江戸語を真正面から取り上げた辞典も出るようになり、江戸語を以って江戸っ子の意志や感情を発表することが出来るようになるのです。
辞典の第一が「志不可起」(渋柿、享保13〈1728〉年)――詳しいことはよく判りません――であり、続いて「物類称呼」(安永4〈1775〉年)・「諺苑」(安政9〈1797〉年)と現れ、最後に最もまとまった江戸語辞典として「俚言集覧」が刊行されます。
これら諸書に現れている江戸語あるいは関東方言についていくつかを紹介してみましょう。
◇志不可起(箕田熹貞著?)
●まうに……関東田舎ニテ物ノたくさんナルヲまうにト云、猛の字の義か(もーに……副多く たくさん。日立・信州・福島県・茨城県・栃木県など)
●ぎをん……江戸ニテねり物と云。田舎辺ニテハまつりト云ノカヘ名ノ意(群馬・千葉・福井)
●くたばる……関東ノ卑俗詞ニ人ノ死ヲくたばるト云(東京・神奈川など)
●つぼい……関東辺二かはゆいト云事ヲつぼいト云、莟花(つぼみばな)ト云義カ(仙台・千葉・茨木・長野)
●をつかない……関東ノ俗ニ恐ロシキヲをつかないト云(江戸初期より)現代東京語まで」
◇物類称呼(越谷吾山著)
●あぢなし……食物の味わひうすき也 今日江戸共に無味(あじなし)と云 但し江戸にてうまくなひともいふ也 東国にてまづい
●おそろし……畿内近国あるは加賀及四国などにておとろしいと云(中略)駿河辺より武蔵近国にてをつかないといふ
●ゆるやかに坐する事を……京大阪にて じやうらくむといふ 関東にてあぐらかくと云又ろくに居る共いふ
●焦臭(こがれくさい)……京にてかんこくさし 紙臭なり。 東武にて きなくさいといふ 木にてはないにほひといふ云こころ。 尾張遠江へんにて かんこくさいと云 京にをなし
●他の呼に答える語……関東にて あいと云 畿内にて はいと云 近江にて ねいと云 薩摩にて をゝと云 肥前にて ないといふ
●南瓜(ぼうふら)……西国にて ぶうふら(中略)えどにて先年は ぼうふらといひ、今はかぼちゃ云
●かまきり……江戸にて かまぎってう 江戸田舎で はいとりむし 相模にて いぼしり又いぼくひ
◇俚言集覧(作者不明・太田全斎か? 「諺苑」の増補と考えて「諺苑」は省略)
●麻布で気が知れぬ……此れは江戸の諺なり 江戸の麻布に六本木と云所あり 何処に六本の木ありてかく名づけしやらしる者なし……人の気のしれぬになぞらへて……。
●いなせ……江戸にてみやびをいふ
●因業者(いんごうもの)……江戸の俗語に鄙吝(ひりん)にして少しもおもひやりなき者をさして目する詞
●お家さん……大阪詞 江戸で云おかみさんなり
●きやん……江戸の俗語 少女のはすはなるをいふ
●てんやわんや……江戸の俗語なり
●いき……江戸方言 風流と云がごとし 然れども風流にあらず軽揚の意を云
●でも……江戸の俗語に多くつかふ
●一かばちかやってみろ ●狗もあるけば棒にあたる ●色をかへ品をかへ手をかへ品をかへ ●いきがけの駄賃 ●鼻の下が長い 痴人を云 ハナタラシともうん ●鼻にかける ●馬鹿につける薬がない ●春海秋山(はるうみあきやま) 江戸の諺 春は海晴れ秋は山晴れて晴天 ●箸にも棒にもかゝらぬ ●はれものにさはるやう ●はしかは命ち定め疱瘡はみめ定め
以上少数例しか挙げることが出来ませんでしたが、江戸後期の江戸語の一端は知られるでしょう。「志不可起」では江戸の用語も少なかったのが、「物類称呼」になって詳しくなります。特に後者では江戸・江戸田舎・江戸近辺と細かく地域によってコトバを分けている点が注意されます。現代の東京語には姿の見えないものがあるのは当然ですが江戸田舎とか江戸近辺、さらに東国のコトバなどは時と共に江戸語に入り東京語へと再編成されていきます。これは江戸の広がりとも関連がありましょう。
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