Zeus(ゼウス)はギリシア神話の主神たる全知全能の存在です。全宇宙、天候(特に雷)、社会秩序を司る天空神でもあり、オリュンポス十二神をはじめとする神々の王であります。
ゼウスは天空神として、全宇宙や雲・雨・雪・雷などの気象を支配していました。Cyclops(キュクロープス、卓越した鍛冶技術を持つ単眼の巨人)の作った雷霆(keraunos〈ケラウノス〉)を主な武器としています。その威力はオリュンポス最強と謳われるほど強大なもので、この雷霆をゼウスが使えば世界を一撃で熔解させ、全宇宙を焼き尽くすことができるほどです。Tȳphōn〈テューポーン〉と戦う際には金剛の鎌も武器としていました。雷霆の一撃をも防ぎ、更に敵を石化させるAigis〈アイギス〉の肩当て(胸当てや楯という説も)を主な防具としますが、この防具はよく娘のAthēnē〈アテーナー〉に貸し出されています。
「光輝」と呼ばれる天界の輝きを纏った鎧に山羊革の胸当てをつけ、聖獣は鷲、聖木はOak(オーク、楢または樫)です。主要な神殿は、オークの木のささやきによって神託を下したĒpeiros(エーペイロス)の聖地Dodona(ドードーナ)、および4年ごとに彼の栄誉を祝福してオリンピック大祭が開かれたOlympia(オリュンピア)にありました。この他にも、「恐怖」という甲冑をGigantomakhia(ギガントマキアー)において着用しています。
Homeru(ホメーロス)の記述にみるゼウスは、2つの異なる姿で描かれています。一面ではゼウスは弱者の守護神、正義と慈悲の神、悪者を罰する神としてあらわされています。しかし同時に、次々と女性に手をだしては子孫を増やし、不貞を妻に知られまいとあらゆる手段を講じる神としても描かれているのです。
オリュンポスの神々たちは、ことごとくゼウスの眷属ではありましたが、その血族関係はまちまちで甚だしく複雑であるともいえます。彼の正妃は言うまでもなく女神Hērā(ヘーラー)とされてはいますが、その婚姻関係は必ずしも簡単ではありません。すなわち、彼は度々結婚していますし、多くの女神、無数の人間の女性と関係を結び、数多くの私生児を設けています。これを一途に彼の多情あるいは乱倫に帰して批判しようとしたのは、すでに古代の哲学者Xenophanes(クセノパーネス、BC570~478年)以下多くの進歩的な文化人によって試みられてはいますが、決して事態の真相を穿つものではありませんでした。
何故なら全ギリシアの王侯貴族名門等はみな自分の血統をゼウスに帰したいという熱烈な希望と努力とを固執してきたからであります。どうしてもゼウスは人間の女性と交渉を持たざるを得なくなるのであります。偏に咎むべきは「ゼウスの子孫」と誇称する人々であって、天上にいます御神は唯々慨嘆するほかはないのであります。
※Xenophanes(クセノパーネス):紀元前6世紀のギリシア哲学者で、ヘシオドスやホメロスを攻撃して、その神々について語っていることを非難したといいます。それはTimon(ティモン、古代ギリシアの詩人、回帰主義者)によって「高慢なところのないクセノパーネスは、ホメロスを曲解して叱責した人」と述べられ、後のプラトンのホメロス批判に通じているといわれています。
元来はバルカン半島の北方から来てギリシア語をもたらしたインド・ヨーロッパ語族系征服者の信仰した天空神であったと考えられ、ヘーラーとの結婚や様々な地母神由来の女神や女性との交わりは、非インド・ヨーロッパ語族系先住民族との和合と融合を象徴するものと考えられています。また自分たちの系譜を神々の父までさかのぼりたいという、古代ギリシア人の願望としても説明されることがあります。
sechin@nethome.ne.jp です。
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |