瘋癲爺 拙痴无の戯言・放言・歯軋り
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73a579a4.JPG Shinさんのコメントによれば、中国の知識人の中には日本のことを『扶桑』と呼ぶことがあるそうだ。そういえば、王維(『旧唐書』によれば699~759年、『新唐書』では701~761年)の日本へ帰国する阿部仲麻呂(698~770年)を送った詩の中にも日本は『扶桑』の外にある国だと詠っている。

  送祕書晁監還日本国  王維
 積水不可極  積水 極む可からず
 安知滄海東  安んぞ 滄海の東を知らんや
 九州何處遠  九州 何れの處か遠き
 萬里若乘空  万里 空に乗ずるが若し
 向國惟看日  国に向かって惟(た)だ日を看(み)
 歸帆但信風  帰帆は但(た)だ風に信(まか)すのみ
 鰲身映天黑  鰲身(ごうしん)は天に映じて黒く
 魚眼射波紅  魚眼は波を射て紅なり
 鄕樹扶桑外  鄕樹は扶桑の外
 主人孤島中  主人は孤島の中
 別離方異域  別離 方(まさ)に域を異にす
 音信若爲通  音信 若爲(いかん)ぞ 通ぜんや
(訳)
 大海原の水はどこまで続くのか、見極めようが無い。
 その東の果てがどうなっているのか、どうして知れるだろう。
 わが国の外にあるという九つの世界のうち、
 最も遠い世界、それが君の故郷、日本だ。
 万里もの道のりは、さながら空を旅してるようなものだろう。
 ただ太陽の運行と風向きに任せて進んでいくほかはないだろう。
 伝説にある大海亀は黒々と天にその姿を映し、
 巨大魚の目の光は真っ赤で、波を貫いくことだろう。
 君の故郷日本は、太陽の昇る所に生えているという神木(扶桑)のはるか外にあり、
 その孤島こそが、君の故郷なのだ。
 私たちは、まったく離れた世界に別たれてしまうのだ。
 もう連絡の取りようも無いのだろうか。

 『山海経』によると、東方の海中に黒歯国があり、その北に「扶桑」という木が立っており、そこから太陽が昇るという。

 黑齒國在其北 爲人黑 食稻啖蛇 一赤一青 在其旁 一曰 在豎亥北 爲人黑首 食稻使蛇 其一蛇赤 下有湯谷 湯谷上有扶桑 十日所浴 在黑齒北 居水中 有大木 九日居下枝 一日居上枝  『山海経』 第九 海外東経より
(訳) 黒歯国はその北にあり、人となり黒い歯、稲(こめ)を食い、蛇を食う。一つは赤く一つは青い。(蛇が)傍に居る。下(部)に湯の湧く谷があり、湯の谷の上に扶桑あり、ここは十個の太陽が湯浴みする所。黒歯の北にあり。水の中に大木があって、九個の太陽は下の枝に居り、一個の太陽が(いま出でんとして)上の枝にいる。
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メキシコ
 さすが瘋癲爺は知的情報が豊かですね。ますます勉強になりました。
 ところで、「扶桑」にかんしては、木の一種とか、日本ではなくメキシコを指す用語とか、ほかに色々解釈があるようです。あと、陶淵明の詩『閑情天賦』にも「扶桑」が現れているそうで、言葉の語源を探すことは面白いものですね。
シン 2011/08/05(Fri) 編集
Re:メキシコ
  願在夜而為燭  願はくは夜にありては燭となり
  照玉容於兩楹  玉容を兩楹に照らさん
  悲扶桑之舒光  悲しいかな扶桑の光を舒べ
  奄滅景而蔵明  奄ち景を滅して明を蔵(かく)すを 

(訳)願わくば夜の間は蝋燭となり、柱の間にそなたの姿を照らしたい、悲しいことに朝が来れば、日が昇ってわが光を隠すかもしれぬ

 陶潜にしては異色の『閑情賦』もいずれは冊子に纏めたいものです。
 【2011/08/05】
感服
 さすがです。瘋癲爺の分からない中国古典があるでしょうか。回答は否でしょう(拍手)。
シン 2011/08/05(Fri) 編集
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