの歯が一本抜け/今年前歯が1本抜けた/見る見るうちに六、七本抜けたが/抜ける勢いは一向に止まない/残った歯もみなぐらぐらする/全部抜けないと これはやまらしい
憶初落一時 憶う 初めて一を落とせし時、
但念豁可恥 但だ割にして恥ず可しと念えり。
及至落二三 二三を落とすに至るに及んで、
始憂衰即死 始めて憂う衰えて即ち死せんことを。
毎一將落時 一つ将に落ちんとする時毎に、
懍懍恆在己 懍懍たること恒に己に在り。
〔訳〕 思えば初め 一本が抜けた時は/口にすき間が出来て恥ずかしいと思うだけだったが/二、三本抜けたころになって/老衰して今にも死ぬのかと心配になった/一本抜けそうになるたびに/いつも心中びくびくしたものだ
叉牙妨食物 叉牙として物を食うことを妨げ、
顛倒怯漱水 顛倒して水に注ぐ漱ぐことを怯る。
終焉捨我落 終焉として我を捨てて落つれば
意與崩山比 意は崩るる山に比す。
今來落既熟 今来、落つること既に熟せり、
見落空相似 落つるを見れば空しく相似たり。
〔訳〕 どうもひっかかって食事の邪魔になり/揺れ動いて含嗽(うがい)にも気になるほどだったが/とうとう私を見捨てて抜けてしまえば/山が崩れたような気持ちがした/だか今では抜けるのに慣れてしまい/いくら抜けても みなおなじようなもの
餘存二十餘 余の存せる二十余りも
次第知落矣 次第に落ちんことを知る。
儻常歳落一 儻し常に歳ごとに一を落とすとも
自足支両紀 自ら両紀を支うるに足れり。
如其落併空 如し其れ落ちて併せて空しくとも、
與漸亦同指 漸くなると亦指を同じくさん。
〔訳〕 後に残った二十本余りも/どうせ次々に抜けるのだろう/もし毎年一本ずつ抜けたとしても/二十余年は十分にもつわけだ/一度に全部が抜けてしまっても/少しずつ抜けるのと結局はおなじこと
人言齒之落 人は言う「歯の落つるや、
壽命理難恃 寿命も理として恃み難し」と。
我言生有涯 我は言う「生は涯り有り、
長短倶死爾 長短 倶に死する爾」と。
人言齒之豁 人は言う「歯の割なる、
左右驚諦視 左右 驚きて諦視す」と。
〔訳〕 人は言う 歯が抜ければ/寿命も当然保ちがたいと/だが私は言う 人生には限りがあるもの/長命でも短命でも みな死ぬのさ/人は言う 口にすき間が出来れば/そばの人が驚いてじろじろみるだろうと
我言荘周云 我は言う「荘周がいわく、
木鴈各有喜 『木と雁と 各々喜ぶこと有り』と。
語訛黙固好 語訛れば黙すること固に好し、
嚼廢軟還美 嚼むこと廢れて軟かなもの
因歌遂成詩 還に美し」と因って歌って遂に詩を成し、
持用詫妻子 持して用って妻子に誇るらん。
〔訳〕 だが私は言う 荘周もいったように/木にも雁にも それぞれ幸運がある/ものが言いにくければ 黙っていることはよいことだ/ものが噛めなければ 柔らかいものがうまくなる/こう歌いつつ 私は一首の詩を作り上げた/これを妻子に見せびらかしてやろう
落歯 韓愈
去年落一牙 去年、一牙を落とし、
今年落一齒 今年、一歯を落とす。
俄然落六七 俄然として六七を落とし
落勢殊未已 落つる勢い殊に未だ己まず。
餘存皆動搖 余の存するものも皆動揺し、
盡落應始止 尽く落ちて応に始めて止むべし。
〔訳〕 去年、わきの歯が一本抜け/今年前歯が1本抜けた/見る見るうちに六、七本抜けたが/抜ける勢いは一向に止まない/残った歯もみなぐらぐらする/全部抜けないと これはやまらしい
憶初落一時 憶う 初めて一を落とせし時、
但念豁可恥 但だ割にして恥ず可しと念えり。
及至落二三 二三を落とすに至るに及んで、
始憂衰即死 始めて憂う衰えて即ち死せんことを。
毎一將落時 一つ将に落ちんとする時毎に、
懍懍恆在己 懍懍たること恒に己に在り。
〔訳〕 思えば初め 一本が抜けた時は/口にすき間が出来て恥ずかしいと思うだけだったが/二、三本抜けたころになって/老衰して今にも死ぬのかと心配になった/一本抜けそうになるたびに/いつも心中びくびくしたものだ
叉牙妨食物 叉牙として物を食うことを妨げ、
顛倒怯漱水 顛倒して水に注ぐ漱ぐことを怯る。
終焉捨我落 終焉として我を捨てて落つれば
意與崩山比 意は崩るる山に比す。
今來落既熟 今来、落つること既に熟せり、
見落空相似 落つるを見れば空しく相似たり。
〔訳〕 どうもひっかかって食事の邪魔になり/揺れ動いて含嗽(うがい)にも気になるほどだったが/とうとう私を見捨てて抜けてしまえば/山が崩れたような気持ちがした/だか今では抜けるのに慣れてしまい/いくら抜けても みなおなじようなもの
餘存二十餘 余の存せる二十余りも
次第知落矣 次第に落ちんことを知る。
儻常歳落一 儻し常に歳ごとに一を落とすとも
自足支両紀 自ら両紀を支うるに足れり。
如其落併空 如し其れ落ちて併せて空しくとも、
與漸亦同指 漸くなると亦指を同じくさん。
〔訳〕 後に残った二十本余りも/どうせ次々に抜けるのだろう/もし毎年一本ずつ抜けたとしても/二十余年は十分にもつわけだ/一度に全部が抜けてしまっても/少しずつ抜けるのと結局はおなじこと
人言齒之落 人は言う「歯の落つるや、
壽命理難恃 寿命も理として恃み難し」と。
我言生有涯 我は言う「生は涯り有り、
長短倶死爾 長短 倶に死する爾」と。
人言齒之豁 人は言う「歯の割なる、
左右驚諦視 左右 驚きて諦視す」と。
〔訳〕 人は言う 歯が抜ければ/寿命も当然保ちがたいと/だが私は言う 人生には限りがあるもの/長命でも短命でも みな死ぬのさ/人は言う 口にすき間が出来れば/そばの人が驚いてじろじろみるだろうと
我言荘周云 我は言う「荘周がいわく、
木鴈各有喜 『木と雁と 各々喜ぶこと有り』と。
語訛黙固好 語訛れば黙すること固に好し、
嚼廢軟還美 嚼むこと廢れて軟かなもの
因歌遂成詩 還に美し」と因って歌って遂に詩を成し、
持用詫妻子 持して用って妻子に誇るらん。
〔訳〕 だが私は言う 荘周もいったように/木にも雁にも それぞれ幸運がある/ものが言いにくければ 黙っていることはよいことだ/ものが噛めなければ 柔らかいものがうまくなる/こう歌いつつ 私は一首の詩を作り上げた/これを妻子に見せびらかしてやろう
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